管理人はつらいよ　　　
マンション管理最前線

表面上は優秀な管理人

猫かぶってます。

　　ご近所の「クレヨンマンション」（＝管理会社変更を実施した）の管理人さんに関することです。

　シンチャン管理という管理会社はどうしようもない会社なため、会社を変えることには住民はほぼ全員賛成だったのですが、「今の管理人さんはいい人だから、残せないの？」という意見がけっこうたくさんあって、理事長が驚いたそうです。というのも、管理会社の実情を調べ始めた理事長にとっては、この管理人が実際はろくすっぽ仕事をしていない（掃除だけ一生懸命）、実は巧妙にさぼっている」ということがわかっていたのです。「これほどひどい管理人なのに、なんで、こんなに評判がいいのだろう？」と不思議に思い、一部の住民にインタビューしたそうです。

●「朝早くから出勤して、掃除をしている」（勤務時間の定時よりも前に）
●「朝会うと元気な声で挨拶してくれる」
●「子供をかわいがってくれる。子供がよくなついている」
●「マンションの周囲の公道まで掃除している」
●「玄関ホールがいつもピカピカ」
●「共用部の電球が切れたら、すぐに取り替えてくれる」　

一部、「挨拶をする人と、しない人がいて、相手によって使い分けているようで、感じが悪い」というマイナス意見もありましたが、ほとんどが「いい人」という意見でした。

　どうやら、ポイントは「子供」と「掃除」のようです。そして、理事長さん、数日間、管理人の行動を監視したそうです。

　この管理人さんは、始業時間の１０分前には掃除を始めます。「サービス早出」です。この”１０分前”というのがポイントで、小学生が集団登校に出かける時間帯なのです。つまり、多くの子供と母親に会う機会です。この時に玄関ホールをせっせと掃除し、かつ、大きな声であいそよく挨拶すると、管理人のポイントはぐっとアップするのです。その後は、幼稚園児の登校時間です。この時も、「●●ちゃん、かわいいねえ」と、幼児に愛想良くすると、母親も気持ちよくなり、好感度がアップです。とにかく、大勢の住民が玄関ホールを出入りする時間帯に、「一生懸命に掃除をする自分の姿」を見せ付けるのです。これは、いい手です。
　しかし、朝の通勤通学ラッシュが終わり、マンションの玄関ホールとか、周囲の公道の掃除が終わると、管理員室に引っ込んで、外に出てきません。ゴミ置き場も整理することありません（まだ、分類方法改正前で、いい加減な分類で良かった）。この理事長は、歴代の理事長の中で初めて、共用部分のマスターキーのコピーを受け取り、いろいろな場所に入れるようになりました。今まで誰も入ったことのない屋上や貯水タンクのフェンスの中など、いろいろ回ってみたそうです。そうしたら、ふだん、住民の目に触れない場所はずいぶん汚かったそうです。また、屋上エレベーター室のドアの鍵が壊れているのに、報告がされていませんでした。
　毎日記録する「清掃記録表」という書類があったために、それを見せてもらったら、毎日しっかりとすべての部分を清掃したことになっていました。しかし、理事長はこの記録がウソであることを見抜きました。「あの日は一日中雨だったのに、天候欄に晴れと書いてあるぞ。だいたい、雨の日に、屋外の場所の清掃はできないだろ」と気づいたのです。実際は、住民の目につきやすいところだけ掃除して、記録表も毎日つけるわけではなく、１ヶ月に１回、まとめて適当に書いていたのでした。今まで誰も、それをチェックする人がいないのですから、好きなように書けます。
　共用部の電灯のチェックは毎日実施していました。これはえらいことですが、「毎日、昼間に約３０分間、すべての電灯を点灯させることは電気の無駄ではないか。過剰サービスではないか？」、と理事長は思ったそうです。

　その他にも、
●自転車置き場の自転車を全然把握していない。シールを発行しなければならないのにやっていない。（もらいに来ない住民も悪い）　１世帯１台分の自転車置き場しかないのに、何枚もあげる。エレベーターに乗せて自宅前の廊下に自転車を置いていても注意しない。植木や置物が廊下にあってもしらんぷり。盗難自転車が１台ずっと放置されていた。　
●空き巣が入ったり、バイクをいたずらされたり、自転車が盗まれたりしても、それを公表しない。
●「上の部屋の住民がうるさいんだけど」といった苦情があっても、「専有部分内のことは関知しません」といつも逃げる。
●「インターホンが壊れたんだけど、点検・修理してくれる業者はどこかな？　紹介して」と言われても、「専有部分内ですから」と断る。（インターホンは共用部分とも重なるので、門前払いはまずい）
●設備点検のチェックなどしないため、会社側が貯水槽清掃実施を忘れていても、管理人も気がつかず、予定実施日から半年過ぎてようやく実施した。
●ベランダではなく、廊下にパラボラアンテナを取り付けた、規約違反住民がいるのに、知らん振り。
●共用部に勝手に自分の鉢植えを置いている人がいても注意しない。
●朝は早出しているが、終業時はいつも１０分早く帰っている。

　このように、いろいろあります。厳密に言えば「何もしない管理組合が悪い」ってことなんですが、管理人として、最低限、「こういう違反行為がありました」という報告を理事長にすべきです。この管理人、はっきりいって、掃除しかしてなかったみたいです。それも一部分の。要するに管理人ではなく、清掃人なんです。

　
　以上のことを逆サイドから考えると、「住民の大半から好感を持たれるためには何をしたらいいか？」ということがわかります。（騙し方といったほうが適当かもしれません）　もちろん、本当のぐうたら管理人にはできませんが、少ない業務量で大きな好感度を得ることが可能になります。実態を知る少数の人からは「あの管理人は良くない」と思われますが、半数以上に好感を持たれれば、ＯＫです。特に悪質住民から、「あの管理人は自分がどんなにひどいことをしても何も注意しない。いい管理人だ」と思われることは大きいです。

☆朝は早めに出勤する
・・・日本人はサービス残業を美徳とする悪癖がある。

☆挨拶ははっきり大きな声で
・・・何も仕事をしてなくても、挨拶が元気だと、いい人だと思われる。

☆仕事中の姿を多くの住民に見せる
・・・住民がたくさん通る時間を見計らって掃除をする。本当は掃除しにくいから時間をずらしたほうがいいんだけど。

☆玄関ホールは重点的に掃除する
・・・一番目に触れる場所をきれいにする。目に触れないところは不要。特にガラスの汚れは目立つから重点的に。

☆子供をほめる　子供を相手にする
・・・子供のことになると母親は甘い。子供をほめてくれる人。子供の相手になってくれる人は、いい人である。そして、主婦は昼間いることが多い。管理人を目撃しやすい人を手なずけておくことが肝要。子供と遊んでいると、本当に遊んでいても、「よく仕事をしている」と誤解する。

☆マンション以外も掃除する
・・・「こんなところまで掃除してくれているんだ。えらい人だなあ」と思わせるとポイントアップ。当然、住民の出勤時間を狙う。

☆電灯チェックはまめに
・・・日中働いている人にとって、管理人の仕事の様子を垣間見ることはほとんどない。そういう人が、「なんだ、この管理人は。ちゃんと仕事してないんじゃないか？」と思わせるのは、切れた電灯をそのままにしておくこと。これは、夜は暗くなるので目立つ、わかりやすい。チカチカした日の翌日にきちんと替えてあると、「この管理人、仕事できるな」と思わせられる。

☆都合の悪いことは、見ん見んゼミ
・・・ゴミの出し方が悪い住民がいても注意してはいけない。管理規約を守らない住民がいても、しかってはいけない。とにかく、シカトすること。こうすると、「あの管理人、俺に文句いいやがって」と逆恨みされることはない。管理会社に「うちの管理人はダメ」と告げ口（時にはウソの罪を擦り付けられることもあり）するのは、こういう悪質住民であることが多いため、悪質住民に嫌われることは極力避けたい。悪質住民の乱行の被害者は、告げ口などしない。正義感など出して、注意してはいけない。

☆顔やスタイルがいいこと
・・・通いの管理人の場合、勤務時間の関係で、管理人の姿をよく見る人は主婦＝女性が多いということから、不細工な管理人よりも、いい男の管理人のほうが好印象を受けるのは当然のこと。顔は直せないが、身だしなみはきれいにできる。働かない管理人は、身奇麗だから、働かないほど好感度アップ。

☆なんでもかんでも、「専有部分のことは関係ありません」と逃げる
・・・いちおう筋が通っているので、住民は反論できない。反論してきても、管理会社側も、同じ返答をすればいいだけのこと。

☆他人のせいにする
・・・本当は自分の清掃範囲でも、「特別清掃の業者が手を抜いたようです」とごまかす。管理人が貼り忘れた「エレベーター点検の予定」の貼り紙も、「会社から来るのが遅かったので」と責任転嫁する。管理に無関心、理事会もろくに開かれず、フロントマンと住民が接する機会がほとんどないマンションでは、うそはばれない。


　以上を参考に、あなたも「偽優秀管理人」になってみたらどうですか？　無関心マンションなら１０年はばれないですよ。

　この管理人さん、住民アンケートでは、「残って欲しい」票が過半数を超えたんですが、過去のサボリが次々に露見し、「厳しい新会社と厳しい目を持つ新理事長の下では、今までどおりのさぼりは無理だろう」と観念したのか、会社変更時に自ら辞めました。

　とはいえ、「給料に比べれば、それでも、いい仕事していたはずだ」というのは正論です。見えるところの掃除だけでも大変ですから。

2005/8

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