管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
カモフラージュ 見せ掛け上は「すごく立派な管理組合」 |
「マンションの管理状況の良し悪しを簡単に判断する方法」として、「掲示板の様子を見る」ってことは、この業界では有名で、中古マンションの売買を仲介する不動産業者も、そういうことがわかっていて、うちのマンションでも、仲介不動産業者は、「このマンションは、管理組合さんがしっかりしてますねえ」と、よく感心するんですが、実はそれはウソです。
うちのマンションの掲示板は、ぱっと見た限りでは、「管理組合がしっかりしている」と思ってしまうようにできています。それは私がそういうふうにしているからです。
「ゴミの分別はしっかりしましょう」
「ゴミは朝の8時までに出しましょう」
「ベランダでタバコを吸う時は、階下に吸殻を落とさないようにしましょう。風向きも考慮しましょう」
「共用廊下には自転車を置かないようにしましょう」
「訪問介護や訪問看護を頼む時は、まず最初に管理人さんに一言伝えておいて下さい」
「地元警察から、自転車の走行に関する指導が来ています」
などなど・・・
こういった掲示物が、すべて、「管理組合名」で掲示されています。ですから、見た目は、「ここの管理組合はしっかりしているなあ」と思います。
でも、実際は、「管理組合名」で出している掲示物は、ほとんどが私が個人的に書いているものです。そして、管理会社のフロント君からの指示もありません。
「なんで、管理組合じゃないのに、管理組合名で出しているのか?」 その理由は。
「管理人名で出すと、”管理人が、客である住民に指図をするのか!”と、生意気だと思われて反感を買う」からです。昔、管理人名で「空き缶の中にタバコの吸殻を入れないで下さい」とか書いていたこともありますが、すぐに、その掲示物に「うるせい!」「管理人が指図するんじゃねえ!」とか落書きされました。(当時は、防犯カメラもなかったので、やりたい放題) 他のマンションを見ても、管理人名で書いたものには、いろいろと落書きされています。なかには、「何の権限で管理人がそういうことを言うのか」とか書かれているものもあります。
そういうわけで、「管理組合名」で出すことにしているのです。また、これは「権威づけ」という意味もあるんですが、ゴミに関することは、もともとは「市役所」からの指示ですから、「**市清掃局」と「管理組合」の2者の名前を並列して書きますし、防災に関することは「**消防署からの指示です」という言葉を付け加えます。こういう公共機関の権威付けも必要です。
加えて、「それは法律で決まっていることなのか? だとしたら、それは、第何条に書かれているんだ?」とか、理屈を捏ねる住民向けには、法的根拠のある事柄に関しては「管理規約**条の規定により」とか、「消防法**条に書かれているとおり」「動物の管理と飼養に関する条例 第何条」とか、元になる条文も書き加えておきます。
「管理組合名で出す」ことには、その他にも、「理事長がこんなにがんばってるんだぞ」とみんなに示す意味合いもあります。
なお、この手法には必ず手続きが必要です。掲示する際に、「こういう内容のものを管理組合名で掲示します。よろしいでしょうか? 返答がない場合は、承認と解釈します。なにか、不都合なことがあれば、おっしゃってください」と、「事前に理事長の承認を求める」のです。何も反応がなければ、「承認した」ということになります。現実には、うちの歴代の理事長は、管理人からの業務報告など、ほとんど見ておらず、常に「しかと」状態なので、表面的には「承認した」ということになり、私はそれを利用して、管理組合名で掲示物を出しています。
いちおう、手続きはしていますから、あとで、なにかあっても、「理事長が承認しています」と言い訳することができます。
まあ、理事長としては、自分は何もしていないのに、他の組合員から、「熱心に管理組合活動をなさっていて、お疲れ様です」とか、ねぎらいの言葉をかけてもらえますから、内心、まんざらではないようです。
というわけで、私が管理人をしている期間中、何百枚いや何千枚の「管理組合名」の掲示物が作成されましたが、実際に、管理組合理事長が作ったものは、1枚もないでしょう。それが真実です。
でも、外部のみならず内部の人も、「ここの管理組合はしっかりしている」と思っています。「管理人がしっかりしている」と思っている人はほとんどいないようで、私は何の評価もされませんが、それはそれでいいと思っています。裏方なんですから。
まあ、安倍総理と、その演説の原稿を書いている人、の関係に似てますなあ。
そういうわけで、管理人業はバカじゃできないし、けっこう、毎日忙しいのです。