管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

「加圧式」と「蓄圧式」 2種類の消火器



2014/1

この前、古くなった消火器(共用廊下とかエレベーター機械室とかに置いてある、管理組合所有の物。消防設備点検の対象物。サイズは10型)の交換作業がありました。そこで気がついたことをご説明します。
(私が所属する管理会社は、従業員研修というのをまったくしない会社なので、技術革新とか、新しいニュースがあっても、何の勉強もさせてくれないので、自分で学習するしかないんです。そのため、「今更、何言ってるの? 気がつくのが遅いよ」ってことを、今頃気づいたりします。)

消火器には
「加圧式」「蓄圧式」の2種類があるそうです。

http://www.gear-m.co.jp/bousai/shokaki/s03.html

まずは、消火器メーカー「宮田工業」さんの上記HPをご覧下さい。それぞれの、内部構造図が掲載されています。

この「加圧式」「蓄圧式」という呼称が非常にわかりにくく、命名した人間は「アホか?」と思うのですが、東京オリンピック同様、決まってしまったものはしょうがないです。



「加圧式」・・・昔からの消火器がこの方式です。容器の中に、別途、「高圧ガスが入った小さなボンベ」が入っています。レバーを握ることで、このボンベに穴をあけ、ボンベから高圧ガスが消火器本体内に噴出します。これが加圧という意味です。この圧力によって、消火器の中に入っている「消火剤」(実際は「粉」です。よく自治体なんかで行なわれる、消火器訓練では、「水」が放出されますが、あれは訓練用の偽物であり、本物は小麦粉みたいな粉になっています。薄いピンク色に着色されています)
加圧式の場合、圧力ボンベに穴をあけて、中の高圧ガスを放出する仕組みなので、一般的には、一回、レバーを握ると、そのあとで、レバーから手を離しても、消火剤は最後まで出尽くします。
私も実物を見たことが何回かありますが、一般的な10型でも、相当な量なので、放出したあとの現場は悲惨なことになり、掃除も大変です。
よく、一般家庭でも、「大きなもののほうがいい」と思って、10型の消火器を置いている人がいますが、「てんぷら油に引火したので、あわてて消火器を噴出させた」なんて場合、ダイニングキッチン全部が、粉で埋められてしまうほどの量が出ます。「引火したことよりも、放出した薬剤の掃除のほうが大変だった」ってことになります。初期のてんぷら油火災なら、キンチョールみたいな小型のボンベの消火器のほうがいいかもしれません。これは、液体の薬剤が入っており、飛び散ったりはしません。


「蓄圧式」・・・最近、売られているのは、もっぱら、この方式です。加圧式のような「ボンベ」は入っておらず、本体容器内には、消火薬剤とともに放射圧力源となる窒素ガスが入っています。レバーを握ると、その圧力によって薬剤が噴出します。(薬剤自体は加圧式のものと同じ)
レバーを元に戻すと、放出は止まりますから、「火が消えたから、もう放出しなくてもいい」という時は、止めることができます。





<加圧式の問題点>
現在、消火器が「蓄圧式」に代わったのは、従来の「加圧式」に問題があったからです。
http://www.fdma.go.jp/html/life/shokaki/atukai/ 消防庁HP
この消火器による、「破裂事故」が多数発生しています。
消火器というのは、うちのマンションでは、雨風にさらされる、屋外廊下に多数置かれていますが、この時に、床面に直に置くと、水分により、容器底部が錆びることがあります。(これを防ぐため、うちのマンションでは、壁から吊り下げて、底部が床につかないようにして、通気性を確保している)
底部が錆びて、容器の「強度」が低下すると、いざ、消火器を使おうとして、レバーを握り、圧力ボンベに穴をあけると。一気に消火器本体の中が高圧になり、この際に、錆びて弱体化した容器底部に穴があいて、破裂することがあるのです。
この事故は、実際には「火災時に発生」する件数よりも、「古い消火器を廃棄しようと思って、触ったら、レバーを握ってしまい破裂」とか「廃棄する際に、どうせなら、一回、薬剤を出してみようと思い(防災訓練で使用することもある)、触ったら、破裂」といったケースが多いようで、死亡事故まで起きています。命を守るための道具で、殺されるって、なんとも理不尽です。

この破裂事故多発を受けて、「加圧式はやめよう」ということになり、安全な「蓄圧式」に構造が変わってきました。先日、当マンションで消火器が交換された時も、新しい消火器はすべて、この蓄圧式でした。

<蓄圧式の利点>
・操作時にいきなり破裂する、ということはない。もし、容器に破損等があれば、その部分から「シュー」っと空気が抜けていき、「爆発する」といったことはない。つまり、「安全」。
・放射時に、途中でストップできる。
・圧力ゲージが外についているため、その数値を見れば、「ちゃんと使用できるかどうか?」の点検は容易。
・消防設備点検の際に、点検開始時期が「5年」に延長されるため、点検本数が少なくなり、点検コストが安くなる。(でも、管理組合側が指摘しないと、点検業者は、今までどおりの料金をとるでしょうね。自分から、「安くします」とは言わないでしょう)
・薬剤がつまりにくい
・レバーを握る力が少しで良い。子供やお年寄りでも大丈夫。(加圧式は、圧縮ボンベの容器を破壊する力が必要なので、大きな力が必要)
・レバーを握ったら、すぐに放出される。(加圧式は、圧縮ボンベの容器を破壊した後に、出始めるため、じゃっかん、放出までにタイムラグがある)

 このように、メーカーのHPとか消防庁のHPを見ると、「蓄圧式の利点」ばかり書いてあるのですが、実は、欠点もあるそうです。

 

<蓄圧式のマイナス点>
価格が高い。(納品書とかを見ると、加圧式の時の交換費用よりも1500円くらい高くなっています。制度改正によって、500円分のリサイクル費用を商品代金に最初から上乗せしている分も含まれますが、本体価格が蓄圧式のほうが高いのは間違いないです。) 消火器本体が常に高圧にさらされるため、それ用の丈夫な構造に作らないといけない。このため、製造コストが高くなる。
薬剤の詰め替えが面倒、時間がかかる。というか事実上無理。・・・・今までは、現場で、簡単に「粉状の薬剤を交換するだけ」で済んだ薬剤交換ですが、蓄圧式は、圧縮窒素ガスといっしょに薬剤を充填しないといけないため、現場で薬剤交換はできず、メーカーに持っていって、交換作業をして、そして、それをまた持ち帰る、という手順が必要で、その輸送経費等を考えると「新しく、新品を購入したほうが安い」そうです。ですから、実際問題として、消火設備点検業者としては、「薬剤交換」はしていないそうです。



なお、消火器の耐用年数は「10年」です。覚えておきましょう。