管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

介護疲れによる死


 哀しいことがありました。
 このマンションも築20年を超え、高齢者世帯が増えてきました。先日、ある老夫婦の奥さんのほうが亡くなりました。このご夫婦、ご主人が重い病気で寝たきり状態でした。「最後は自宅で看取りたい」ということで、夫婦で生活していたのですが、なんと、ご主人ではなく、奥さんが先に逝ってしまったのです。原因は「介護疲れ」によるものだそうです。奥さんももともと心臓が弱かったそうで、疲労がそこに負担をかけたのでしょう。介護というのは、若い元気な人でも大変な重労働です。それを高齢の持病持ちの女性が行なうのですから、いっそう大変です。そこのご主人は体も大きな人でしたから、世話をする体力も相当なものが必要とされたはずです。

 管理人として哀しいのは、その奥さんが倒れた時に何もできなかったこと。おそらく苦しみもがいたのでしょうが、119通報もできなかったのでしょう。救急車も呼べませんでした。ご主人は痴呆もかなり進んでいましたから、おそらく状況も理解できずにいたことでしょう。私も何も知りませんでした。死亡推定日の翌日に訪問看護の看護士さんが発見したのでした。
 今、娘さんが応急的に住み込んで父親の面倒を見ていますが、早くきちんとした病院施設に収容しないと大変です。老人介護の問題は深刻です。

 こうやって考えると、このマンションには、老人だけの世帯、一人暮らしの世帯がいくつかあります。その中には、「この1ヶ月顔を見ていないなあ。大丈夫かなあ」という人もいます。もしかして、部屋の中で人知れず「孤独死」なんかしてたら嫌ですねえ。一部はご家族の連絡先を聞いているところもありますが、まったく聞いていないところもあります。下手すると、その人が死んでも、家族を呼ぶことさえできません。プライバシーの問題はありますが、管理組合のほうで、各居住者の非常時の連絡先を控えておくことって大切な気がします。専有部分内のことだから、管理会社の範囲外の分野ですけど、人間として、そうもいえないです。

 今回は仲の良い夫婦の話でしたが、介護には逆のケースもあります。親の面倒など一切みたくない娘(中年だが独身)が、「老人ホームに入れるお金がない」「公共の特養施設がなかなかあかない」といった理由で、同居しているケースです。仕事は早く終わるものの、親の面倒をみたくないために、遊んでから夜遅くに帰ります。このおじいちゃんは、体はまあまあ元気ですが痴呆のため、突然いなくなったり、変な場所で発見されたり、壁を叩いたり、大声を出したりして近所に迷惑をかけたりと、けっこう問題児です。ご近所からは「あなたが早く帰ってきてきちんと面倒を見ないと・・」と要請されていますが、面倒はみません。私も「緊急時に備えて、携帯の番号でも教えてくれませんか?」と頼んだことがありますが、教えてくれません。


 郵政民営化の論議の中で、「郵便配達員が、毎日1回、独居老人に声をかけるサービスを行なっている。こういう肌理の細かいサービスが民間にできるか・・」なんてのがありましたが、管理人も、毎日数回、マンション内で巡回しているのですから、高齢者宅に声をかけるサービスというのも、できなくはないです。管理業務のオプションとして、事業としてもいいかもしれません。管理人サイドとしても、「この人大丈夫かなあ。実は部屋の中で白骨化しているなんてことないかなあ?」と怯えるよりも、「今日も元気だった。良かった」と安心できるほうがいいです。
 でも、「あたしゃ、まだまだ元気だよ。あんたらの世話なんかならねえだ」と拒否する元気のいいおばあちゃんもいるでしょうね。難しいかな?

 マンションが怖いのは、そんな深刻な世帯があっても、隣室はそのことを何もしらないこと。農村では考えられませんが、都会のマンションではよくあることです。その分、ある程度の個人情報を掴んでいる管理人の存在が大きいのでは、などとも考えてしまいます。

 マンション内の高齢者問題。国交省と厚生省が連携して真剣に取り組んでいただきたいです。
 


2004/11


このドアの向こうに何があるのか?