管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

拾得物処理も大事な仕事です


 

 「拾得物の処理」は、管理委託契約の中にも明文化されている大事な仕事です。

 私の場合、掲示板の一角に、「拾得物のお知らせ」というコーナーを設けて、そこに情報を記します。

 拾得物として一番の多いのは洗濯物です。特に強風がふいた時は、たくさん発生します。清掃や巡回時に我々が気づいて拾ってくるケースと、誰かが拾って、管理員室ポストに詰め込んだり、掲示板に画鋲で貼ったり、管理人室の窓のカウンターに勝手に置いていくケースがあります。「落ちてたから、管理人さん処理して」とは一言も書いていませんが、拾得物として処理します。
 でも、洗濯物の場合、「取りに来てくれる」率が非常に低いです。「落ちて汚れたから、もういいや」と思うのか、「わたしは金持ちだから、また別のを買えばいいや」と思っているのか、なかなか引き取り手が現れません。回収率は2割程度です。けっこう高級なシャツだったりしても、来ません。今も、管理人室の中には数十の洗濯物が保管されています。組合さんとの話し合いでは、「一週間保管して、引き取られなかったら、ゴミとして処理していい」と言われています。でも、「もしかして、そのあとに来るかも」と思い、私の判断で、約1ヶ月は保管しておくことにしています。ですから、晴天時に強風が吹くと、その後の管理人室はクリーニング屋さんみたいに洗濯物だらけ(ただし、汚れている)になります。それにしても、いくら衣料品が安くなったとはいえ、思い出だってあるでしょうに、引き取ってもらいたいです。女性用の下着などの場合、「管理人が手をつけたものなんか気持ち悪い」とか「恥ずかしい」といった気持ちもあるかもしれません。でも、他人のブラジャーとか、管理人室に保管して置くのも、こっちが恥ずかしいです。

 「ありえないだろ」と思うのは、学校の体操着とか、そういう制服類です。「**中学校」とか、胸に名前が入っているもので、「これがないと、体育の時、困るんじゃないの?」と思うんですが、それでも、引き取りに来ません。個人名が書いてあれば、お届けしたいんですが、名前はないし。こういうのって、捨てるに捨てられなくて、3年前のがまだ保管してあったりします。(とっくに卒業しちゃっただろうああ)
 
 拾得物処理帳というもの(ノート代は自腹)があり、いちおうそれで管理しています。引き取る際にはサインをいただいています。ページをめくるといろいろなものがあります。洗濯物の次に多いのが、鍵。なんででしょうかねえ、大事なものだと思うんですが、鍵が多いです。自転車の鍵なのかな、そういった小さなものが多いです。一度、キーホルダーごと拾ったことがあって、これには部屋の鍵やらTOYOTAの鍵やら、5〜6本ついていて、「なくした人は困ってるだろうなあ」と思ったのですが、なんと誰も引き取りに来ませんでした。自転車の鍵程度だと、その後は捨ててしまうのですが、これはそういうわけにもいかず、警察に届けました。このマンションは所轄の交番が遠いので面倒な仕事です。警察の話では、「ひったくり犯などの泥棒が、おたくのマンションの裏でカバンの中身をあけて、不要な物を捨てて行くんではないか? 」なんてことを言ってました。それを連想させる不審者情報もあるため、もしかするとそうなのかもしれません。

 たまに、財布を拾うこともあります。今は、メンバーカードだなんだと名前入りのカード類がいっしょにはいっていることが多いため、すぐに持ち主は判明します。そういうものがないときは、掲示して、持ち主を探します。ただし、「○色で、△△のマークの入った財布。中身は5万円」などと具体的に書くのはまずいんです。金額が大きいと、偽者が「私のです」といってくる可能性があるからです。 ですから、単に「財布」とか「貴重品」とか、曖昧な表現で書いておきます。「私が落としました」と言ってきた時は、「これですか?」と実物を出すことはせず、最初に口頭で、「どんな財布ですか」と聞き、特徴や中味が合致した場合にお渡しします。

 めんどくさいのは、小銭です。敷地内を掃除していると、1円とか10円とか、細かい硬貨を拾うことが多いです。残念ながら、500円玉とかお札はありません。この場合は、いちいち掲示するのも大変だし、誰も取りに来るはずがないですから、「雑収入」ということにします。組合さんとの話し合いで、「それで、文具でも買うときの足しにしたら」と言われています。事務用品をほとんど自腹で買っている私ですから、「そうさせてもらおう」と思っています。
 小銭で困るのは、小さな子供が「おじちゃん、これ拾ったよ」と届けてくれるケースです。親が、「拾ったら届けるのよ」と教育してるんでしょうが、管理人としては、1円10円といったコインは上記のような処理をしてしまうので、子供の親切心に応えることができません。といって、きちんとした処理となると、警察に届けることですが、100円玉一個で大の大人が警察に届けると、警官から「書類書く手間のほうが大きいよ。あんた、もらっていいよ」と言われてしまいます。

 心は貧困でも、物は豊かになった日本です。今後も引き取り手のない拾得物が集ってくるでしょう。個人的には、服を捨てるなんて、神様に申し訳なくて嫌な気持ちなんですけどね。でも、衣類リサイクルに出すには、一度きれいに洗濯しないとダメだしなあ。そんなことまでできないもんね。

 



2004/12