管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

ベテランゆえに起すミスがある



2014/4


 私、若いときに「医療ミスで死にかけた」ことがあります。

 七転八倒の痛みで、病院へ行き、ひととおり診察を受けて、「これって、もしかして***じゃないですか?」って医者に言ったら、「違う違う、素人が何を言ってるんだ。***のわけがないでしょう? ***は、50歳以上の人がかかる病気だよ」と言われ、医者が診断した病気に対するクスリをもらって帰されました。

 クスリを飲んでもいっこうに良くならず、症状は悪化するばかり。それで、別の医者に行って診てもらったのですが、ここでも、「***は、年寄りの病気だよ、あんた、29歳でしょ? ***にかかるわけがない。99%ありえない」と言われ、また、その医者の診断する病気のクスリをもらって返されました。

 しかし、一向に症状は改善せず、死にそうな痛みに襲われ、また、別の病院へ。これまでの経緯を説明し、「2人の医者の言うことは間違いだと思うんです。本当は私は***じゃないですか?」と聞くと。
「そうだね。***ですね。すぐに入院してください。入院してクスリを飲めば直りますよ」とのこと。
「やっぱり、***だったんですか? じゃあ、前の2人の医者は誤診ですか?」
「そう、言わないでくださいよ。たしかに、29歳の人が、この病気にかかるのは非常に珍しいことなので、診断を間違えたとしても、しょうがないですよ」と、同業者を弁護しました。

 本当なら、最初の診察で、正確な病名が判明すれば、2〜3日の入院で済んだのに、症状が悪化してからの入院だったので、3週間入院させられました。3番目の医者曰く、「あなた、うちに来るのが、あと3日遅れれば、死んでいたかもしれないねえ」とのこと。危機一髪でした。とにかく、前の2人の医者は、誤診だったのです。この2人は、若い医者でもなく、片方は40代、もう片方は50代のベテランの医者だったのですが。

 同じようなことが私の友人にも起きました。やはり、誤診で、正しい病気の診断が遅れ、手当てが遅れ、不幸なことに、彼は死にました。有名な大学病院だったのですが。遺族は、医療過誤での裁判も考えたようでしたが、弁護士に「勝つのは大変ですよ」と説得され、引っ込めました。


 長い枕になりましたが、要するに、ベテランになると、過去の経験が豊富にあるため、その「経験」をもとに診断するようになるということです。
 これは、大体において、「いいこと」ではあるのですが、ベテランゆえに、「そんなわけはない。そんなことは私は過去に経験したことがない」という考えが発生してしまい、別の可能性の芽を摘み取ってしまうのです。ベテランだからこそ犯すミス、と言えるかもしれません。

 同じようなことは、管理人業でもあります。

 この商売も「経験」がものを言う商売で、豊富な経験があると、「管理人さん ***が+++で、困ってるんだけど。なんとかしてくれない?」って言われただけで、すぐに、だいたい、その原因がわかるようになります。
 ほぼ9割くらいの確率で、その考えがあたるので、自分でも「オレはすごいなあ」と思ってしまうし、住民側も、「さすが、ベテランねえ」と褒めてくれるので、いい気になってしまいます。

 でも、世の中には「100%間違いない」ってことはないんです。必ず、例外とかイレギュラーなことがあるわけでして。中途半端なベテランになると、その「例外」にまで考えが及ばないようになって、「先入観」や「経験値」だけで、物事を判断してしまうようになります。これで、「ミス」を起こします。これはいけないことです。

 以前、ベテラン風の水道屋が、漏水事故を担当したことがあるんですが、「オレの経験からすると、この漏水の原因はあそこだ」とか決め付けて、その推測箇所の床を掘ってみたら、そこじゃなかったこともあります。たいてい、中途半端なベテランというのは、えばったり、決め付けたがったりするものです。

 本当の「一流のベテラン」というのは、経験を生かしながらも、先入観を持たず、初心者の視点も持ちながら判断することができる人ではないかと思います。そして、態度はおだやかで、「オレから言わせると」みたいなことは言いません。

 そういう「広い視野」を持った管理人になれればと思っています。まだ、時間はかかりますが。