管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

中古マンション売買における 「転売専門の業者」 という存在



面倒なんです

2014/1加筆修正



ある「長期管理費滞納者」の部屋が、競売になり、落札されたそうです。

競売になるということは、ご本人にとっては、悲しいことですが、管理組合としては、「滞納された管理費等を、先取り特権によって、全額回収できる」ということで、ある意味喜ばしいことでもあります。管理会社も、「いままでさんざん苦労してきても、払ってもらえなかったお金が入ってくる。今後、督促の仕事をしなくていい」ということで、うれしいです。
(こういう競売の情報ですが、普通の管理会社では得られませんが、私らベテランの管理人になると、地元の不動産業者とのコネなんかで、得ることができます。こういう情報網は、あると助かります)

ただ、競売だと困ることがあります。困るというよりも、面倒というべきか。

今、競売で落とす人というのは、たいていが、そういうのを専門にやっている会社です。「法律事務所」とか「リフォーム工事会社」などが副業的にやっている例も多いです。こういうのは、いわゆる「
転売専門業者」(私が勝手にネーミング)というものでして、この業者自身は「宅建免許」を持っているわけではなく、「競売で落札した不動産を入手し、それから、大掛かりなリフォームをかけて、部屋をきれいにして、そして、また、仲介不動産業者に頼んで、別の人に売る」ということをやっています。一般的には「任意売却専門業者」などとも言われています。(ちょっと意味合いが違うかもしれないけど)

不況で競売件数がものすごいですから、こういうのが商売になっているんだと思います。ただ、こういうことをやる業者というのは、一種の「裏街道」みたいな感じで、「立派な法律事務所の看板をかけていても、裏は暴力団関係じゃないのか?」って思いたくなるような柄の悪い連中がやってきます。(大阪市役所の職員みたいな刺青をしていたり)

さて、この種の「転売専門業者」が、ここ数年、競売以外の「普通の不動産売買」にも関与してくるケースが多くなりました。
一般的に「不動産の売買」というと、不動産業者が「仲介」して、「個人」(=自分で住む人。または、賃貸にする投資を目的とした人)相手に売るものなんですが、仲介不動産が、転売専門業者に売るケースが増えているのです。

こうなると、今までなら、管理会社が任される「区分所有権の移転手続き」という仕事は、1室の売買で、1回やればよかったのに、転売専門業者がワンクッション入ることにより、2回の手続きが必要になってしまいます。

「1回目 元の所有者から転売専門業者に所有権が移転」
「2回目 転売専門業者から、新所有者に移転」

1回目と2回目と仲介に入る不動産業者が異なることもあります。こうなってくると、「ひとつの部屋」にいろんな人間&会社がからんでくるわけで、「駐輪場の空きはありません」とか、説明するのも2度手間で面倒だし、なんだかわからない人がいっぱいやってきて、マンションの警備面でも問題になります。「売り出し」も2回やることになりますから、それぞれの時に訪問してくる客も2倍になるし、寄せられる「質問」に返答する仕事も2倍になります。とにかく、面倒なんです。

管理費等の引き落としだって、一回、転売業者に移す事務処理をして、すぐ数ケ月後に、また、それを新所有者に移す処理が必要になります。
当マンションでは、そういう事務処理が、ほとんど管理人に押し付けられているので、正直、「嫌だなあ。疲れるよ」というものなんです。銀行に関わる手続きだって、高度電算化社会になった今でも、「銀行内手続きに3週間かかります」とか、超遅くて、そういう「時差」も考慮して動かないといけませんから、スピーディにはできないのです。



ある程度大きなマンションになると、「年に3〜4室の売買」はあるんですが、そのたびに、「転売業者」がからんでくると、3〜4室のはずが、実質は「6〜8室の処理をしている」ってことになるわけです。つまり、管理人は大忙しってこと。
1室の所有者が変更になると、いちおう、「マンション区分所有者名簿」も、その都度「最新版」に作り変えるのですが、最新版を作ったら、そのすぐあとに、また、最新の最新版を作り直さないといけません。

特に、時期的にややこしい時もあります。
例えば、定期総会の資料を配布する時点では「転売専門業者が所有」しているのに、総会当日は「新所有者が所有」なんてこともあります。
重要なアンケートをとる時期に、転売業者が所有していると、業者にとってはそんなことはどうでもいいので、アンケートには協力してくれないし。

はっきりいって、管理人としては、この「転売専門業者」という存在は、うざったいです。仲介する不動産業者からすると、1つの部屋で2回仲介できるというメリットがあって、手数料収入で儲ける不動産業界としてうれしいことかもしれませんが。
でも、最終的に買う、「個人客」としたら、間に1社入ることにより、購入価格が高くなっていることは間違いないので、やっぱり、よくないことだと思います。
ああ、とにかく、手間が「2倍 2倍」っていう高見山みたいなのは、めんどくさい。


このように、「面倒くさい」「転売業者の利益として、購入価格が上がって、高い買い物になる」というのに、なんで、こういう「転売専門業者」がここ数年跋扈しているのだろうと不思議に思っています。こういう業者が目立ってきたのは、2008年ごろからなのですが、2013年は、売買になった8室、すべて転売専門業者がからんでいました。管理人としてはどうにも不思議なので、馴染みの不動産業者さんに理由を聞いてみたら、事情がわかりました。



まずは、
「部屋を売りたい人」の視点から。

転売専門業者相手に売る場合、相手は会社組織なので、スパっとスピーディにお金を払ってくれるそうです。また、今は超不況なので、買い手もそんなに裕福ではなく、「ローンで購入する」場合、そのローン審査に通らずに、契約がいったんご破算になることもよくあることですが、会社であればそんなこともありません。というわけで、売るほうからしても、「トラブルもなく、すんなりと売れる」そうです。それに相手はプロですから、「ここを買う」と決めたら動きは早いわけで、一般の人が購入する際に、「どうしようかなあ?」と悩んで、うだうだと無駄な時間がかかるようなことがありません。早く売って現金化したい、売主にとっては、多少買い叩かれて安くなったとしても、そのほうがいい場合があるんだそうです。

また、相手がプロですと「部屋の中は、そのままでいいですよ。家財道具も置いていっていいですよ。うちのほうで処分しますから。掃除もしなくていいですよ」ということを言ってくれます。個人から個人に売買する際は、「荷物は全部外に出して、最低限の掃除をして、室内をきれいにしてから、相手に引き渡す」のが原則ですから、そういう手間を代行してくれるとしたら、転売専門業者に売却するのは売主としても楽です。

くわえて、「瑕疵担保責任」に関しても、「気が楽」という点があります。普通、仲介で中古物件を売買すると、購入時には気がつかなかった「室内設備の不具合」が後から出てきた場合、それは当然、「売主の責任」になり、その分の「補償」なり、「修理」なんかが必要になります。会社組織とかではなく、「個人」の場合、「そんなことあとから言わないでよ。もっと、ちゃんと、現物を調べてから買ってくれればいいのに」・・・とウダウダ言いたくなってしまうもの。
それが、転売業者に売る場合は、相手はプロだから、購入時のチェックをちゃんとやるし、室内の設備に関しては、ほとんどリフォームしてしまうから関係ないし。というわけで、あとからグダグダ揉め事が起きる可能性が低いのです。そういう点でも「精神的に楽」らしいです。


次に
「部屋を買いたい人」の視点から

築20年を超えたマンションというのは、当然、ぼろくなっているわけで、リフォーム工事が不可欠です。実際、2013年に売買になった8室は、すべての部屋で「大掛かりなリフォーム工事」が行なわれました。(この工事の相手をする我々管理人も大変です。「工事車両の駐車」「騒音振動への苦情の応対」「廊下を汚したので掃除」・・・・ ほんと苦労します)
大掛かりなリフォーム工事というのは、最低でも300万円、すごいのになると800万円くらいかけたりします。また、お金の問題ではなく、「どういうリフォームをしたらいいのか、自分の頭で考える」「工事業者を選定して発注する」「工事が決まったら、発注主として、近隣への挨拶をする」といった事務的な労力もかかります。こういう面倒なことをやりたくない人は、転売専門業者がフルリフォーム工事をしてくれて、「すぐに、きれいな部屋に入室可能」という部屋のほうが「買いやすい」という面があるのです。当然、販売価格に、それはかぶさってくるわけですが、「面倒なことで疲れるよりも、高い金を払う」、という人は多いんだそうです。

さて、お金の話なんですが、転売専門業者がリフォーム工事をしたほうが有利なことがあるそうです。それは、ローンに関すること。
仮定の話で、「何も手を加えていない部屋の本体の価格が1000万円」で「リフォーム費用が500万円」だとします。計1500万円です。
売主から買主が直接買う場合、1000万円の売買になります。そして、買主は、購入後、500万円かけてリフォーム工事をします。問題は、この「500万円」。部屋を買う際の代金は「住宅ローン」を組んで、長期分割で支払うことができますが、リフォーム工事には、住宅ローンが適用されません。銀行では「リフォーム費用のローン」なんかもやってますが、そんなに一般的じゃないし、金利も住宅ローンより高いです。
これが、転売業者から「リフォーム工事後の部屋」を買う場合、リフォーム代金も含んだ総額が住宅ローンの対象になりますから、「1500万円」のローンを組めます。この不況下、500万円のリフォーム工事代金を現金で持っている人は少ないです。転売業者の利益を上乗せして、総額1700万円の購入額になったとしても、「全額をローンに組める」ほうが、購入時の現金支出は少なくて済んで助かるわけです。

というわけで、転売専門業者の存在意義というのは、けっこうあるもんだなあ、と理解しました。この分じゃ、今年の売買も、みんな、転売専門業者がからんできそうだなあ。管理会社的には「手間ばっかり増えて困るよ」という切実な問題です。