管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
過酷な住み込み勤務 |
「今日も良く働いたなあ。晩酌でもするか?」と呑気なことを言ってられないのが、住み込み管理人さん。
世帯数にして200を超えてくると、住み込み形式が増えてきます。一時期、かっこいい「防災センター」が作られるようになって、スタッフは3交代24時間勤務なんていうのがはやっていたはずですが、経費節減のせいか、また「夫婦住み込み」形式が増えているような気もします。
夫婦住み込み形式は、管理会社と管理組合ともに、大きく助かる勤務体形です。なにより人件費が安い。管理人は通勤の場合、普通手取りで15万円がいいところです。時給換算900円というところでしょうか? ボーナスは出ても、半月分。つまり「一年で1ケ月」という低さです。(不況で、というより昔から冷遇) これが夫婦住み込みの場合、「二人で25万円」。たったこれしか出ません。これが相場です。時給800円を切ります。しかし、なぜそんなに安くてもやっているかというと、「住居費・光熱費無料」だからです。マンションによっては、立派な2DKがあてがわれることもあり、その価値は10万円以上に匹敵するケースもあります。ある程度の広さをもらえれば、「好条件」かもしれません。といっても、「居室と光熱費は管理組合が提供する」という契約がほとんどですから、管理会社の懐が痛む問題ではなく、福利厚生にお金がかかる業界ではないですから、激安給料に変わりないのです。
さて、その実態ですが、かなり過酷のようです。なにしろ職場と生活の場がいっしょですから、公私の区別がつかなくなります。勤務時間としては「朝8時〜夕5時」「土日祝休み」になっていても、実際はサービス残業の嵐。過労死した人もいて、裁判になり、時間外労働が認められました。住み込みの場合、「真面目」「勤勉」「やさしい」「優秀」「面倒見のいい」人ほど過酷になります。本来なら「勤務時間外です」「今日は休日です」と断ればいいのですが、そうすれば、住民に「融通が利かない」「ちょっとくらいいいじゃない」などと批判され、ちょっとのサービスがどんどん膨らんで、早朝〜深夜、365日勤務になってしまうのです。住民1人にとっては”ちょっと”でも、人数がまとまれば”ちょっと”ではすみません。なにしろ、住居が管理人室である以上、住民からすれば、「そこにいるのはわかってる。いるなら相手してくれ」となるわけで、システム的に問題があります。住民もきちんと襟をたてなければいけないのですが、私のところでも、始業前や昼休みでも関係なく用を言いつける住民は少なくなく、「ここで、住み込みだったら、たまんないな」と推測してしまいます。住民以外にも業者の相手も大変です。オートロックマンションなら、玄関ドアの開け閉めもやってあげなければなりません。引越しも土日が多く、なかなか休みにくいです。
住み込み形式である以上、勤務時間外の労働が発生するのは明らかです。それなのに、この方式を採用するのは無理があります。せめて残業代を払うべきです。今回の裁判では、「勤務時間外であっても、管理会社の指揮命令状況下にあった」と認定しているため、画期的な判決で、関係各社に与える影響も大きいはずです・・・・。ただし、マスコミはそういいますが、実際ははたして? この業界は「そんな判決、屁でもない」と思う経営者ばかりですから、なかなか改善されないでしょう。
事実、警備職や設備管理職では、「隔日の24時間勤務」というのがいまだに存在します。朝8時から翌朝8時までの24時間働くのです。ただし、昼と夜に各1時間の食事休憩があり、深夜に6時間の仮眠時間があると、「実働16時間」ということにされます。こうすると、24時間勤務でも、1日8時間労働とおなじことになるのです。しかし、現実は「休憩といえども外に出られるわけでもなく、クライアントから呼び出しがかかればすぐに出動しなければならない」「仮眠といっても、計器盤の前で粗末なベッドに寝かされて、ぐっすり眠ることなどできない。警報が鳴ればすぐに出動する。深夜に用件を言いつけるクライアントもいる」という状態で、常に指揮命令下に置かれており、「労働時間外」とはとてもいえません。このことについて訴えた裁判(大星ビル管理事件)があり、最高裁で「仮眠時間も労働時間」と認定され、業界全体がショックを受けるはずだったのに、この勤務体制、いまだにあちこちで見かけます。どこも判決に従っていないのです。たしかに、素直に従えば「人件費が一気に50%増える」という莫大な影響を与える判決ですが、そんなお金の無いビルメンテナンス会社&クライアントはしかとを決め込んでいます。「ある会社の事例であって、すべての会社の仮眠時間が勤務時間に認定されたのではない」と言い訳しています。これでは、全部の現場の従業員が訴訟を起こさない限り、改善されません。厚生労働省もまったく動きません。なんのための判決なのか、意味がありませんでした。坂口君しっかりしろよ。そういうのを改善するのが公明党の精神だろうが。
ただし、管理会社がいい加減で、監視の目がゆるいと、「妻は管理人だが、夫は別のアルバイト」などという二束の草鞋を履く、調子のいい人もいるようです。とにかく、住み込み形式では、真面目な人ほどバカをみます。
追記 05/4/13
住み込み管理人の裁判 2
ちょっと前の新聞記事ですが。住み込み管理人が「残業手当の支払い」を求めて裁判を起こし、負けました。この方、朝も早くから起きて仕事をし、夜もヘルメットをかぶって巡回警備をしていたそうです。このことをご本人は「必要性があるから、やらざるをえなかった。業務として働いたのだから残業手当を支給しろ」と主張しました。一方、管理会社は「そんなことは命令していない。業務ではない」と反論、管理組合も「管理人さんにそんなことを命じたことはない」と言っているそうです。
原告、被告、どちらのいうこともわかるような気がします。特に、この管理人さんは、もと小学校校長だそうです。使命感もあるでしょうし、校長経験者ということは、「自分の判断で何をやってもいい」という役職を経験した人間です。独断で動きやすいです。管理会社というのは「管理人に払う残業代=会社のもうけが減る」ですから、公式に命令することはないでしょう。ただし、居住者は、「最近、物騒でねえ、心配なのよ。管理人さん、住み込みなんでしょう? だったら、夜に時々パトロールしてよ」と気軽に頼むことはよくあります。これが、理事長だったら「業務命令」ですが、一般組合員の口からだとしたら、業務命令にはなりません。しかし、「客である居住者から頼まれた。やらなくてはいけない」と考える、熱心な管理人はいます。
ただ、私だったら、残業代をもらいたいなら、会社側と相談して、「業務命令」を出してもらうように仕向けますし、「しょうがねえなあ。やってやるか」というものなら、残業代など請求しません。あくまでも無償労働、社会奉仕です。給料が安いから残業代が欲しくなる気持ちは重々わかりますが、自主的に動いて、「お金くれ」というのは、やはり、「元公務員」という感覚なんでしょうか?
けっこう、この業界、「元校長」とか「元教頭」なんていう人が多いようで、私には不思議でしょうがないです。公務員なら、蓄財もずいぶんあるはずですし、だいいち、社会的地位の高い職業だった、「プライドの高い人」に、こんな仕事できないですよ。「管理人になること=人間としてのプライドを捨てろ」だと、私は思っていますから。(採用する側にも問題あると思うなあ)
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