管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

管理人の仕事は命がけ  けっこう危険なんです




 
 「管理人なんて楽な仕事」と思っている人が多いです。たしかに楽なところもあるかもしれません。でも、意外と危険な仕事であることを認識していない人がマンション管理業界の人間であっても多いです。

 「マナー違反住民とのトラブルで、逆恨みされて刺される」といった「対住民関係」の危険も大きいですが、今回はそれは置いておいて、ハード面での危険なことをいくつか紹介しましょう。そして、「新人管理人さん」などは、それを勉強して、自分を守って下さい。

 まず、前提条件として「管理人は高齢者が多い」ということが重要です。若い人よりも「体力がない」「運動神経が劣化している」「目も悪い。五感が全部悪い」、そして、「慣れない初めての仕事で経験値が低い」といったことを了解して下さい。


<屋上で作業する>

住民が通常出入りできない屋上の場合、外周部に柵等はありません。足を踏み外せばそのまま地面に落下します。
14階の屋上なんて、本当に高くて怖いですよ。
それに、屋上は地面よりも風が強く、そして、急な突風が吹くことがあります。「大丈夫大丈夫」と言って、屋上で作業している際に突風が吹いて、体が傾くことだってあります。気をつけましょう。
ご近所の管理人の中には「危険だから、俺は屋上での作業は一切しない。やらせるなら、危険手当を出せ」と言っている人がいますが、これも「わがまま」ではなくて、正当な主張だと思います。

屋上って、「カラスがどこからか物を集めてくる」こともあり、予想外にゴミも多く、こまめな清掃作業も必要なので、管理人が屋上に出る機会は意外と多いのです。

そして、一番危険な作業が、「屋上の、そのまた上にある、給水タンクにのぼること」です。給水タンクというのは、高い場所から重力差で水を給水しますから、最上階の部屋の位置からさらに8メートルくらい上に設置されています。たいていは、エレベーターの機械室のその上にあります。これは、相当高いです。ライオンズマンションさんでは、美観のことも考えて、給水タンクの周囲を壁で囲み、そこに、あの有名なマークを貼ってあります。これは、「美観」だけでなく、「周囲を壁で囲むことによる安全策」も兼ねていて、素晴らしいことです。タンクの上で作業している時(毎月1回、点検があり、年に1回、清掃がある)に万一落下事故が起きても、その壁の中だけの事故であり、地面までまっさかさまに落ちることはありません。
しかし、当マンションの給水タンクはむきだしです。それに、建物の端っこに設置されているため、万一、タンクの上でバランスを崩して落下するようなことがあると、落下防止措置は全然ありませんから、そのまま、地面に激突、一瞬であの世行きです。私も時々、設備点検員の手伝い等で、給水タンクの上にのぼることがありますが、「危険手当くれ!」と叫びたくなるほどの危険度で、怖くて怖くて、死にそうです。
また、普通のマンションでは、タンクの上にのぼるさいのハシゴのまわりに、「転落防止」のために、円筒状のパイプのようなものがあり、万一、はしごから手を滑らせてバランスを崩しても、そのパイプの内側にあたって、最悪の事態を避けられるようになっているのですが、このマンションには、そのような保護装置がありません。ほんとに、むき出しなんです、これじゃ、植村直美さんみたいな「命知らずの冒険野郎」じゃないと、このマンションの給水タンクの上にはのぼれません。


<蛍光灯の交換>

脚立を使用して交換しますが、この脚立というのも安全な使用方法というのがあり、それを守らないと危険です。(脚立使用による労災は意外と多く、入社時研修でやるべき項目だと思います)
普通の廊下なんかだとそんなに高くなくて楽だとお思いでしょうが、実はマンションの廊下床部分は、水を流すために、外側に傾斜があり、厳密には水平ではありません。脚立の上に乗ると、その傾斜が増幅され、「こんなに傾いているの?」と思います。廊下には当然柵があり、普通はそこから外に落ちることはありませんが、脚立の上に立って、傾くと、容易に外に落下しますから注意が必要です。
また、部屋のドアのまん前にある蛍光灯を取り替える際は、脚立の上に立っているときに部屋のドアが突然開くこともあり、それも考慮しないと危険です。私は、その場合は、インターホンでそこの住民に「交換中なのでドアを開けないで」とお願いします。「ちゃんと交換しましたよ」と伝える効果もあります。(夜勤で、昼間寝ていることがわかっている部屋にはしません)

一般的な廊下は普通の脚立でOKですが、外周部の「高い場所にある蛍光灯」などの交換は大変です。当マンションには「高所用の大型の脚立」もあるんですが、正直言ってそれに乗るのはこわいです。なるべく避けたい作業です。極力、「月に1回実施される、専門家による設備点検の際に、その作業員にお願いしてやってもらう(彼らは高いところも得意)」ようにしています。とはいえ、そうはいかない場合もあります。この時は、清掃パートの人に、脚立の足元を固定してもらいながらやります。管理人1名しかいない現場では、高い脚立を使用するのは絶対にやめたほうがいいと思います。


<一階住居の屋根の上の掃除>

このマンションの1階住居のベランダには、ちょっと大きめのひさしがあり、2階以上の部屋からタバコをポイ捨てしたりすると、そこにゴミがたまります。本当はこんな危険な場所の掃除なんかしたくないんですが、住民から「あそこのひさしの上のゴミ、いつまで放置しておくのよ! 掃除しなさい!」とか苦情が来るので、仕方なくやります。(昔、そこになぜか猫の死体があったこともあります)
これも大型の脚立を使用しますが、脚立を立てる場所が「土」で弱いため、細心の注意が必要です。これも絶対に一人だけではやりません。


<重いものを持つこと>

「駐輪禁止なのに、置かれているバイク」に苦情が来て、「無理やり移動する」なんてことがありますが、これも気をつけないとケガをします。「古紙回収」に際に、新聞や雑誌の束を持つことも多いですが、これが原因で「ギックリ腰」になる人も多いです。ギックリ腰にならないような持ち方を習得しないといけません。

それから、「マンション内の狭い通路だというのに、時速40キロくらい出して暴走する」車もいて、マンション内で交通事故が起きることも珍しくありません。これも怖いです。


<巡回中>
上にも書きましたが、部屋のドアが突然開くことは多いです。このマンションは廊下の幅が狭いため、ほんとに要注意なんです。ふだんは、気をつけているのでゆっくり歩いてますが、緊急事態で「すぐに部屋に行かないといけない」場合などで、廊下を走っている最中にドアが開いたりしたら、あたりどころによっては、死亡事故にもつながります。


<ゴミ>
これが一番怖いです。

「刃物」「金串」「竹串」「針」「ガラス」「割れた食器」「分解された電気製品(粗大ゴミで出すとお金がかかるため、分解して無料で出す)」・・・・ ゴミの中にはさまざまな危険物が入っています。「ゴミは危険」という意識で作業しないと思わぬケガをすることがあります。私も何度もケガをしました。

また、薬品類も怖いです。キッチンハイターだって塩酸ですから、原液にそのまま触れれば皮膚がただれます。また、薬品同士が混ざって化学反応を起こして有毒ガスが発生する場合もあります。ゴミ集積場が室内型の場合、ガスが充満する危険性もあります。


<ゴミ収集時>

これ、意外と盲点だと思います。ゴミ収集のパッカー車に近づいて、収集員の作業に立ち会う管理人も多いですが、近寄るのは危険です。中には、「手伝ってあげよう」と、パッカー車の中にゴミを入れたりする人もいますが、万一、収集車の掻きこむ鉄板に巻き込まれたら、すぐに腕が切断します。それに、パッカー車にゴミが入る際に、ゴミが破裂することも多いです。ガラスなんかが、破裂して散乱すると大変です。目になんか入ったら・・・・ 私はゴミ収集の立会い時は花粉症用の透明な保護メガネをかけています。このおかげで助かったことが過去に何度もあります。
使い切っていないスプレー缶が原因で、パッカー車が爆発したのも見たことがあります。すごい音と衝撃でした。私は常に5mは離れています。絶対に近寄りません。

怖いのは、収集車がやってくると、それに気がついて、あわてて走りながら「これも持っていって!」とやってくる住民。自分でゴミを車に投げ込もうと近寄ってきます。これが危険なんで、よく監視して、投げ込ませないようにしないといけません。とにかく素人が近づいてはいけないんです。「ここに置いてください。あとは係員がやりますから」と制止させます。


<落下物>

けっこうあるんです。特に風の強い日。
1「洗濯物」・・・・物干し竿ごと一式が一気に落ちてきたことがあります。これは恐怖です。
2「ふとん」・・・・ふとんって、けっこう重いです。やわらかいからと油断できず、直撃を受けると首を折ると思えるくらいの衝撃です。逆に、高級羽毛布団などは軽いですが。軽い分、風に飛ばされやすいし、風に乗って遠くまで落ちることがあります。一度、マンション前の道路の真ん中に落ちて、そこを走っていた乗用車の窓ガラスに落ち、運転手がパニックになり、「すわ、大惨事」(この車がけっこうスピード出して危ない運転をしていた)になりかけたことがあります。
3「傘」・・・これうちだけでなくよそでも多いと思います。雨が降った翌日とかに、廊下の手すりに傘をひっかけて乾かす人がいますが、風が強いとすぐに飛んでしまいます。傘は金属の突起部が当たると大怪我になりますから、注意が必要です。とても危険です。当マンションではなんども「廊下に傘を干さないで」と呼びかけていますが、誰も気にしません。また、これは当マンションだけだと思いますが、廊下の手すりが「自分専用の常設の傘かけ」になっている部屋もあります。ここは、雨の翌日とか関係なしに常に傘がかかっています。
4「植木類」・・・ガーデニングブームにより、ベランダに植木を置く人が増えています。地面に置くのなら問題ないんですが、太陽光にあてようと、ひな壇みたいな段を買って、高い位置に置く人がいます。また、物干しの金具から吊り下げる人もいます。こういった植木が、強風時に落下することもあります。ひどい人になると、ベランダの手すりの上に「盆栽」を並べている人がいます。これなんか、「絶対に落ちるぞ」というくらい危険です。


それから、このマンション特有の例外ですが、「頭のおかしいクソガキ」が、廊下に置いてある「宅配牛乳用の箱」を突然外に投げたりすることがありますから、ほんと恐怖です。「西武警察」のロケよりも危険です。

あと、変った落下物としては、「アジの干物」が落ちてきたことがあります。「ベランダで自分で作っている」のではなくて、自分で飼っている猫のえさを、部屋の中ではなく、廊下で食べさせる人がいるんです。廊下だと、汚れても自分で掃除をしなくてよく、清掃員が掃除をしてくれるから、そうしてるんだと思います。その干物が猫の食事中に強風で飛ばされてしまい、巡回中の私の頭の上に落ちたことがあります。一瞬、さかなくんの気持ちがわかりました。(彼のはフグ)


<その他>
「掲示板に貼った掲示物をはがすときに、つめをはがしてしまった」とか「メーターボックスを開けようとしたら塗装が固まってなかなか開けられずに、手首をひねって捻挫した」なんていう、若い人には信じられないようなドジな事故も、高齢者だと起きるものです。



とにかく、「マンション管理人業務は実はかなり危険な仕事である」という認識が大事だと思います。甘く考えないほうがいいです。みなさん、安全第一でお願いします。


2011/1