管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

仏像作って魂いれず
 





  管理人というのはバカにされる職業です。

 幼稚園児にまで舐められます。仕事柄、居住者に「マナー違反の注意」をいったりすることがありますが、「管理人のくせに何言ってるのよ」とか、すぐに反論されます。「あたしたちの管理費で食ってるくせに注意なんかする資格ないでしょ」とか言われます。
 世の中には”常識”というものがあって、常識が生活上の尺度だと思うのですが、マンションでは常識は通用しません。ですから、我々が居住者にお願いする・注意する時は、具体的な後ろ盾・根拠が必要です。それはつまり、「管理規約」「使用細則」「管理委託契約」「区分所有法や適正化法など各種法令」などです。こういった公式のものを盾にするしかないのです。

 知り合いの管理人さんには、このことを肝に銘じている人がいて、よく勉強しています。ペットに関する法律も良く知っているし、デスクの上には「消防六法」なんて本まであります。この業界、勉強好きな人が多いのは事実ですが、マンション管理士顔負けの知識を実は持っている、という人もいて、私なんか脱帽です。
 
 「そんなことしちゃだめですよ」「うるせいな、なんで悪いんだ! 関係ネエだろ!」「いいえ、規約第20条ではこう書かれていて、禁止されていますよ。あなたは購入時にこの規約を守ることにサインしてますよ」とたしなめるほうが効きます。

 ただ、どうしようもない奴もいるわけで、「規約なんて破るためにあるんだよ」と開き直るケースもあります。しかし、なんらかのトラブルになった時に、きちんとした公的なものにもとづいていれば、いきなり、解雇なんてことはありませんし、先方も非を認めざるを得ないですから、「常識」を基準にして動くよりは、「規約」「使用細則」に基づいて動く方が、安全です。

 というわけで、管理人の唯一の拠り所が、こういった規約類なんですが、ちゃんと作って欲しいものなのに、穴がけっこう多いです。規約類というのは、たいていは、分譲会社が国の標準管理規約をコピーして作ってしまうものです。いちおう体裁は整っていますが、各マンションの特性に合わせて作ったものではないので、ところどころ不具合があります。また、古いマンションほど、古い標準管理規約を元につくっていますので、これも現代には通用しないところが多いです。

 また、あいまいな規約・細則も困ります。たとえばペットに関するもの。
「小動物はOK,それ以外は飼育禁止」
これ、 「小動物」って何よ? 具体的に言ってくれないとわからないです。レトリバー犬だって、象に比べれば小動物です。
 騒音に関するものも困ります。「大きな音を立てて近隣に迷惑かけない」 大きな音って何デジベルから? 「遮音性の高いフローリング材を使うこと」 何等級なの?

 とにかく、”常識が通じない人が住む”のがマンションなんですから、なんでもかんでも具体的に書かないとダメなんです。

 当マンションのペット飼育細則も、もともとペット禁止を明記されて分譲したマンションなのに、違反者を事後承認するために無理やりつくられました。当時の理事長は自称インテリで、法律の知識をふりかざして、勝手にどんどん決めてしまったそうです。(管理会社は、管理が面倒になるペットをOKにすることは反対) でも、こういうインテリって、頭でっかちで実際は困ります。
、「大きさ50センチ以下の小型種に限る」とか書いてありますが、まず、大きさってどう測るんですが? 犬や猫の場合、シッポは含むの?ずっとベロ出してるけど、それはどうするの?  「成長時」って書かないと、「子犬の時は50センチ以下だったわよ」と開き直る飼い主もいます。
 また、「違反者が出た場合には、別途定めるペット会会則によって、ペット会は適切に対応する」って書いてあるけど、その会則って知りません。(実は、会則を作っていなかった)
 おおまかな飼育細則だけ作って、総会を無理やり通し(委任状さえあれば簡単に通せるから)、とにかく犬猫を飼えるようにした、としか思えません。みんなが細則を守ればいいけど、守らない時にどうするかをきちんと明記しておかないと無意味です。だいたい、もともとマンションの規約に違反してペットを飼っていた人が、新たにできる飼育細則を守るはずがないです。未成年の頃から、法律違反してタバコを吸っていた人は、条例違反のポイ捨てを平気でするでしょう。同じです。
 違反者に対する対処は、ペット会には無理です。もともと全員違反者なんですから。理事会(非飼い主の役員)で対処すべきでしょう。ペット会に任せたら、自分たちに都合のいいようにしか解釈しません。「会員一覧を組合に提出する」と書いてあっても、出さないし。

 とにかく、規則を作る際は、実際に運用した時にどうなるかを考えて作って欲しいです。具体的、実用的に条文を書いて下さい。また、問題がおきた時の対処方法を定めておかないと無意味です。
 それに管理組合の役員というのは輪番制で毎年入れ替わります。規則を作った張本人が、規則発足後には役員ではなくなっているのです。規則作成後の監視や実践が大事なのに、これは何にも知識のない次期役員の役目になってしまいます。
 
 のっぺらぼうの仏像だけ作っても、魂が入っていないと管理するほうは困ります。



2005/5