管理人はつらいよ
マンション管理最前線
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サイト読者から質問メールが来ました。
「たしか、法律で、管理会社の職員は身分証明書を持つようになったはずですが、うちのマンションの管理人さんに聞いたところ、”そんなのない”と言われたんですけど。どういうことなんでしょうか? うちの管理会社がモグリなんでしょうか?」
これは、「マンション管理の適正化に関する法律」の中で制定されたものですが、ザル法的なところがあって、管理人全員がIDを持っているわけではありません。ちなみに私は持っています。会社の方針としては「常時、首からぶら下げていろ」と言ってます。最近の大企業は全社員が常時ぶらさげているようですが、管理人や清掃員は肉体労働している時は、ジャマなので、実際は首から下げていません。「身分証明書の提示要求があった時にはすみやかに見せなさい」という法律なので、胸のポケットの中にしまって”携帯”しています。
さて、ご質問いただいたケースですが、おそらくは「下請けだから」だと思われます。ザルといったのには訳があって、「マンション管理会社の職員はIDを持つ」ことになっているものの、マンション管理会社から仕事を受注している、例えば”管理人を派遣する人材派遣会社”は、マンション管理会社ではないため、適性化法の適用は受けないのです。それに、いろいろな分野の仕事をしている会社の場合(マンション管理もするし、ビル管理もする、警備もする・・・・)、同じひとつの会社の社員でも、マンション管理に関するIDを持つのは、マンション管理部門の人間だけです。「●●マンションサービス」という名前でも、その社員がマンション管理の仕事ではなく、スーパーの駐車場の管理をしている場合、マンション適正化法で定めるIDは持つ必要がありません。
大きな管理会社の場合、”管理人派遣”だけを別会社にしていることがよくあります。この会社は実体は同じ会社でも、表面上は違う会社のため、「マンション管理会社」ではないのです。あくまでも”人材派遣会社”になります。ですから、ここから派遣されている管理人さんにはIDはありません。マンション住民としてはわかりにくいかもしれませんが、こういう仕組みです。設備点検用に専門の会社を下請けに使うように、管理人派遣の下請けを使っているのです。
今、マンション管理業界でも、ISO取得がブームです。管理会社がISOを取っているのなら、管理人もISOの規則に準拠した仕事をするだろう、と思っていても、下請けだと関係ないです。「うちの会社は全社員にみっちりと研修を行なう、教育訓練に力を入れている会社です」と宣伝していても、管理人が下請けの場合、「管理人もさぞかし、立派な研修を受けているのだろう」と思ってはいけません。別会社の職員なんですから。
管理会社の変更を検討している組合さんは、こういったことも十分に検討してください。マンション管理の肝心要が別会社というのは、私からするとおかしいと思います。基幹業務なのにね。
それから、激安を売り物にする管理会社の場合、子会社とか人材派遣会社とか使わずに、地域自治体の「シルバー人材派遣センター」を利用して管理人を勤務させているところもあります。この場合、管理会社としての研修もほとんどなく、ド素人がきます。人件費安いですから。縦のつながりがないため、会社との連絡体制もあまりよくないです。「管理人なんか、ただいればいいんだ。適当に掃除してればいいんだ」と考える管理会社は、こういった手法を取ります。当然、この場合もIDはありません。
もちろん、管理組合が自主管理の場合、組合が管理人を直接雇用するケースでは、管理人は管理会社の社員ではありませんから、IDはありません。
統計がないので実態はわかりませんが、こうやって考えると、「IDを持っていない管理人」の数はけっこうなものではないでしょうか?
本当は、国家資格で「管理人」というものを作ったほうがいいんですけどね。法律の知識も必要な、「けっこう優秀な頭脳」が必要な大切な仕事なんだから。そうやって、社会的地位を上げて欲しいです。でも、日本の場合、「資格産業、関係省庁が儲かるばかり」になっちゃうから、無闇に資格を制定するのはよくないんだけど。