管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

ペット問題 大変でっせ 

困った! どうしよう?


 結論からいうと、解決策はありません。それほど難問です。

 当マンションも建築当初は、「ペット禁止」。それも、「金魚もだめ」という厳しいところでした。しかし、どこのマンションもそうなように、規約を破って飼う人が出始め、他の住民と摩擦が生じてきました。こういうことは最初の一人が肝心です。「蟻の一穴・・・」というやつで、最初の違反者を厳しく処罰せずに放置すると、「規約なんて関係ないわよ」という無法者の追従者が出ます。その人数が増えてくると、当然トラブルも増加していくわけですが、日本人は集団になるととたんに強くなりますから、「規約を改正して、ペットOKにしてよ」と運動を起こします。管理会社も「無責任&八方美人」ですから、「ペット委員会を作って、厳しい規則を課せば、認めてもいいのでは」という安直な方向に持って行きます。

 というわけで、このマンションは、今から6年前に「ペットOK」に変わってしまいました。重要なのは、OKの中身です。きちんとした管理組合なら、「今飼っている犬猫はそのまま飼い続けていいが、死んだらそれで終わり。新しく飼ってはいけない」という「1代限り」という制限をつけます。しかし、ここはその制限を規約に盛り込まなかったために、「新たに飼い始めてもいい。死んだら別のものを買ってもいい」ということに、自動的になってしまいました。これは重大な手落ちでした。

 「借金してでも犬を買え」というCMが流れる今、ペットは空前のブームです。人間の子供は少子化ですが、犬の場合は戦前のように「生めよ、増やせよ」(プラス、どんどん売れ)という状況です。「今まで飼いたかったが、規則を守って我慢していた」人たちも飼いはじめたのです。そして、事態は急速に悪化していきました。
 「ペットOK」のマンションは人気があります。そのため、部屋を売買する際や、賃貸にする場合、不動産屋が広告に大きく「ペットOK」と宣伝するのです。実際はいろいろな制限(「体長は50cmまで」、とか、「敷地内は抱きかかえて通行する」とか)があるのですが、そういうことは一切書かずに、ただ、
「ペット飼育可」と目立つように書くのです。そうなると、新たに入居する人は、9割の確率でペットを連れてきます。そうやって、ペットは増え続けて、現在登録されている戸数は40戸を越えました。ペット委員会に申請せずにしらばっくれて飼う人もいて、実数はもっと多いでしょう。

 さて、これだけ増えると、ひどい飼い主もいます。「ペット飼育細則」も有名無実化してきました。どう見ても1mはある大型犬を飼う人もいます(「飼った時は子犬だったから、小さかった」と平気で言い訳します)。 1軒=1匹なのに3匹飼う人もいます(40平米の部屋で家族4人暮らしているのに、3匹も飼って、どういう生活をしているんでしょうか?)。保健所に登録していない飼い主もいます。(予防注射をしていないということ)

 マナーもひどいです。もちろん、細則を忠実に守る飼い主もいるのですが、だんだん少数派になってきました。敷地内で綱を外して歩かせる。敷地内公園で犬を放して、フリスビーやボールで遊ぶ。エレベーターの中でも放したままで、ドアが開いたとたんに飛び出してきて、待っている人に飛びかかる。共用廊下でウンチやオシッコをさせて放置する。共用廊下でブラッシングをして、落ちた毛はそのまま。躾が悪く無駄吠えが非常にうるさい(それなのに、夏場は玄関ドアを開放し、音が外に漏れるようにしている)。ひどいものです。

 当然、苦情は殺到し、管理人にも抗議がきます。清掃員も泣いています。
 外部からも、「お宅のマンションの人が、散歩中にいつもうちの家の前にフンをさせて、そのままなのよ! 」と飛び込んでくる人もいます。(ここの住民だとわかっていたら、直接その人に文句を言ってくれませんか?) ペット委員会設立当初、管理組合との間で「ペットに関することは、すべてペット委員会が処理する。苦情の受付も委員会が担当する」という取り決めがなされて細則が作られています。、本来なら管理人は何もする必要はないのですが、現実には苦情処理に追われます。怒る住民の中には「本当に犬猫が苦手で見るのも嫌な人」「このマンションに入居する際は、<ペット飼育不可>だったから、に泣く泣くペットを手放した人」などがいますから、その怒りのレベルは高いです。
 ただし、現代人は、「個人対個人のトラブル」を避けようとして、飼い主のひどい行状を見ても、その場で注意せずに黙ったままで、あとで管理人に文句を言ってきます。匿名の苦情の手紙が投げ込まれることもあります。匿名なので細かい状況を尋ねようと思っても聞けません。こちらとしては業務外のことで嫌な思いをしなければならず、甚だ迷惑です。きちんと苦情を言ってくれるだけましで、「○○(飼い主の名前)のバカヤロー」「犬なんか飼うな!」という落書きが玄関ホールにされたりもします。落書きを消すのも私です。

 苦情は、そのままペット委員会の委員長に伝えます。しかし、きちんとした対応はしてくれません。役職自体、「本当はやりたくないけど、ジャンケンで負けたから」という程度ですから、やる気はゼロです。それに、「自分の犬が迷惑かけたなら謝るけど、他の人の犬のことまで・・・」という態度が明らかです。委員会の集まりも、大きな苦情が来たときにしか開かれません。それに、出席者は少数。出席するのは皆ペット飼い主ですから、ペットに対して甘くなり、「襲い掛かったんじゃなくて、ただジャレたのよ」とか、「あの糞は、よその野良犬のよ」(10階にまで野良犬が登ってくるのかな?)と、処罰もされず、改善もされません。
 そして、ひどいことに「糞を見つけたらすぐに管理人さんに連絡して処分してもらう」「エレベーターの悪臭防止に、管理人さんに防臭スプレーを撒いてもらう」などという結論を導き出すのです。「誰か一人でも問題を起こしたら、他の全員で責任を負って、解決に努力する」という決まりなのに、誰一人責任を負わず、はては管理人に処理を押し付ける、たまったもんじゃないです。飼い主の中には「犬が嫌いなのが悪いのよ。動物虐待よ」などという人までいる始末。

 もともと禁止なのに飼うということは、その時点で「規則を守れる人ではない」ということです。(未成年のうちから違法だとわかっていてタバコを吸う人に、マナーを呼びかけても無駄、なのといっしょ) そんな人に「委員会を作って」「みんなで協力して」「他人に迷惑をかけないで」「連帯責任」などというのは所詮無理なのです。
 だいたい、住宅や工場が密集した、空気も汚い町の中で、40〜70平米という狭い室内で犬を飼うこと自体、動物を愛しているとはいえない、と私は思います。広大な庭を持つ一戸建てに住み、散歩してもほとんど他人に会わないという環境でのみ飼えるのです。シベリア育ちのハスキー犬を暑い日本で飼うのはまさに虐待です。それに、各地で「綱につけずに散歩させている犬に飛びかかられたため、逃げたら、車道に飛び出てしまい、自動車にはねられて死亡」と言う悲惨な事故も起きています。犬を飼うことは、動物虐待どころか殺人行為でもあるのです。

 というわけで、このマンションでのペット飼育OK策は大失敗でした。管理会社もいい加減だと思います。

 近隣に、最初からペットOKのマンションが建設され、2年ほど経ちましたが、「"ペットOK"というのは何をやってもいい」と思っている飼い主が多く、実情は惨憺たるもので、飼い主同士でもトラブルが起きるほどひどいそうです。細かい規約があっても、守らなければ意味がありません。そして、ペットを飼う人は規則など守りません。自分勝手で相手のこと(動物も含め)を考えず、自分の悦楽のためにペットを飼うのですから。

 そこの管理人さんは本当にかわいそうです。「ペットOKなんてさあ、不動産屋が売れるように勝手に言ってるだけだよ。売れればそれでいいのさ。後は知らん振り。とばっちりはこっちに来るのに」と嘆いていました。

 




オラ、しらね。悪いのは飼い主だよ。