管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 高所恐怖症 


 当マンションは、10階建てです。今は各地で超高層マンションが続々建っていますが、10階だってかなり高いです。

 おまけに、このマンションの廊下の壁や、非常階段の壁は、コンクリでがっちり固めた"壁”ではなく、鉄格子です。つまり”スカスカで向こうがみえる”形状なのです。毎日階段を登って巡回をしますが、6階以上になるとかなりこわいです。正直言って下半身に緊張が走ります。何しろ足元から、はるか下方の地面が丸見えですから。それにマンションの廊下の床面というのは、雨水などを流すように外側に向かってわずかな傾斜がつけられています。ですから、廊下を歩くと自然に外側に体が傾くのです。

 恥ずかしながら私「高所恐怖症」です。本来なら管理人失格かもしれません。そのため、巡回時は軍手をして、手すりにつかまりながら、おどおどして歩き回っています。

 巡回程度ならいいのですが、時々、点検の立会いなどで屋上に上がることがあります。このマンションの屋上は、ふだんは立ち入り禁止ですから、周囲に柵があるわけでもなく、踏み外せばまっさかさまです。屋上の防水コートというのも、やわらかくてフニャフニャしているため歩きにくいのです。はっきりいって怖いです。さらに怖いのは、屋上の上に聳える貯水タンクに昇るときです。クーガーズマンションはタンク部分にもコンクリの壁をはりめぐらせているのでいいかもしれませんが、普通のマンションはむき出しです。そして、ハシゴでタンクまで昇ります。これは相当怖いです。風があると恐怖は倍増します。オシッコちびりそうです。
 でも、毎月点検に来ている設備管理のスタッフは、猿飛佐助のごとく、ピョンピョン登っていきます。株ム下弦の点検要員というのは、たいていが他の会社を定年退職した人を安い給料で雇っています。つまり老人。しかし、高いところに関しては私のほうがよほど老人、ヨボヨボです。命綱もつけずに、あんな高くて危険なところにのぼるのですからすごいです。やはり、高度成長を支えてきた世代はパワーがあります。雨降っても登りますから。

 鉄格子というのは建設費も安価でいいのかもしれませんが、私にとっては恐怖の対象です。加えて、鉄棒部分が取っ手がわりになり、泥棒が侵入しやすい欠点もあります。(ちゃんと鍵をかけていても、格子をたどって屋上に侵入する空き巣がいます。高いところが平気な人なら簡単です) また、当然のごとく、雨風が中に吹き込んできます。私ならこういうマンションは買いません。

 ところで、私、高所恐怖症といっても、人工的な建物だけで、山登りで断崖絶壁(写真みたいな)を歩くのは平気なんです。自然が相手だと怖くないんです。不思議なものです。



2003/4