管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

近隣協定  近所づきあいの難しさ & 犬飼い主の横暴



 このマンションが建っている地域は、昔は工場地帯だったそうです。そのため、今も、多くの工場が近くに残っています。

 私は詳しくないのですが、マンションを新たに建設する際には、ご近所との間で、「近隣協定」というものを結ぶことがあるそうです。わりと有名なのは「電波障害」。建物が建つために、それがテレビの電波を遮るため、陰になる家に対して、補償として、アンテナ工事をする、といったものです。

 さて、以前、こんなことがありました。

 電話が来ました。「あ、もしもし、**マンションさん?」「はい、そうです」「私ね、おたくの近くのA鉄鋼という会社のものだけど、昨日ね、おたくの住民だと言う人が、うちに苦情の電話をかけてきたのよ。」「はあ、どういったことで」「工場の操業音がうるさい! って言ってきたの」「はあ、たしかにうるさいといえばうるさいかもしれませんが・・・」「あのね、うちはお宅のマンションが建つ前から、ここで商売してるの。お宅は文句言えないのよ」「というのは、どういうことでしょうか?」「近隣協定というのがあるの! とにかく、管理人さん、1回うちに来てよ」「はああ」・・・・・

 そんな経緯で、その工場に行きました。そして、書類を見せられました。「遮音壁などの措置をとって騒音の軽減を図る。しかし、それ以上のことはしない。マンション住民も騒音に対して苦情を言ってはいけない」といった内容の協定書がありました。「はあ、なるほど、こういうのがあるんですか? だったら、直接、その住民にそう返答すればいいのに」「電話してきたおたくの住民って、マンション名だけ言って、部屋番号も名前も名乗らずに、ただ、”うるさいからなんとかしろ!”って、すぐに切っちゃったのよ。だから、返答する暇がなかったの!」「そうですか、それはすいませんでした。組合さんと相談して対策を考えます」と言って、引き上げてきました。

 すぐに理事長に手紙を書いたのですが、「俺は、途中で引っ越してきた人間だから、近隣協定というのは知らないなあ」との返答。仕方ないので、特に役員というわけではないのですが、普通の住民で、古そうな人何人かにあたってみたら、「ああ、そういえば、購入時の重要事項説明会でそういうの聞いたわよ。要するに、”工場地帯に建てられるマンションだから、あとから来る人は多少の騒音には文句を言うな”、ってやつよ」。

 当時の重要事項説明書を持っている人を探したのですが、残念ながら見つかりませんでした。ただ、上記の証言もありますし、A鉄鋼さんでは、そういう書類を見たので、間違いないと思います。理事長にもそう説明しました。ただ、苦情を言った本人が誰なのかわからないので、その人に説明することができません。困りました。

 2〜3日後、また、A鉄鋼さんから電話が来て、「また、同じ人から電話が来たわよ。今度は近隣協定の話をしたけど、”そんなの関係ない! うるさいからうるさいんだ!”と言って切っちゃたわよ。おたくのほうでなんとかしてくれない? それにね、お宅の住民でマルチーズ犬飼っている人いるでしょ。その人ね、しょっちゅう、うちの工場の前の電柱にオシッコひっかけるのよ。こっちのほうがお宅から迷惑かけられているのよ!」と逆襲されてしまいました。
 このマルチーズに関しては、誰だかわかっており、以前、この地区の町内会長からも苦情を言われました。それにしても、苦情の窓口はいつも管理人です。ストレスたまります。「マルチーズはCさんです、直接文句言ってくれませんか?」と頼みましたが、町内会長さん、本人に言うのは嫌な様子で、「あんたから伝えておいてくれ」と言って去っていきました。このCさんに関しては、散歩の途中であちこちで糞尿させているようで、以前にも他のご近所から文句が来ていました。一度、直接、苦情を本人に伝えたのですが、まったく反省せず、逆に、「マンションの敷地外のことは、あんたには関係ないでしょ! でしゃばらないで! 何の権利があってあたしにそんなこと言うのよ!」とキレてしまい、会社に苦情電話(「管理人が業務範囲外のことを勝手にやっている」という言いがかり)が行き、ひどい目にあいました。今回は、これはさけようと、理事長に報告するとともに、ペット飼育者の会の会長さんに伝えて善処を求めました。
 会長さんは、「そんなことあたしに言われても・・・」と逃げました。「でも、会長、飼育規則には、"飼い主の起こした問題には、会全体として解決を図る”と書いてありますよ。そちらで何とかして下さい。私の言うことは聞いてくれないのですから・・・」と懇願しましたが、結局何もしてくれませんでした。
 私も嫌になりましたので、その後、苦情が来ても、「マンションの外の事に関しては、管理会社の範疇外です。ご本人に直接言うか、理事長に言ってください。」と、名前と部屋番号を伝えて、つっぱねるようにしています(卑怯な手ですが、仕方ないです)。相手によっては、「なんだその態度は、おまえは管理人だろ、住民をちゃん管理しろ!」と、理不尽なことを言ってくる人もいます。しかたないので、管理委託契約書を見せて、懇切丁寧に説明して、「管理人の業務範囲」の説明をしてあげます。でも、鋭い相手だと、「この"官公庁との連絡"の中に入るんじゃないのか?」と、拡大解釈して食い下がってくる人もいて、始末に負えません。
 
 ほんと、いつも、なんでもかんでも管理人です。

 工場騒音については、苦情主が判明しないため、しかたなく、近隣協定の事情を記した解説掲示を作成し、各所に貼りだしました。その後、苦情はおさまったようです。

 管理員室にいるとさほど気にならないのですが、上の階の人にとっては、たしかに多少うるさいかもしれません。上に行くほど、遠くの音も聞こえてきますし。途中から入居してきて、仲介不動産業者から、近隣協定のことを聞いていない人は、文句を言うのもわかります。(不動産業者も説明しないといかんよなあ)

 この騒音というのは、夏になると大きくなります。工場が暑いので、扉を開けて操業するからです。ですから、毎年夏になると、この問題が発生し、そのたびに説明したり、掲示物をはったりします。大変です。扉閉めてくれないかなあ。

  そういうわけで、A鉄鋼さん、「協定があるんだから、いいんだ」とか、「犬に関してはうちは被害者」という顔をしています。つまり、当マンションを加害者扱いしてちょっとえばるのです。つい、先日も、電話が来て、「ねえ、管理人さん。お宅では古紙回収やってるわよね。うちもダンボールがたくさん出るのよ。ただであげるからさあ、取りに来てよ」、ずいぶん馴れ馴れしい命令口調です。ちょっとカチンときました。
「うちの古紙回収におたくは何の関係があるんですか? なんで、私がお宅に行ってダンボールを引き取らなくてはいけないんですか?」「え、だって、ダンボールってお金になるでしょう。それをただであげるんだから、いいじゃないの」「いいえ、うちは関係ないです。だいたい、紙の値段なんて、1キロ3〜4円ですよ、数十円のために、わざわざお宅まで出向いて持ってくるなんてことしませんよ。保管する場所もないし。お宅のゴミを押し付けないで下さい」と言ってやりました。
 バカにしてます。だいたい、工場で出るゴミは事業系廃棄物ですから、マンションなどの家庭ごみに加えることはできないです。産廃は処理するのにお金がかかりますから、それを「タダ」にしょうと思ったのだと思います。ふざけてます。

 こういう、近所との関係も、管理人に押し付けるものなんでしょうか? 

 それにしても、近所の人というのは、大きなマンションで何百人もの住民がいるというのに、たった一人の悪質住民のために、「あのマンションはだめだ」と、全体を否定するような感情を持つことがあります。難しいですね。ご近所付き合いは。

 


2005/7

工場地帯になる前は森でした。