管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

掲示物A 掲示期間  ついでに ISO に関しても再度 


 
 マンションでは、種種多様な掲示物があります。そして、そのほとんどが管理人によって管理されています。悩むのは「何日間、貼っておくのか?」という掲示期間です。駅の広告などは、隅っこに「掲示期間 ○月○日まで」とか、書いてありますが、マンションの場合、「いつから貼り出すか」「いつ、撤収するか」、こういった基準が提示されていません。会社からも組合さんからも指示されたことはありません。つまり、任されています。悩むところです。

 大手管理会社の中には、「ISO9000シリーズ取得!」と大きく宣伝しているところがあります。私も、前職でISOに関わったことがあるので、けっこう詳しいのですが、ISOって、要するに「すべての項目について基準を明確に作る」ということです。ですから、ばかばかしいと思えるようなこともしっかりと文字にします。ガラスの磨き方ひとつとっても、「どんな洗剤、どんな道具を使用して、どの方向で、何回往復させて、どのくらいの力を入れて・・・・・」といった細かい手順を文章化します。つまり、「完璧なマニュアル化」なのです。誰がやっても均一の結果になるように、マニュアルを作ることです。経験とか勘は関係なくなります。こうすると、会社にとっては、「ベテラン社員はいらない。しょっちゅう人間を入れ替えて、安い給料で働かせよう」というリストラにつながります。ISOは良いことなのでしょうが、私から言わせると、「表面だけ取り繕う、見栄っ張りの会社」「ベテラン社員を重視しない会社」「自社できちんとしたマニュアルを作れずに、今までいい加減に仕事をしてきた会社」なのではないか?とひねくれて見ています。
 また、ISO取得(&資格維持)にかかる費用は莫大で、「ISOにお金がかかったから、従業員のボーナスを減らす」なんてところもあり、「業務品質をよくするためのISOなのに? なんかおかしくない?」と思います。

 そして、一番の問題は、「作ってはみたものの、実践できていない会社が非常に多い」ということです。資格の審査はすべての現場で行なわれるわけではなく、審査対象現場で行なわれるだけです。そして、それは事前に教えてもらえますので、そこのスタッフだけ集中して訓練すれば、資格は認証されます。(なんか、まるで、「源泉の泉質だけ検査し、実際の浴槽の中の温泉を調べない」温泉業界といっしょですね) 「作ったことに安心し、”ISO取得企業”と宣伝できることだけ考え、中身を本当に良くすることを考えていない」会社が目立ちます。高速道路のサービスエリアでは、「環境ISO14000シリーズ取得! 地球にやさしい企業」と側面に大きく書かれたトラックが、エンジンかけっぱなしで排ガスもうもうの状態で、運転手が昼寝しています。そんなもんです。

 マンション管理業界でもISOを持っている会社(一例 H社)があり、実情を見聞きしますが、現場では何も有効に使われていないそうです。書類の形式だけは細かくなったそうですが、管理員マニュアルも特に変わらないし、実用面では「ISOっていったい何?」というレベルだそうで、宣伝ほどの意味はないようです。

 さて、ISOがあるなら、掲示物の掲示期間に関しても、当然マニュアルがあるはずですが、どうですか?H社さん。

 当マンションでは当然ありません。とはいえ、ある程度の基準を自分で作っておかないと仕事になりませんので、ガイドラインは決めています。

一例
「エレベーター点検」・・・毎月1日にエレベーター会社に電話して、「今月はいつ来るの」と聞きます。たいてい、中旬に実施です。実施日の3日前に掲示物を貼ります。エレベーターに関しては、掲示板ではなく、エレベーター内に貼ります。
「消防設備点検」・・・2週間前から掲示をします。1週間前には点検該当部屋に対して、ポストに投函します。(同時にやると効果が薄くなるため、時間差をつけます)
「植栽消毒」・・・1週間前に掲示。消毒液がかかるような1〜2階部屋に対しては、2日前にポスト投函。「洗濯物を干さないで」とお願い。
「古紙回収」・・・半年分のカレンダーを作成しておき、ずっと掲示しておく。

 自分の経験に基づき、いろいろな項目について、おおよその基準を考えています。とはいえ、間にゴルデンウィークとかお盆休みなどの長期休暇が挟まる時は、適宜変更しなければなりません。また、怖いのは、書類がすごく早く私の手元に届いたりした場合に、当然「まだ、掲示するのは早いから、保管しておこう」と思って、保管しておくのですが、そのまま忘れてしまうことがあるのです。
 行政(自治会)、管理会社としても、上記基準に合わせて、掲示物配布物を管理人室に送付してもらいたいです。掲示や配布というのは「早ければ早いほうがいい」とも言えますが、早すぎると「住民が忘れてしまう」という危険性もあるので、タイミングが難しいです。こういうのは過去の経験が大事です。ISOでも、きちんと基準を作るべき項目です。

 ところで、掲示物を剥がすタイミングというのもあります。一般的には、「作業が終了したら、すぐに剥がす」と思うでしょうが、私の場合、ものによっては工夫をします。

 例えば、植栽剪定や消毒。住民の中には、「掲示物を一切見ない」「配布されたものも一切見ない、すぐにゴミ箱に捨てる」という完全無関心な人がいます。こういう人は当然、消毒の際も洗濯物を干したままです。「事前通告を読まずに、干すほうが悪い」と、構わず作業を行ないますから、薬液がかかってしまいます。この住民が夜帰ってきた時に、「なんか、シャツが薬品臭いなあ」と気づきます。そういう異変を感じた時に初めてこの人は、「そういえば、掲示板に消毒なんたらかんたらと書いてあったような記憶が・・・」と思うわけです。こういう人のために、掲示物を剥がさずに残しておきます。そうすれば、消毒後の夜に初めて掲示板を見たこの住民が、「あ、そうか、今日は植木の消毒があったのか」と理解できるわけです。掲示物をすぐに剥がしてしまうと、「なんなんだろう」と疑問をひきづってしまいます。剪定も、「あれ、なんか植木が小さくなったような気がするなあ」と感じた人が、あとで掲示板を見て気づくわけです。消防点検なんかも、「今日の昼間はどこかでジリジリなってたけど、なんだったのかなあ?」と思う人がいるわけで、そういう人が、夜や翌朝、掲示板を見て、「点検があったんだ」と気づきます。理事会開催通知掲示も、「夕べ集会室が明るかったけど何かあったのかなあ」という人が、翌朝掲示板を見て、「あ、理事会か、ご苦労さんだねえ」と思うかもしれません。

 以上のようなことがあるために、ものによっては、実施日の翌日まで貼り出したままにすることがよくあります。雑排水管清掃も、未実施部屋が多かったときは、実施日のあと2〜3日わざと貼りっぱなしにしておいて、「あなた、留守にしていて清掃しなかったでしょ」と無言の抗議をします。ただ、そういう配慮を知らずに、「しょうがないわね、管理人さん、もう終わったのに、貼ったままよ」と思い、おせっかいな住民が勝手に剥がしてしまうことや、「なんで剥がさないの?」とあとから文句が来ること、が時々あります。親の心子知らず、なかなか難しいところです。



2004/9