管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 消防法を守りたいけれど 




   マンションに関連する法律で、重要度の高い物の中に「消防法」があります。先日の消防設備点検で、今まで見逃していたけれど、経年劣化による大きな不良箇所が発見されました。詳細は言えませんが、とにかく、修復には1000万円単位のお金がかかる大きなものです。といっても、消防の質という観点からは「重大」というものではありません。「法律的には違反なんだけど、実際は現状のままでもなんとかなる」という感じのものです。

 このため、今、理事会が悩んでいます。「法律を遵守するのは当然のことなんだけど、こんなお金、簡単には出せない。これから、防犯カメラだ、バリアフリーだ、なんだかんだといろいろお金がかかるのに」ということです。
 その他にもいろいろ意見が出ました。「消防法を遵守するなら、共用廊下に私物を置くのも厳禁にすべき」「ベランダの荷物がすごくて、緊急時に避難通路として機能しない部屋がいっぱいある」「消防設備点検にまったく協力しない部屋があって、避難梯子の点検ができていない」・・・・・・などなど。

 これらの中で役員一同を驚かせたのは、「うちのマンションの周囲にも高い建物がびっちりと立ち並び、○号室の並びの一帯は、玄関ドア側からは放水できるけど、ベランダ側には消防車が入り込めずに放水できないよ。そっちのほうが大問題じゃないか?」という発言。地図を見ながらみんなで話し合うと、「確かに、この地区には消防車が入れず、放水は無理だ。火事が起きたらどうするんだ」とケンケンガクガク。
 「消防法守らないとどうなるんだ。明確な罰則あるのか? うちよりも貧乏な組合はたくさんある。そういったマンションでも、厳密に消防法を守るような工事はできないだろう。ない袖は触れないのだから」・・・・と、これもケンケンガクガク。

 そうなんですよね。”法律”と声高に言われると、「絶対に守らないといけない」と、小市民は思うけど、現実にはそう簡単にはいかないのです。「改造工事に1000万円支出したら、消火器交換の費用がなくなった。当マンションでは、消火器が一個も使えない」なんてことになったら、そっちのほうが困ります。こういった問題は現実的な効果を考えて検討すべきです。

 「実際問題、マンション火災で人が死ぬことはほとんどないよ。特にうちのマンションはそんなに広い部屋はないし、玄関かベランダか、どっちかにすぐに逃げられるはずだ。1000万円使って、設備を直したって、消防車が早く到着しないと意味がない。そのためには、近隣道路に頻繁に違法駐車する奴を摘発するほうが大事だよ。お金の使い道だって、”マンション保険を高額なものに変えて、補償を手厚くする”ほうがいいんじゃないの?」といった意見も出たらしいです。
 消防設備のために1000万円支出するためには、「管理費・修繕積立金の値上げ」が必須であることから、懐を痛めたくない住民の集まりとして、理事会ではこのように反対意見ばかりが大勢を占めました。
 理事会のあと、私も意見を求められました。「立場上は、”法律を守るために工事をすべき”といいますが、個人的な感想としては、”お金がないからできない”でいいんじゃないでしょうか」と言ってしまいました。管理会社が違法を勧めてはいけないんですが。

 難しいです。
 


2004/12