管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
収支トントンでも黒字に見せるテクニック |
「収支がプラスマイナスゼロなのに、決算書上では、黒字200万円に見せかける」なんてことがあります。簡単なテクニックで可能です。(すでにご存知の方は、ご容赦)
管理会社が高額な管理委託費をボッタクっている場合、管理費会計はなかなか黒字にはなりませんが、「毎年黒字を続けていて、当マンションの財政は健全です」と総会の席で言うことができます。このカラクリを説明します。
新築のマンションの場合、1〜3年目程度は、どこも壊れることがないため、「修繕費」があまりかかりません。ですから、単年度では黒字が発生します。しかし、竣工後5年くらい経過すると、経年劣化&老朽化で、いろいろと設備機械類でメンテ費用がかかってくるものがあります。8年たてば、消火器の一斉交換も必要です。植栽も、数年たてばかなり成長して、手間が多くかかるようになり、剪定費用も高くなります。
こうなると、高額な管理委託費をとっている管理会社では、管理費会計で黒字は発生しません。下手すると、赤字です。しかし、「収支トントン」とか、「赤字」ということを住民に悟られると、「管理委託費を値下げしろ」という声が出てきて、困ります。「管理費が足りないので値上げが必要です」というのも、意思形成に莫大な労力を消費しますから大変です。
これをごまかすには、決算書の「収入」の項目に「前年度からの繰越金」を組み込んでしまうのです。
例えば、第一期で200万円の黒字が発生したとします。これを次期繰越金として、第2期の収入に組み込みます。こうすると、管理費という固定収入は変らないはずなのに、第2期の収入金額が増えます。そして、第2期でも単年度会計で200万円の黒字が発生したとします。1期からの繰越金と合わせて、計400万円の黒字が第3期へ繰越できます。こうなると、1年間の管理費収入が2000万円の組合でも、第3期の収入は2400万円と見せかけることが可能です。こうやっていくと、たとえ、第3期の支出が2000万円で、単年度で考えると”収支トントン=黒字ゼロ”でも、第3期の決算書の最後の「収支」では、400万円の黒字となるのです。3期以降の支出が毎年2000万円で、本当は黒字ゼロが続いていても、決算書上は、「毎年400万円の黒字」と発表できます。ほとんどの住民は、総会資料の決算書を見るときに、一番最後の収支のところしか見ていません。ですから、「うちのマンションの管理費会計は毎年400万円の黒字を出しているのか。これなら大丈夫だなあ。健全な会計だ」と思うのです。実際は、黒字ゼロでも。
本当は、前期からの繰越金というのは、その年の収入ではありません。ですから、収入の欄に組み込むことはできません。単年度の収入と支出を計上して、本当の意味のその年の収支を出して、その下の欄に、「前年度繰越金」という項目を書き入れるのが、正しい会計処理です。上記のマンションでは、3期以降10期まで、実質・収支トントン(つまり黒字ゼロ)が続いたとしても、住民の感覚としては、「8年間で合計3200万円の黒字が貯まった」と考えてしまいます。
ですから、「うちの管理会社は良い会社か? 悪い会社か?」と思ったら、まず、過去の決算書の「収入」の項目の内訳を見て下さい。「前年度繰越金」が含まれていたら、その会社は悪い会社(もしくは悪いことをやろうと思ったら出来る会社)と認識してけっこうです。
このテクニックは有名大手でもやってますが、株ム加減はそういうことはしてません。黒字は繰り越さずに修繕積立金へまわします。ですから、この機会にバラします。ちょっと会計の知識があれば、すぐにおかしいことに気づくはずなのにね。結局、無関心がゴマカシを生みます。
わかりやすく表にすると以下の通りです。住民の目に最も触れる「収入-支出」は常に黒字になっています。6期では、実際は100万円の赤字でも、住民は表面的には300万円の黒字だと勘違いします。自転車操業の会社なのに、健全経営と取り繕うことが可能です。
某マンション決算書 第一期 第二期 第三期 第四期 第五期 第六期 管理費収入(万円) 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 2,000 前年度繰越金 0 200 400 400 400 400
収入計 2,000 2,200 2,400 2,400 2,400 2,400
支出計 1,800 1,800 2,000 2,000 2,000 2,100
収入ー支出
(次年度へ繰り越す)200 400 400 400 400 300
本当の単年度収支
(決算書には表示しない)200 200 0 0 0 -100
この手法を使えば、大規模修繕工事が近づいてきて、「貯金が足らない!」ということに住民が気が付くまで、管理会社は高額な管理委託費をいただくことができます。
なお、「管理費会計」の「収入」に、「駐車場料金」を全額組み込んでいるマンションがけっこうあります。
駐車場に関しては、「周辺の駐車場料金の相場の変動」や、「住民の年齢構成やライフスタイルの変化」により、「空き」が出る可能性があります。「空き」が発生すると、それはダイレクトに「管理費会計収入の減少」につながります。空きが多くなると、「駐車場料金の値下げ」をすることもあるでしょう。これも、大きな「収入減少」です。
こういうのに備えて、「管理費」は竣工時は、「かなりの余裕がある設定」にしておくべきですし、「赤字になりそうだ」という雰囲気を感じた際は、予防的に「管理費の値上げ」も必要になってきます。
いずれにしろ、マンション住民は、総会資料の会計報告部分をじっくりと読んで、内容を理解することが大事です。無関心でいると、痛い目にあいますよ。