管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 脅される管理人 


「住民はあなたにとってお客様でしょう。言うことが聞けないの!」

 
 
 マンションでは、居住者は管理会社にとって「お客様」です。ですから、そのように丁寧に応対しなければなりません。居住者の中には、そういったことを口に出して、無理難題を押し付けようとする困った人もいます。三波春夫と勘違いして「自分は神様」だと思ってます。でも、神様は非常識なことはしません。私は「だめなものはだめです」というほうですが、それでも、屈しそうになることもあります。「気の弱い」「お人よし」の管理人だと、脅迫まがいの無理を押し付けられることも多いようです。管理人というのは実に弱い立場にいます。おそらく、組合理事長が相手なら、絶対にそんなこと言わないようなことでも、管理人相手だと平気で言うのです。



<立体駐車場の規格オーバー>
 機械式駐車場というのは、置ける自動車の規格というのがはっきりと規定されており、それを超える大きさのものは置けません。ただ、こういう機械物は「多少の余裕」を見て規定されているため、実際は多少大きくても&重くても、置くことができます。しかし、規格オーバーのものを置くと、「違反」であり、メーカーやメンテナンス業者の保証対象外となってしまい、何か故障などが起きたときに、「違反した車両を置いたそちらの責任です。うちでは責任は負えません」とつっぱねられてしまうこともありえます。また、きちんとした管理組合・管理会社だと、「新規申し込みの際は車検証のコピーを添付して下さい」となっており、それで規格を確認することは可能ですが、いい加減な組合・会社だと、そういったチェックをしないで、入庫させてしまうため、あとになってから、「あの車、ちょっと大きすぎない?」などと、他の居住者から指摘されることがあります。今は普通のセダンが不人気で、背の高い、室内の広い車が流行っているため、「立体駐車場に入るギリギリのサイズ」ばかりで、神経を使います。立体駐車場も機種によって微妙に規格が異なるため、「残念、2センチオーバーです」といった、「F1で、ニキラウダのフェラーリが、ジェームスハントのマクラーレンの車体の規格違反をちくった」みたいなことも、ままあることです。車を購入する際は、特に高さのことを気にして買ってください。当マンションは平置きのため、少しは気が楽です。

 某マンションでの話。そこは車検証コピーを提出させる、きちんとした組合なので、利用申込書受理時点で、規格オーバーがばれてしまいました。しかし、その住民は管理人に対して、「5センチオーバーしたくらいでなんだ。問題なくちゃんと入るんだからいいだろ! 文句あるか!」とゴリ押しします。「そうはいっても、メーカーからも、”1センチでもオーバーした車を入れたら保証外です”と言われてるんで、そういうわけにはいかなんです」「いちいちうるせいな。そんなの、おまえが黙っていれば誰も気づかないよ。なんだ、おまえは、客の言うことが聞けないのか! 管理人なんて、おれたちが払った管理費で給料もらってるんだろ!  いまさら、買い換えることなんかできねえんだよ。それとも何か? おまえが金払って、別の車買ってくれるのか!」と、管理人を脅します。最初から、「5センチ、10センチくらい関係ネエや」と思っている確信犯です。(それにしても、自動車のディーラーもそういうことを確認せずに売るんですかネエ。車庫証明の申請の時に、どんな車庫なのか見に来るはずだけど。無責任だなあ)

 結局、そこの管理人さんは脅しに負けてしまいました。でも、そういうことって、いつかはばれます。「同じ車種を買おうと思って検討したが、規格オーバーだったのにあきらめた」といった人が新たに現れるからです。そういう人は、「あれ、あの車は規格外なのに、なんで置いてあるんだ。車高160cmじゃ5cmオーバーだろうに」と疑問に思って、管理人に理由を聞きにくるのです。そうすると、「脅しに負けて、規格外の車の入庫を許可してしまったこと」がばれてしまいます。「ちゃんと管理しろ」と怒られます。規格外の車を置いた人間がシラをきって、「俺は無理なんか言ってないよ。管理人が”大丈夫”ていうから置いたんだ」などと証言しようものなら、この管理人さんはボロボロに怒られます。つらい立場ですね。



<屋上のパラボラアンテナ>

 衛星放送だCS放送だ、スカパーだ・・・などといろいろな放送があります。最新のマンションだと、すべて最初から見られるようになっているところもあるそうですが、そうでないマンションでは、視聴希望者がベランダなどにあとから設置します。美観を重視する高級マンションでは、「パラボラアンテナは禁止」と規定しているところもありますが、たいていのマンションではそういった規則はありません。「常識での判断」に任されています。
 当マンションでは、OKということになっています(実際は、問題が表面化したときに追承認しただけのことですが)。 「よそのマンションでもベランダに設置してあるから、いいと思って勝手につけた」という人、けっこういますね。管理人に「設置してもいいの?」と聞くこともありません。(しっかりした電気工事会社は、そこのスタッフが事前に連絡してきて確認しますが、そういうところはごく少数です)

 よそのマンションで、規定がはっきりしていない場合、いろいろと問題のあるマンションもあります。「管理人に無断で設置」の場合は、管理人は何も関知しません。もちろん巡回の際に気づきますが、わざわざ組合に対して問題を提起するのも面倒なので何も言いません。「管理人さん、つけていいのかなあ?」と聞かれた場合は、理事長へ確認をとります。いい加減な理事長の場合、「規定ってないんだっけ? じゃあ、僕じゃ判断できないな。管理人さんが判断してよ」とか「今は、よそでもよく見かけるからいいんじゃないの? OKしても」といった生半可な返答が多く、理事会の議題にして、みんなで話し合って、ちゃんと規定するようなことに持っていく理事長はあまりいないようです。そんなわけで、「禁止の規定」がない場合は、たいていはOKしてしまいます。問題はそのあとです。「アンテナばかり増えて、みっともない。美感上問題だ。本来、共用部分であるベランダに工作物を設置してはいけないのではないか?」とか、「8階のアンテナ、あれ、もう使ってないんじゃないか? 風が吹くとガタガタいってるぞ。落ちたらどうするんだ!」といった苦情が出る場合があります。こういった時の責任は管理人に押し付けられます。「でも、理事長がOKといったので」と反論しても、「無知な理事長に規則を教えるのも管理会社の仕事だろう」などと開き直って叱られることもあります。

 まあ、それでも、ベランダのアンテナというのは、社会常識としてある程度市民権を得ているからいいんですが、なかにはとんでもないところにアンテナを設置する住民がいます。
 別のマンションの悲惨な管理人さんの話。電気工事会社の人間が管理人室にやってきました。「管理人さん。屋上に上がるんで、鍵あけてよ」との依頼。「え? 何も聞いてませんけど。いったい何の工事ですか?」「○○○号室の住民が、屋上にCS放送のアンテナつけるんだよ。聞いてないの?」「え、そんなこと急に言われても。屋上は共用部分だし、立ち入り禁止区域だし、個人のアンテナなんかつけられないですよ」「そんなこと、俺に言われてもなあ。お客さんは”管理人にOKもらった”といってたよ」「そんなこと言ってないですよ。許可するわけないじゃないですか」「だよな。俺も最初に話を聞いたときにおかしいと思ったんだよ。でもよ。あの部屋のベランダは北向きだから、ベランダにアンテナつけても電波拾えないから、どこか別の場所につけないとダメなんだよ。とにかく、お客さんと話し合ってよ。俺たちはきちんとした許可がないと工事しないからさ」、といったんひきあげていきました。
 そのあと、当事者の住民が管理人室にどなりこんできました。「なんでだめなんだ」「ダメですよ、屋上なんて。共用部分ですよ」「共用部分なんだから、いいだろう」「違いますよ。共用部分に個人所有のものは置けません」「しかしなあ、屋上にアンテナ設置するしか方法がないんだ。なんとかしろ」「そうはいわれてもダメです。管理規約よく読んでください」・・・・そうしたら、その住民、切れてしまいました。
 「バカ野郎、俺様の言うことが聞けネエのか?  管理人ごときが法律なんてぶってんじゃねえよ。黙って客の言うことを聞け。おめえは俺たちの管理費で雇われてるだぞ」「そんな。無理言わないで下さい」「てめえ、俺を誰だと思ってるんだ。ふざけたこと抜かすと、指つめるぞ」(なんかヤクザ屋さんみたいです)「脅さないで下さいよ。規約違反を許可したら、こっちのクビが飛びますから」「屋上は立ち入り禁止なんだから、おまが黙ってればバレねえだろ。誰にも迷惑かけることじゃねえだろ。」とゴリ押しされて、結局、屋上の鍵を渡す羽目になったそうです。
 3年後。この間、アンテナの件は誰にもばれませんでした。そして、ヤクザ住民も転出してしまい、一安心です。でも、アンテナの処理を何もしないで出て行ってしまいました。本当は片付けたいんですが、危険な場所に設置してあったため、高所作業の素人が取り外せるような状態ではありません。しかたなくそのまま放置していました。そのちょっと後、台風がきた時に、屋上から、ヤクザの部屋に伸びていたケーブルが外れてブランブランしてしまい、それを見た他の住民が「あれはなんなんだ」ということになりました。その後、管理人は詰問され、ことがバレました。当事者のヤクザはいなくなってしまったため、証言を得られず、責任はすべて管理人に押し付けられました。「屋上に個人の工作物を置かせるなんて非常識だ。管理会社は何を教育してるんだ」と理事会はオカンムリです。そして、管理会社負担でアンテナの撤去作業が行なわれました。高所作業のスタッフです。この管理人さん、組合からも会社からもボロクソいわれてかわいそうでした。

 管理人。つらい立場です。規則を遵守すると脅迫され、脅迫に屈すると、「なんで断れないんだ」と怒られ、どっちにころんでも損な役回りです。理事長が前面に出て、「だめなものはだめだ」ときっぱり言ってくれればいいですが、優柔不断な理事長だとこれも大変。

 よく、マンションに関する記事をマスコミで見ると、「うちの管理人さんは、人当たりが柔らかくて、温厚で優しい人で・・・・・」と書いてありますが、「そういう人は脅されやすいだろうなあ」と心配してしまいます。
 


2005/2