管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 寮の住み込み管理人さんの悲惨な状況 


  
 「行ってらっしゃい。お仕事がんばってね」

 板橋の事件、少しずつ明らかになってきて、「住み込み賄いつき寮管理人」の悲惨さも明らかになってきました。

 報道によると、「父親に仕事の手伝いをさせられたのが嫌だった」「引越しばかりで、学校を転校しなくてはならず、友達ができなかったのが嫌だった。父親は”今度は転校はない”と約束したのに、それを裏切った」「母親は毎日”仕事がつらい。死にたい”と言っていて、死なせてあげようと思った」といった話を、犯人である少年(一人息子。15歳高1)がしていたそうです。

 今日の昼食時、いつもの定食屋で顔見知りの管理人Dさんに会いました。当然ながら、この事件の話になりました。そうしたら、「山内さん、俺、実は昔、寮の管理人やっていてねえ。大変なんだよ。女房が死んだのも、今でいう過労死だと思うんだ。今回の事件、他人事じゃないよお。悲しいよお・・・・・」と、過去のことを教えてくれました。

 マスコミは「管理人」としてひとくくりにしがちですが、「マンションの管理人」と「企業の寮の管理人」はまったく違うようです。マンション管理人は、マンション管理会社の人間(もしくは下請け)ですが、寮の場合は、「給食会社」の人間になります。これは、寮だけでなく、社員食堂なども運営しています。私がたまにいく、市役所の食堂も、そういう会社がやっています。

 一番大きく違うのは、「食事の提供」です。管理人といっても、賄い作業がメインだそうで、これが激務らしいです。Dさんが勤務していた寮では、朝食は7時〜8時、でも、6時から準備を始めるそうです。8時〜9時はあとかたづけです。6時半から8時半までは、応援のパートさんが手伝ってくれるそうですが、「応援の時間が短すぎる」とのことです。夫婦二人で、6時〜9時まで、懸命に働くそうです。その後、寮内の清掃や事務仕事で、11時まで働きます。(計5時間) しかし、実際には掃除が終わるのは12時だそうで、サービス残業になるそうです。
 その後、長い長い昼休みになります。外出しようが何しようが自由のはずですが、留守番として夫婦の片方はたいてい残っているそうです。これもサービス残業です。
 夜の労働時間は6時〜9時(3時間 朝とあわせて8時間。労基法遵守のつもり)です。夕食は7時〜8時で、これもパートさんが手伝ってくれます。といっても、実際の準備は5時から始め、夕食時間に遅れて帰ってくる社員のために、片付け、明日の朝食の準備、すべて終わるのは10時そうです。
 このように、普通に勤務していても、1日の労働時間は10時間になり、2時間のサービス残業が発生しています。寮という空間では、それ以外の時間に何か起きて対処することも珍しくなく(トイレでタバコ吸って、感知器を鳴らしたり・・・)、年間のサービス残業の総時間はかなりのものになるそうです。おまけに、今のご時世、どこの企業でも福利厚生費は激減しています。下請けに出すお金も減り、それはパートさんの減員、勤務時間の減少になり、そのしわ寄せは管理人夫婦にいきます。そして、そのしわ寄せが、管理人夫婦の子供に行くこともあるそうです。掃除の手伝いをさせたりするのです。「子供に手伝ってもらわないと、こっちが倒れる」そうです。こんな状態ですから、子供の面倒をしっかりと見ることもできないそうです。「いつも、ほったらかしで悪いことをした」と、Dさんも反省しています。

 今回の事件でも、給食会社の管理職が、その寮を以前視察した際、犯人であるその長男が掃除をしているのを見かけたそうです。その社員は、「えらいなあ。両親の手伝いをしてくれてるのか」と感心したそうですが、労働契約を結んでいない(もちろん、15歳未満で働かせられない)、無報酬である子供が、両親の手伝いをせざるをえない状況、そういった状況に追い込んでいる会社の経営姿勢を考えずに、ただ、「えらいねえ」と感心しているとは、こいつ、愚か者です。会社が悪いです。

 Dさんによると、こういった悲惨な現場もあれば、「食事を出さない寮はすごく楽だよ。給料は安くても、部屋代・光熱費がゼロだから、夫婦でけっこう貯金して、辞めてから家建てた人もいるよ」とのことです。マンション管理人もそうですが、配置される現場によって、ピンキリ、天国と地獄だそうです。世の中、なんでも運・不運がありますねえ。
 
 転勤に関しては、Dさんの会社は考えているようで、「子供が小中学生の時は、極力転勤させない」制度になっているそうです。ただし、高校生以上になると、有無をも言わせず転勤させるそうです。今回の事件も、転勤がひとつの原因ですから、どこの給食会社も考えるべきことです。
 Dさんによると、「日頃から調子のいい、本社におべんちゃら言うような要領のいい人だと、子供が大学に入学した際に、その大学の近くの現場に転勤させてもらい、しっかり4年間働いて、その後すぐに退職した人もいる」そうです。人生いろいろです。私も要領悪いから,損な性格だなあ。

 とにかく、今回の悲惨な殺人事件。その原因のかなりの部分が、「住み込み管理人」の勤務形態によるところだと推察できます。業界は、これを機会によく考えるべきです。今までも、マスコミに出ない、悲劇がどこかで繰り返されてきたことでしょう。

嗚呼、やっぱり管理人はつらいよ。

 <追記1>
 Dさんによると、給食会社の管理人というのは比較的若い人も多く、その点ではマンション管理人と大きく違います。食事の提供は激務ですから、年寄りには務まらないそうです。高齢の人はいったん一線を退いて、「住み込み管理人の休暇取得の際の代替要員」として、時々手伝いにいく、”パート”として働くそうです。

<追記2>
 マンションの場合も住み込み管理人さんは、深夜でも仕事をさせられることがあります。そして、住民が「住み込みなんだから」と、それを平気で容認しているところが問題です。労基法守ろうよ。8時間以上働かせちゃだめだよ。


2005/6