管理人はつらいよ
マンション管理最前線
”監事”という役職 |
今回は当マンションからは離れて。
先日の新聞、「関西のあるマンションで、理事長が2年間で管理費約2000万円を横領。組合がその理事長を告発」という記事がありました。これを読んで誰もが思うのが、「ここの組合は何をやっていたのか?」ということでしょう。
「管理会社は何をしていたのか?」「理事会役員は何をしていたのか?」「通帳も印鑑も両方とも理事長がもっていたとはどういうことか?」「そんな莫大な金額が横領されていることをなぜずっと気がつかなかったのか?」、疑問はいろいろあります。青森の「12億円アニータ事件」と同様に、横領犯人だけでなく、それを許した周囲の人間の責任が問われるべきです。
たいていのマンションでは、理事会の役員を決める時に、「やだなあ、面倒だなあ、理事長なんて絶対やだなあ、一番楽なのは何かなあ?」と思って、「逃げ」の役職として使われるのが”監事”という役職です。監事というのは、理事会全体の行状を監視し、「不正は行なわれていないか?」「きちんと運営されているか?」「一部の役員の独断専横になっていないか?」「会計は公正か?」などの”大目付”の役割を担当します。しかし、実際は、「年に1回の決算の時に、管理会社から来る帳簿書類に目を通し、認印を押すだけ」の役職だと思われています。ひどい人になると、「会計のことは俺わかんないから。管理会社さんを信用しているから。ハンコだけ押せばいいんでしょ。どこに押すの?」という”目くら印”レベルの監事もいます。(差別用語ではありますが、業界内で一般的に使われている用語なのでご容赦下さい)
前述のマンションでも、監事がその役割を果たしていれば、1年を超えて横領することは無理です。だいたい、通帳と印鑑の両方を理事長が持っていることを知った段階で是正するべきです。このマンション、監事=監視役も共犯といってもいいです。それくらい、責任の重い役職なのです。
しかし、そんな重要な役職だと思っている人は誰もいません。中には、余計な知識を持っていて、「理事会というのは理事が参加するもの。監事は人数にカウントされない。だから出席しなくてもいい」という最悪の監事もいます。規約の知識を盾にさぼるというのは、悪質です。こういう人は、1年間なにもせずに、総会前の会計監査の時に、管理会社フロントのいうがままにハンコだけ押しておしまい。それで「自分の役割は果たした」と思って、お役御免です。楽、楽。
こういった土壌が、「マンションの会計なんていい加減なもの。いくらでもごまかせる」という思想をもたらします。そして、いざ悪人が出現すれば、横領されるのです。Tビル管理の倒産時の騒動でも、多くのマンションで管理費・修繕積立金を管理会社に横領されていました。高管協の保証制度で補填されるのは、1ケ月分のみですから、大きな損失を出し痛手を負った管理組合も少なくありません。
私が思うに、監事という役職は、理事長の次に大事な仕事です。ナンバー2がなるべきです。管理組合全体の監視役なのですから、理事会に毎回出席することはもちろん、すべての活動に参加するべきです。管理会社の動き、管理員の仕事の状況、などなど、全部を見ていなければならないのです。会計にしても、年に一度決算の時だけ目を通すのではなく、伝票が発行されるたびにチェックすべきです。日頃から、すべての会計書類に目を通しておかなければ、不正は発見できませんし、発見後の是正措置も迅速には取れません。最低でも多少会計の知識がある人がならなくてはいけません。(もしくは、これからでもいいので、マンション管理の参考書を読みながら勉強する。マンションに関する会計知識は、ちょっと学べばすぐに理解できます。) ジャンケンで決めるようなものでは絶対にありません。理想的には、過去に理事長職を経験した人がなるべきです。
それほど重要な、大変な役目なのに、「何もしたくない人がなる役職」と認識されていることが、現代のマンション管理の問題点を端的にあらわしていると思います。
監事が楽している管理組合は、「素晴らしい運営をしている完璧な管理組合」か「だらしない、どうしようもない管理組合」か、どっちか両極端です。
<参考>私がアドバイスさせていただいた某マンションでは、会計に関する書類は、すべて「理事長押印のあとに監事に回してもらい、再チェックする」ということを実践しています。これですと、理事長が不正を行うことはできませんし、管理会社や理事長がミスすれば気がつきます。多少面倒な作業工程ですが、「ダブルチェック」はとてもいいことだと思いますし、こうすれば、監事の人も組合会計に必然的に関心を持つようになります。日ごろから目を通しておけば、年度末の決算時の確認も容易です。
全部監視してね。