管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

議決権行使書と委任状 (最高裁国民審査も)




 全国各地のマンションでは総会の時期で、管理会社が一番忙しい時期です。当方のフロントマンも、よそが忙しいのか、ここのところまったく顔を見せません。

 理事長経験者やマンション管理会社の人間はよくいいます。「総会なんて簡単さ。委任状さえ集めてしまえば、どんな議案だって通る」と。

 たしかにこれって事実です。マンションの総会というのは、出席率がどこでも低いです。非常に熱心なマンションでも、6割出ればいいほうで、平均すれば3割切ってるんじゃないでしょうか? 
 出席しない人はどうするかというと、委任状を出しておしまいです。「俺は委任状を出すから欠席する。あとはよろしく、勝手にやってくれ」というのが委任状です。

 でも、本来の委任状の「委任」って、「自分は都合が悪くて出席できない。代わりに私の知人の○○さんに出てもらいますので委任状を出します」というものでしょ? それがなぜか、マンションでは、「議長に一任します」というものになっています。議長=理事長であり、議長は議案を出す張本人ですから、当然議案には賛成です。つまり、委任状というのは、「賛成票」ということになります。
 出席者が1割で、この出席者が全員反対しても、委任状を5割集めてあれば、議案は可決します。普通決議は過半数で可決ですから、「賃貸のオーナーが委任状を出してくれない」「○○さん、夜逃げして行方不明」というのが多少あっても、がんばって委任状を半数集めれば、そのときの理事会の好きなように議案を可決できます。これが、「理事長が独裁的に好きなことをやろうとすれば、できないことはない」という理論の根拠です。

 ただし、この手法を逆手にとって、”理事会では他の役員に押し切られて、理事長個人としては不本意なことを議案として上程させられた。理事長本人はこの議案には反対している。しかし、多数決原理の理事会で決まったことなのでしかたなく、総会議案とした。ここで、理事長は「委任状=理事長に一任」を悪用して、総会の場でクーデターを起こし、「私はこの議案に反対です。そして、5割の人が委任状を出して、私に一任してくれています。ですから、この委任状を出した人たちも議案に反対していることになります」と理事会に反旗を翻し、その議案を否決する”といったことが可能になります。「そんなことする理事長なんかいないだろう」と思う人もいるかもしれませんが、「業者からリベートをもらい、私服を肥やす理事長を解任したい」といった議案を総会に乗せる場合は、理事長は当然この方法を使うはずです。

 私はこの「委任状」という制度に大きな疑問を持ちます。

 運営する側からすると、どんなに住民が組合活動に無関心でも、なんとか運営できてしまうという、非常にありがたい制度ですが、民主主義に反します。委任状というのは要するに棄権扱いされています。そして、「棄権=私は何も文句をいいませんからお好きにどうぞ」と扱われています。これじゃ、まるで、衆議院選挙の時にこそこそと同時実施される、「最高裁判事の国民審査」みたいなものです。マスコミもまったく取り上げず、行政もしらんぷりですが、あの国民審査は本当は非常に重要な国民の権利です。昔の公害裁判や行政が被告になった裁判では、ほとんどが最高裁で、大企業や行政が勝訴してしまいます。こういった、おかしな、庶民感覚を持たない最高裁判事を罷免する、批判するには、この国民審査が大事なのに、ほとんどの人が用紙を白紙のまま投函します。この制度は、国側に有利なように作られており、「白紙=最高裁判事全員を信任します」と扱われるのです。

 私が思うに、白紙というのは、国民に相手にされなかった、国民が納得できる裁判をしていなかったということであり、不信任だと考えます。もし、現状の国民審査を、「信任する裁判官に投票する。得票が全有権者の過半数を超えた場合に、その判事は存続できる」とすれば、最高裁判事は全員罷免されるはずです。こうなれば、、「そんなことになっては困る」、と一生懸命に仕事をし、行政やマスコミも積極的に裁判の広報を行なうでしょう。裁判結果も、国民の意思を反映するようになり、ずいぶんよくなるはずです。

 このように、「棄権」「無関心」を自動的に「賛成」とするのはおかしな制度だと思います。

 それに、「自分は組合活動に関心があり、今回の総会もぜひ出席したい。しかし、仕事でどうしても出席できない。かといって、代理に出席してくれるような知人もいない。委任状を出せばいいのだろうが、自分は第一号議案には賛成なのだが、第二号議案には反対である。委任状では両案とも賛成ということになってしまう。これは困る。委任状制度では自分の意見が生かせない。これはおかしい制度である」という声もあります。総会議案がひとつだけであれば、「委任状提出=賛成」「委任状を出さない=反対」というふうに意見を表明できますが、複数の議案があり、議案によって賛成反対が分かれる場合は、委任状では意味をなさないのです。

 このため、民主的な運営をする組合では、「委任状はあくまでも代理の人間を出席させる時に使うもの」として、これとは別に「議決権行使書」という制度を取り入れています。これは、議案ひとつひとつについて、賛成・反対の○をつけることができるもので、まさしく、議決権を各議案ごとに行使できるものです。これであれば、「1番は賛成だが2番は反対」という組合員の意見を正確に反映させることができます。

 ですから、現代のマンション総会ではすべて「議決権行使書」という制度を取り入れるべきなんですが、これがなかなか浸透しません。無知が原因だと思いますが、管理会社も悪いと思います。議決権行使書にすると、「全部議長に任せます。つまり全部賛成です」とはなりません。ですから議案が否決される可能性が高くなります。特に4分の3以上の賛成が必要な特別決議では、簡単に可決できません。(そして特別決議が必要な案件といえば、大規模修繕とか、大掛かりな工事とか、管理会社の重要な利益源になるものが多いです) また、集計の事務量も増えます。
 そんなわけで、管理会社は「円滑な総会議事運営に支障が出るから、自分から進んで、薦めるようなことはしない」と考えています。行使書制度の場合、議案が可決するようにするには、総会前にきちんと各議案の説明を組合員にして、理解を得る努力も必要です。今までのように、「理事会を定期的に開くことすらない」「理事会を開いても、その予告もしない、何が話し合われたかも組合員に発表しない」「議案は管理会社が勝手に都合のいいように作ってしまう」といったことがやりにくくなります。

 逆にいうと、委任状制度があるから、メチャクチャな管理をしていても、理事会役員が何もしなくても、組合員がまったく無関心でも、なんとか組合運営が表面的にはできてしまうのです。

 私は
マンション管理の諸悪の根源のひとつは「委任状制度」だと思います。

(そんなわけで私は、、当マンションの理事長に対しても、「議決権行使書になんでしないんですか?」と薦めていますが、毎年、「そんなのめんどくさいよ」と断られ、フロントからは、「余計なことをするな!寝た子を起こすな」と叱られております。また、自分が住むマンションでは理事会に対し、「委任状じゃだめだ」と忠告してますが、これも無視されています。うちは土曜日に総会なんですが、当然私は仕事で出席できないため、委任状を出さざるを得ないのですが、自分で勝手に議決権行使書を作って、それに書いて提出しています。)

 議決権行使書というものを知らないマンション住民て、国内に何千万人いるんでしょうか? かなりいそうです。



2005/5
委任状さえあれば、こっちのものさ。楽勝。