管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 なぜ新人が派遣されるの? 

リプレイスしたばかりの重要なマンションなのに?


 
  「もちろん、優秀な管理人を派遣します」と、営業マンは言うものの。


 昨年秋に管理会社を変更させた(=業界用語で「リプレイス」といいます)ばかりのマンションの理事長Cさんより、質問をいただきました。

「リプレイスさせたマンションというのは、前管理会社になにかしらの問題があるからこそ、管理会社を変更させたはずです。つまり、住民側がマンション管理に対して、コストだけではなく、管理の内容や質に、相応の関心や不満を持っているということ。当然、管理人の質も重視しています。それなのに、派遣された管理員はまったくのど素人。会社側で最低限の研修を施したとしても、右も左もわからない状態です。私たちとしては、どこか別のマンションからベテランの管理人をよこしてくれるとばかり思っていたのですが・・・・・?」

 
疑問に思うのは当然です。これでは、この新人管理人さんが一人前になるまで(2〜3年はかかるかな?)、管理の質が確実に落ちてしまいます。「質を上げようと思ってリプレイスしたのに、逆に質が落ちてしまう」ということになります。リプレイスに尽力された役員の皆さんにとっては、「管理会社を変更すれば管理の質がよくなりますよ」と組合員に訴えて、変更を成功させたはずですから、面目まるつぶれの状態でしょう。

 このように、「リプレイス=質向上」というのは、新管理会社の営業マンにとっては常套句ですが、
実際は幻想なのです。信じるほうが甘いです。
 たしかに、前管理会社の質が悪かったとしても、そのマンションにおける、それなりの経験の蓄積というものがあります。「給水ポンプは3年前に交換した」といった設備メンテの記録もあるはずです。管理人サイドとしたら、「住民Aさんは3年前にパラボラアンテナを勝手に取り付けて問題を起こした」「住民Bさんは、夫婦仲が悪くて、よく深夜に大喧嘩して、他住民に迷惑をかける」「住民Cさんは、ちょっとしたことでもすぐにキレル。マナー違反を指摘するときは細心の注意が必要」「住民Dさんは、痴呆症のおばあさんのため、”火事だ””泥棒だ”と騒ぐことがある。現場を確認してから110番しないと大変なことになる」・・・・といった居住者に関する情報の蓄積もあります。そういった”経験”が管理会社変更によって、いったんリセットされるのです。わかりやすくいうと、たくさんの情報が入ったパソコンがある日突然クラッシュして、データが全部消えてしまうようなものです。「そんなことはない、パソコンでも外部メディアに情報をバックアップさせることが可能なように、前管理会社→新管理会社への業務の引継ぎというのが行われるはずだ」とおっしゃるかもしれません。

 失礼ながら、その考えは甘いです。たしかに、「引継ぎ」はありますが、これは極めて眉唾ものです。よく考えて下さい。前管理会社としたら、「楽勝でぼろもうけできた現場を失うことになる」「管理人はクビになる」という最悪の事態です。そんな状況下、新管理会社に対して親切に引継ぎなどするはずがありません。「あとはお宅で勝手にやってよ。うちはもう関係ないんだから」という態度です。いわゆる「知らん振り」です。
 管理会社に「立つ鳥跡を濁さず」といった思想はありません。それに、クビを切られるような管理会社は、書類の保管もルーズです。設備点検の報告書ですら紛失しているかもしれません。会社の倉庫を良く探せば見つかるかもしれませんが、そんな面倒なことはしません。「紛失した」で終わりです。「善管注意義務違反だぞ」と責めても、クビにされる管理会社にしたら、そんなの何の意味もないです。

 新管理会社にしても、「契約さえ取れればこっちのもの」と思っています。「変えたばかりで、またすぐに別の会社に変更などということはありえない。そうなれば、変更を推進した役員にとっては、自分たちの責任を認めたことになる。そんなことはしたがらない」と、たかをくくっていますから、「釣った魚に餌はやらない」と同様、そんなに一生懸命に管理することはないのです。
 ですから、組合側からしたら、「当然、優秀なベテラン管理人を派遣するはず」と思っていても、それは単なる思い込みに過ぎません。契約時に、そういったことを文面にして確約を取らない限り、普通はド素人新人を遣します。「新人で大丈夫なの?」と聞くと、「大丈夫ですよ。うちは研修制度がしっかりしてますから」と大手ほど答えます。優秀なベテラン管理人というのは、今いる現場で信頼を勝ち得ている人です。そんな人を引き抜けるはずがありません。そこの住民が許さないでしょう。「優秀なベテラン管理人がいなくなって、ド素人新人がやってきて、管理の質がガクンと下がった」といった事態になれば、そのマンションでは、リプレイスの動きが出てくるかもしれません。そんなリスクをわざわざ負うことはしません。それに当事者の管理員としても、「慣れたところで働きたい。今更新しいところは疲れる。」と思っているでしょう。激安給料の管理人職です。「給料を2割増しにするから、別の現場に行ってよ」と会社側がいうことなどありえません。(だいたい、リプレイスを勝ち取ったということは相当ダンピングしているはずで、コストはかけられないはずです。組合側も、管理委託費を下げたのに、「優秀な管理人が欲しい」というのは、ないものねだりのわがままです。) 「条件が変わらないなら、今のままがいい」と考えるのが普通の神経でしょう。ですから、リプレイス後のマンションにベテラン優秀管理員が移るということは、あまりないです。まあ、新しいマンションと優秀管理員の住まいがとても近くて、「通勤が楽なほうがいい」とその人が思えば別ですが。

 「リプレイスしたから、もう大丈夫」ではなく、「リプレイスしたら、新体制が軌道に乗るまではいっそう大変な苦労が待っている」と自覚して下さい。目先の「管理委託費の安さ」につられてはいけません。


2005・1