管理人はつらいよ
マンション管理最前線
管理人の業務範囲 04/9追記更新 |
管理人の業務範囲の線引き、これは難しいです。多くの管理人さんが頭を悩ませている問題かもしれません。特に、真面目で親切な人ほど悩むでしょう。逆に、完全に割り切って、「それは管理人の仕事ではありません。関係ありません」と平気で言える人は楽だと思います。住民からは「融通のきかない人ね」と嫌われるかもしれませんが、私からすると、こういう管理人さんの性格はうらやましいです。
「適正化法」が施行されてから、管理組合との「管理委託契約書」の内容がしっかりしてきて、「業務仕様書」もかなり具体的になってきました。こうなると、「ここに出ていないことはしません」とはっきりいってもいいのです。でも、言えませんね。
特に、「前の管理人さんはやってくれたわよ」、この言葉はつらいです。これから管理人さんになる人が読んでいたらぜひお知らせしたいのですが、「前任者の質」によってあなたの評価は大きく変わると思います。前の人が何にもしない人なら、あなたはちょっとがんばれば「いい管理人さんね」と誉められるでしょうし、前任者が何でもやってくれる”お人好し”だったら、あなたは相当がんばらないと高評価は得られません。普通にやっていても「あの人はだめ。何もしない」といわれるかもしれません。
特に清掃に関しては、目ではっきりわかるものなので文句を言われやすいです。たとえば、高い場所にある照明灯の灯具の汚れ。汚いのはわかります。しかし、そんな高所用の脚立はないし、あったとしても危険な作業です。もちろん通常清掃の仕様には入っていません。でも、文句は来ます。本来なら「特別清掃」という分野になって、そういう危険なことでも平気な若いスタッフを呼んでやってもらうものなのです。(高層ビルの窓ガラス拭きみたいなものです。あそこまで危険だとわかりやすいです) また、このマンションは共用部分にコンセントがなく、廊下に蛇口があるわけでもありません。そのため、開放廊下の水洗い洗浄ができません。たしかに掃き掃除だけでもきれいにならず、我々も「なんとかきれいにしたいなあ」と思っています。しかし、別の専門業者に、ある程度のお金を払ってやってもらわないと、清掃はできないのです。「そんなお金はもったいない。掃き掃除で大丈夫」という組合の判断でずっときていますから、今後も特別清掃は行われずに、時々「なんとかきれいにできないの」という苦情は続くでしょう。
植栽に関しても、当マンションでは仕様書的には何もする必要はありません。水遣りにしても、そんなに長いホースがないため、全植栽に水をやることも不可能です。剪定も定期的に業者が来てやるだけです。普通、これだけだと、他のマンションでは管理人に文句が来るでしょう。しかし、幸運なことにこのマンションでは植木好きの住民が勝手に時々手入れをするので助かっています。(ただ、私も自腹で植木バサミを買って、気になったところはたまに切ってます) 「自分のマンションなんだから、できることは自分でする。業者に任せない」、こう思うことが大事だといえます。当マンションは築20年以上、「終の棲家にする予定」の人もいます。こういうご老人は、自ら動く人が多く、助かります。他のマンションでは「金払ってるんだから、なんでも管理会社がしろよ」と全住民が思っているところも多いようです。こういうところでは、土曜の午後に玄関ホールに捨てられた汚いゴミが、月曜の朝まで残っていたりします。誰も片付けないからです。
業務仕様書というのも大事なのですが、実際は契約時の理事会役員クラスしか内容を把握していないし、その役員も年度替りで交代すれば、新役員は何も知らない人だらけになります。法律によって重要事項は全戸配布されていますが、細かな業務仕様書も全戸配布しないと意味がありません。
この業務仕様書も問題があります。たとえばうちの会社のように、「フロントマンが理事会への心象をよくするために、本当はかなり難しいことなのに気軽に引き受けてしまう」または、「言われていないのに、”これもやります”と自分から言い出してしまう」、これは困ります。せめて、作成段階で現場に相談して欲しいです。何の相談も無く、「新年度から○○をやってもらう」と急に言われても、できることならやりますが、無理なものは無理です。そんな点取り虫行為をしなくても、ここは「毎月役所から配布される広報誌を町内会担当役員の代わりに配布している」「古新聞回収の業務をすべてやっている」など、仕様書に書いていないこと、他のマンションではやっていないことをたくさんやっているのです。そういうことをアピールして心象をよくしてもらいたいです。
ただし、1点だけ困った条文があります。「オールマイティ」ともとれる文です。それは「管理組合運営の補助」という1文。これを安易に入れられると、管理人は困ります。結局「何でもやる」ことになるからです。常識外のことでも、「組合の手助けは管理人の仕事でしょ」と言われるかもしれません。
とにかくマンション住民には常識は通じません。いまだに「カギ落としちゃって入れないのよ。管理人さんマスターキー貸して」なんて言う人もいますし、「業者さんが昼過ぎに来るから、この鍵を渡してあげて」と言って、部屋の鍵を預けようとする人もいます。住民の部屋の鍵を預かるのは厳に禁止されているのに。
なんでもかんでも「はい、いいですよ。やりますよ」と言ってしまう自分の性格、実に損な性格です。なんとか変えたいです。「できません」「やりません」と平気で言える性格がうらやましい。まあ、頼りにされていることを誇りに思うしかないのかな。(以上2003/7記述)
追記 2004/9
掲示板では、実際の管理人さんからの書き込みが増えてきて、この「業務範囲」の問題が議論されています。残念ながら、組合側と管理人側が論争するような形になっています。
私なりに考えてみると、「マンション住民が、管理人のことを知らなさ過ぎること」が一番の原因ではないかと思えます。インターネットの発達によって、情報公開はかなり進んできて、マンション管理会社の実態は、以前と比べると飛躍的に詳しく知られるようになりました。しかし、管理の最前線である”管理人”の実態は、当サイトなどほんの一部で公開されているだけで、まだまだブラックボックスの中です。別に隠すつもりはないのに、知られないのです。
そのため、住民サイドとしても、「どこからどこまでが管理人さんに頼んでいいことなのか?」わかっていないのではないでしょうか? 情報がないと、その結果、「管理人業務=住民が勝手に想像する仕事の範囲」となってしまい、住民一人一人によって、範囲が大きく変わります。「自転車が盗まれたって、これは我が家の問題であって、管理人さんには関係ない」と思う人がいる一方で、「水道の蛇口の調子が悪いから、管理人に直させよう(無料で)」と思う人もいます。
また、管理人自身も、どこまでが業務範囲なのか迷っています。管理会社できちんと指示してくれないからです。大手管理会社のような豊富な経験があれば、過去の蓄積をもとに細かな業務について、線引きができるはずですが、実際は「現場に任せる」としていることが多く、会社としては「面倒なことにクビをつっこむな」程度の指示しかしていません。大手になるほど、逃げる傾向がありますので、「住民の部屋には一切入るな」とか、「管理人は共用部分に関することしかしない」「現金は一切預からない」と線引きしているところもあります。
業務範囲というのは、国が決めることではなく、組合さんと管理会社で相談して決めるものです。「なんでもかんでもやれ」というのも、ひとつの選択肢です。でも、範囲によって、委託費の増減、そして管理人の給料の増減は当然あってしかるべきです。
例えば、自動車保険。いろいろなタイプ、オプションがあるのが当たり前です。車両保険の有無、搭乗者補償の有無、対物補償の限度額・・・・・などなど、いろいろ細かく内容が決められて、保険料が決まります。今の管理委託契約というのは、細かな内容をまったく決めないで「自動車保険」に入るようなものです。法律で細かな業務について記載するようになったといっても、実際は管理会社の用意した書類に、ろくろく目を通すこともせずにハンコを押すようになっており、管理人の業務内容を話し合って、変更・調整する、ようなことは皆無でしょう。(「ゴミ収集日の変更に合わせて、管理人の休日を変更する」、程度のことはありますが)
組合さんとしては、大変だとは思いますが、当サイトなどを参考にして、いちどじっくりと「管理人さんにやってもらいたいこと」を整理して、それを契約に組み込んでもらう、そして、内容にあわせた委託費の増減を行なうことが必要だと思います。また、管理会社としても、自動車保険のように管理人業務もタイプをたくさん提示して、その中から選んでもらうようにしたらどうなんでしょうか? 当然、保険同様、料金に差をつけます。 そして、タイプに応じて管理人給与も差をつけるべきです。「年金あるから、たいして稼がなくてもいい」という人には、業務の少ない管理人になってもらい、「何でもするから、高い給料くれ」という人には、仕事がたくさんある管理人になってもらう。いろいろあっていいのじゃないでしょうか?
オプション付管理人業務の一例
「外国人住民が多いマンション用に英語ができる管理人を配置する」
「部屋の中の電球の交換、水道パッキングの交換等、簡単な作業をしてあげる」
「年寄りの愚痴を聞いてあげる」
「共同募金の集金をする」
などなど。