管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

「身内の恥」は隠さずに、正直にさらしてしまうほうがいいですよ





2014/3


この前、NHKテレビ「生でさだまさし」でアナウンサーが「住民の高齢化が進んでいる」と言うべきところを「住民の老朽化が進んでいる」と言ってしまうポカをやらかしましたが、「まあたしかに、老朽化なんだよなあ」と妙に納得してしまいました。

さて、築年数の経過した、老朽化マンションで管理人をしていると、とにかく、たくさんの「認知症」の高齢者を見てきています。

「家族」とか「身内」の恥というのは、それを周囲の人にさらけ出すのは、すごく嫌な事で、勇気が必要なことだとは思うけど、マンション内でいろんなケースを見ていると、「重篤になる前に、早めに、さらしてしまうほうが楽ですよ」とアドバイスイしたいです。


 先日、こんなことがありました。

1「こんな人が住んでたの???」
ある部屋に救急車が来ました。わりと面積の広い部屋なんですが、私の手元の資料(入居届とかをもとにしています)では「中年男性の一人暮らし」という認識だったのですが、救急隊員が、その部屋から連れ出した人は・・・・・
「年老いたおばあさん」のご遺体でした。その男性の母親でした。あとで、その人の親戚がやってきたので、少し内情を教えてくれたのですが。入居以来、実際は、認知症を患う老母と息子の2人暮らしだったようです。でも、母親は一切部屋から出ることがなかったようでして。かといって、ホームヘルパーなんかも頼んでおらず、この息子さんがずっと世話をしていたようです。
隣室の住民でさえ、「男性の一人暮らしだと思っていた」と言ってるくらいですから、ほんと、ひっそりと暮らしていたようです。よくまあ、そんな息の詰まるような生活をして、母親の介護を続けてこれたなあ、と感心しつつ、「無理に隠さないで、公的機関の援助も受ければよかったのに」とも思いました。


2「傷害事件に発展」
認知症患者ではあるが、一見すると、まともに見えるAさんが、同じ階に住むBさんのところ(両者にはほとんどつきあいはない)へ訪問し、いきなり、「この前、あんたに貸した5万円を返せ」と言ったそうです。
Bさんは、そんなお金は借りていないのですが、Aさんは、「返せ」「返せ」とうるさくいい続けます。玄関のドアを開けたままの会話なので、廊下を通り過ぎる、他の住民の耳にも入ってしまいます。

他人の目も気になり、冤罪への怒りが爆発したBさんは、「ふざけるな、金なんか借りてねえだろ!」と怒ってしまい、弾みで殴ってしまったそうです。それで、Aさんが負傷してしまい・・・・・・・ それを見ていた別の住民が、救急車や警察を呼んだりして、おおごとになってしまったわけで。

これも、「Aさんは認知症で、外見はまともに見えるが、頭の中身は完全にぼけていて虚言が多い」ってことを、Bさんがあらかじめ知っていれば、こんな傷害事件にはならなかったわけでして。
私はAさんのことを知っていましたが、 今は個人情報保護がうるさいので、管理人から「Aさんは認知症なんですよ」と吹聴するわけにもいきません。やっぱり、ご家族が動いてくれないと無理です。


こういった経験から毎回思うことですが、「認知症の患者に関して、家族は隠しすぎる」ということ。

私は、信条として、「なんでも情報公開すべき」と思っています。

特にマンション生活においては、「上の階にどんな人が住んでいるのか知らないと、上の階の騒音がよりいっそううるさく感じる」なんてことがあります。これ が、「元気な子供がいる」ってわかっていると、「子供だからしょうがないよなあ」と、そんなにうるさく感じなかったりするもので。

「奇声を上げて騒ぐ人」なんかもいますが、これが「誰なのかわからない」と、実に不気味で怖いものですが、その人のことを知っていれば、「あの人は頭がおかしいから、しょうがないんだ」と納得することも可能です。

深夜に、どこかで工事をやっていて、その騒音がうるさく感じることも、事前に、掲示板で「地中の下水道管の工事を行なう」ってことを知っていれば、覚悟ができてますので、そんなに頭にきません。

要するに、「知識があれば、心構えができている」ってことです。
おばけ屋敷だって、二回目の入場で、「あそこの角を曲がるところに、ろくろっくびがいる」ってことがわかっていれば、そんなに怖くはないです。


私は、住民内で認知症の患者が出ると、ご家族とかには、「恥だと思って隠したい気持ちはわかりますが、隠すと、なにかあった時に、おおごとになってしま い、かえってよくないですよ。初期症状のうちに、ご近所の皆さんに包み隠さず事実を伝えて、協力をあおぐほうが、両者ともにいいことなんですよ」と説得するようにしています。

でも、やっぱり、皆さん、そういうのをご近所に告白するのは嫌みたいで、たいてい、なにか大事が起きて、それで周囲に知られる、すごい迷惑をかけたから、このマンションにはいられなくなる・・・・・・みたいな悲劇的な流れが多くて悲しいのです。そして、「住民個人のことにはノータッチ」であるはずの管理人の仕事なのに、いろいろと面倒な仕事をやらされるわけで、私個人としても困るのです。管理会社だって、深夜の緊急受付センターに変な電話が行ったりするわけだし。

周囲で、Aさんは認知症だとわかっている人が大勢いれば、Aさんが徘徊しているのを見たら、家族に通報してくれるかもしれません。逆に誰も知らないと、A さんが夜中に河原を徘徊していても、「散歩してるんだろ」としか思わず、翌朝、Aさんが死体で発見されたりすることもあるわけで。(「うちのマンションのステッカーを貼った自転車に乗った人が行き倒れてる」ってことで、警察から現場に呼ばれて、ご遺体の身元確認をやらされたこともあります。嫌な仕事だなあ。こんなの管理人業務じゃないのに)

ですから、恥だから隠し通そう、とか思わずに、できれば、初期段階のうちに、向こう三軒両隣に伝えるほうがいいんです。当然、管理人にも、管理組合にも伝えてください。ほんと、現場からのお願いです。

管理組合も「住民個人の案件には立ち入らない」という消極的な態度ではなく、なにかことがおきれば、多くの住民に迷惑がかかる場合もあるのですから、管理組合名で「**さんは認知症です。ご注意下さい」っていう手紙を近所に配布するくらいのことをしてもいいと思います。

うちのマンションには、2日に1回くらいの頻度で管理室に来て、「おい、さぼってばっかりいるんじゃねえよ。もっとしっかり働け!」と、毎回同じように怒鳴る認知症住民がいて、これなんか、通りがかりで、初めて聞く人だと、「ここの管理人は仕事をしない」と完全に誤解してしまうわけで、私も困っています。