管理人はつらいよ
マンション管理最前線
迷惑な自殺 |
この業界で「大当たり」という隠語があります。それは「自殺」です。つい先日も大物俳優が飛び降り自殺をしましたが、そのときも管理人さんがワイドショーの取材を受けていました。自殺が起きると、管理人は処理に追われます。困ります。
私も当たったことがあります。嫌な経験です。猫の死体処理も最悪ですが、もちろん、人間はそれ以上です。
ある夏の日。管理人室でボーっとしていると、突然の女性の悲鳴。「すわ、何事か!」と飛び出すと、非常階段の下に男性が倒れています。「どどど、どうしたの?」と、悲鳴をあげた女性に聞くと、「とととと、飛び・・降り・・」。どうやら自殺のようです。
まず、すぐに119通報。かなりの出血があります。「どうしよう?」と思ったとき、ちょうど、病院の車が目に入りました。週に一度、一人暮らしの老人のところに訪問看護に来ている看護婦さんの車です。ラッキーでした。すぐにその看護婦さんを呼んで救急措置をお願いしました。(一応、私も赤十字救急員の資格を持っていて、止血くらいはできるんですが、実際に悲惨な状況を見ると、手が出せません。情けない)
なんとか、息はある模様で、まだ死んではいません。さいわいなことに救急車もすぐに来て(すぐ近くに消防の支所があるのに、いつもは10分以上かかる)、病院へ搬送してくれました。
あとでわかったことですが、この男性、ここの住民ではありませんでした。実はすぐ近くの池のまわりの公園で、自分の腹を刺して自殺を図りました。しかし、深く刺せないで死に切れず、あらためて「飛び降りで死のう」と考えたらしく、このマンションまで来ました。(池からここまでたどった跡が、血の道として残っていました) 非常階段を登ったのですが、苦しくてあまり高い階まで登れず、最上階ではなく4階から飛びました。そのため、重傷は負ったものの、死には至らず一命を取り留めたとのことです。本人は死にたかったのに、重傷を負っては意味がないかもしれませんが、まあ、死ななくて良かったです。(他人事ですいません)
私は第一発見者ではなかったので、警察の聴取もあっさりでしたが、後始末は大変でした(精神的にも肉体的にも)。何しろ、池から飛び降り現場まで、ずっと血が落ちています。掃除しなくてはなりません。本来ならマンション敷地内だけしかしませんが、ものが血だと、道路のほうも掃除しなければなりません。非常階段や4階の廊下は、水道がなく、普段も水を使った掃除はできないでいました。今回はそうもいっておられず、清掃員の休みの日で、一人でやらざるを得ない状況でしたが、バケツに水を汲んで、何度も往復しながら血を落としました。人間の血って、コンクリに染みるとなかなか落ちません。がんばったつもりでも、完全には落とせませんでした。数ヶ月たつまで、なんとなく血のようなものがわかる状態で残っていました。
それにしても、自殺にいたる状況には同情しますが、「何も俺のマンションで・・・」という気持ちが正直なところです。マンションの住民にしても、「わたしの部屋の前から飛び降りるなんて・・」と気持ち悪がっています。迷惑な自殺でした。無関係な人に迷惑をかけないで欲しいです。
でも、日本の自民&公明党政治のていたらくで、不況は深刻、自殺者も増える一方です。今日もどこかで「大当たり」の管理人がいるでしょう。ご愁傷様です。