管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

学歴や経歴を詐称する管理人


ウソをつくほうが、他人にとって幸せ

 
 ひねもす野ダリさんの書いたネタをぱくって、新たに書いてみました。

 実は、私、今、自分の学歴や経歴を詐称しています。

 もちろん、入社の際の履歴書には本当のことを書きました。でも、今、マンションの住民と接するときは、「ウソも方便」で、学歴も職歴も、適当にウソをついています。これには理由があります。

 以前、着任してまもなくの頃、ある住民が管理室に来て、
「うちの子供が難関の**大学に合格したのよ。受かったのよ。良かった良かった。わああ、うれしい。管理人さんもお祝いしてよ!」と喜んでいました。その際、その**大学が私の母校だったため、「そうなんですか、それは良かったですね。じゃあ、++君は私の後輩になるわけですね。よろしくお願いします」と、口をすべらせてしまいました。

 実は、こういうのって、管理人業界では禁句なんです。でも、私は当時新人で、そういう事情を知りませんでした。

 私の発言を聞いた後、その住民は、顔面から血の気が失せ、しばし、呆然としてました。

「え? 管理人さん、**大学出身なの????」

「はあ、そうですが、それが何か・・・・・・」

「**大学出て、今、管理人やってるの?」」

「はい、リストラだなんだといろいろありまして」

「そうなんだ。へえ、そうなの・・・・・・」と

さっきまで、欣喜雀躍として喜んでいたのに、態度が豹変し、がっくりと肩を落として帰っていきました。

親としては、息子が受験勉強がんばって、難関の「**大学」に合格し、天にものぼるような喜びだったのに、その卒業生がマンション管理人をしていることを知って、愕然としちゃったんですね。まあ、そうかもしれません、一般の人にとって、マンション管理人は「下の下」の職業です。社会の最下層の人間です。そんな人間が、**大学の卒業生であってはいけないのです。これからの夢が台無しになってしまうのです。

ということをあとで理解しました。言ってみれば、「受験の神様」として有名な菅原道真が、実は、「勉強は出来たが、処世術は下手で、左遷されて、九州に飛ばされ、失意の中で死んだ」ってのを初めて知ったときと同じ気持ちなんでしょう。私もこれを知った時は、「天神様におまいりしたって、最終的に、左遷で死ぬなんて最悪ジャン! 参拝なんかするんじゃなかった」と思いましたもん。



というわけで、その後、その時の住民一家が転居したこともあり、私は、実家の近くにある高校の「高卒」ということにしました。そして、もちろん職歴に関しても部下数十名がいた中間管理職なんてことは伏せて、「運送会社でドライバーをして勤務していたが、会社が倒産し、管理人になった」ってことにしました。運送会社勤務は学生時代のアルバイト経験があるので、なんとか話を合わせることができるからです。

こうすると、住民と会話して、学歴を聞かれても、そう答えると話がスムーズにいき、誰も顔面蒼白になったりしません。

こういうウソは、許されるウソだと思うのですが、いかがでしょうか?


 


2013/3