管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

ON と OFF 切替が大事では?




2014/1


  このHPの愛読者の方ならわかると思うのですが、管理人稼業は、「肉体的疲労」よりも「精神的疲労」(苦痛といってもいいかもしれない)のほうが大きいです。いわゆる「モンスター住民」と呼ばれる人たちとの格闘です。格闘といっても、こっちは、「立場が下の人間」です。要するに、「人間サンドバッグ状態」でやられっぱなしです。

 また、モンスター住民だけでなく、なにかと接点のある「行政の人間」(=公務員)も、こっちが「管理人です」と名乗ったとたんに態度が変わり、見下すような対応に変わったりします。こういうことにも耐えないといけません。社会全体が「マンション管理人なんて、最下層の人間だ。エタ・非人だ」と思っているのです。

 この苦痛に耐えられなくて、管理人業を辞めてしまう人、精神を病んでしまう人がたくさんいます。

 この「精神的葛藤」を克服するために、いろいろと試行錯誤して、その結果、私の場合、「マンションへ来たら、人間としてのプライドを捨てる」ということをしました。言葉では簡単ですが、大変なことです。でも、いったん、「オレは人間じゃない。ただの奴隷だ。家畜だ」と思うと、そのあとは楽なんです。
(※この方法は、あくまでも、私の個人的な克服方法であり、皆さんに勧めるものではありません)

 さて、この「人間としての尊厳を捨てる」という行為ですが、24時間そうしろ、というものではありません。あくまでも、「勤務時間内」での話です。そう、仕事場を離れたら、「普通に人間に戻る」のです。

 
そのためには、「ON」と「OFF」の切替をきちんとしないといけません。

 朝、職場についたら、「人間を捨てる」。夕方、職場を離れたら、「人間に戻る」ということをしています。具体的に言うと、管理人業というのは、たいてい、「制服」を着ますから、服を着替えることにより、人格を変えます。



 さて、ここで問題になるのが、「通勤の途中経路で、マンション住民に会った場合にどうするか?」です。これは悩みました。以前、「誰からも好かれよう」なんて思ってた時には、マンションを出て帰宅する際の、通勤経路の路上で、マンション住民に会った場合でも、こちらから愛想よく、挨拶をしていました。しかし、「OFF」の状態で、「住民に挨拶する」というのは、いったん、中途半端に「ON」に戻すということであり、せっかく、「ONとOFFをしっかり切り替えよう」と思っているのに、これは、あまりよくありません。
 また、こっちが愛想よく、挨拶なんかすると、向うは調子に乗って、「あ、そうそう、うちの台所の蛇口が調子悪いのよ、今からちょっと見てくれない?」なんてことを言い出します。住民にとっては、「場所も関係ない」&「時間も関係ない」のです。あくまでも、「自分の言うことを聞く人間を見つけた」ってことです。こういう非常識な住民ばかりですから、相手なんかしてられません。

 さて、こういうのは困るわけでして、その後、私は「変装」することにしました。(芸能人じゃないんだけど)
 夏場は、「サングラス」と「帽子」です。冬場は、「帽子」「マスク」「マフラー」で変装します。顔見知りの住民と出会っても、シカトします。

 そういうわけで、職場マンションを離れたら、私は、「普通の人間」に戻ります。仕事のことは完全に頭から忘れ去ります。その日、どんなつらいことがあっても、いったん忘れるように努力します。そういうふうに切替ができないと、こんな(精神的に)しんどい仕事、できません。

 こういうことがあるので、これから、もし、管理人になろうとしている人がいたら、一言、アドバイスさせていただきます。
 「自分の自宅」と「勤務地マンション」の距離に関してですが、通勤時間のことを考えると、「お互いに近いほうがいい」と言えますが、近いと、「日曜日にショッピングセンターに買い物にいったら、勤務先マンションの住民と出会い、仕事の話をされた」なんてことが起きる可能性が高くなります。せっかくの休日に、仕事の話なんかされたら、休みになりません。
 私の場合、勤務地と自宅はかなり離れているので、自宅周辺で、マンション住民と出会うことはまずありません。これは、精神的には楽です。通勤は時間がかかるけど。
 そんなこんなで、「距離」を考えて、勤務先を決めることも大事だと思います。近いのは大変だと思いますよ。もし、夫婦で買い物に行ってる時に、マンション住民と出会ったら、その住民は、管理人の妻の顔を覚えてしまうわけで、妻が一人で道を歩いている時に、マンション住民に呼び止められて、「ご主人に、***をするように伝えておいて」とか言われる可能性もあります。家族にまで及んではしんどいと思います。よく、お考え下さい。

 ちなみに、私、3年前に、はるか離れた「箱根温泉」(神奈川県)に行った際に、箱根湯元の駅で、勤務先マンションの住民と出会ってしまい、「あのさ、管理人さん、ゴミ置き場の扉が固くて開閉が大変なのよ。直しておいて!」って言われたことがあります。この一件で、せっかくの「旅行気分」が台無しになりました。