管理人はつらいよ
マンション管理最前線
管理費等の流れ あらためて説明してみます |
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質問ですが、管理費、修繕積立金は、どのように流れているのでしょうか。
まず、各居住者の口座から引かれた金が、管理組合名義か管理会社名義の口座に振り込まれると思います。
この段階で、未納のチェックが行われると思うのですが、チェックするのは誰でしょうか?
銀行?管理会社?管理人?
次にプールされた金を積立口座や、各種点検費、清掃費などに振り込むと思うのですが、
この作業は、誰がするのでしょうか。
管理会社?管理人?
要は、管理委託費が、戸数に比例するのかどうか、それが妥当なのかが知りたいです。
滞納督促は、それなりに手がかかり、戸数比例すると思うのですが、
諸経費振込みは、戸数無関係では、と思ったりします。
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以上のような質問がありました。長い返答になるため&多くの人が知っておいたほうがよいと思われる事柄のため、独立したコンテンツとして作成します。
なお、組合によって事情は異なるため、すべてのマンションにあてはまるものではないかもしれません。ご承知おき下さい。
<事前知識>
□管理規約などで、"管理費等”と言われているのものは、「管理費」の他にも、「修繕積立金」「駐車場利用料」「駐輪場利用料」「専用庭利用料」「ルーフバルコニー利用料」「トランクルーム利用料」「自治会費」など、様々なものを含んだ用語です。
□振り替えの方法ですが、以前は、「マンションの近くの銀行に組合専用の口座を作り、かつ、組合員全員も同じ支店に普通口座を強制的に作ってもらい、各組合員の口座から、組合の口座に振り替える」という方法(傲慢な管理会社は、マンションの近くの支店ではなく、自分の会社の近くの銀行に作ったりします)でしたが、最近は、中間に”ファイナンス会社”を通すことが多くなりました。
ファイナンス会社を通すと、「指定銀行」というものが不要で、主だったどこの金融機関からでも管理費等を引き落とすことが可能になり、便利です。また、ファイナンス会社との契約によっては、振り替えにかかる手数料が節約できる場合もあります。「そのファイナンス会社がつぶれたら大変なんでは?」という心配もありますが、ファイナンス会社のところにお金がキープされる期間はごくごく短いので、大丈夫か、と思われます。
ただし、「売買により組合員が変わった」などの変更の手続きは、間に1会社入ることにより、長期間かかる場合があります。
<流れ>
「組合員の口座から引き落とした管理費等」 ↓(ファイナンス会社経由の場合もあり) 「管理組合名義の銀行普通口座へ入金」
(適正化法施行以降、管理会社名義の口座はないはずです。あったら、そこは危ないです)↓ 「銀行またはファイナンス会社が入金明細表を発行」 ↓ ↓ <未納者対応> 「毎月1回、管理費等の普通口座から、修繕積立金相当額を、修繕積立金専用口座へ移し替え」
(たいていは自動振り替えのため、何もすることはない)
以前は悪質な業者は、これをやらずに、管理費口座にずっと積立金も入れたままで、”せ〜の”と全額横領するようなことをしていた。今でもルーズな業者は、毎月移し替えせずに、年に1回だったりする。「管理会社経理担当へ。そして、未納者リスト作成。各未納者宛の督促状作成」
(この事務仕事は、滞納者の数が多いと大変。当マンションでは、督促状作成は、なぜか管理人の仕事)↓ ↓ 「支出処理」
電話代、電気代、などの公共料金は自動振り替えで支出。
駐車場点検費、エレベーター点検費、定期特別清掃費など、"毎月定額のもの”については、自動振り替えが多い。
管理会社の管理委託費も毎月定額のため、自動振り替えとしているところも多いが、毎月毎月、出金伝票を起票して、理事長に印をもらって処理しているところもある。
単発の工事や、緊急修理、排水管清掃、貯水タンク清掃、備品購入、小口現金振り出しなどは、その都度、請求書が来ると、出金伝票を作成し、それに理事長印をもらって、その伝票を銀行に持っていって、現金を引き出し、その現金を各業者の指定口座に入金する。
上記事務仕事は管理会社の経理担当がほとんどやるが、「理事長に印をもらう」仕事は管理人がやらなくてはならない。管理会社から伝票(当然、出金伝票だけではなく、業者からの請求書などの明細書類、工事の作業検収書などの書類も含む)が送られてきて、その伝票を持って理事長のところに行って、「こういう内容の出金伝票です。つきましては、内容をご確認の上、印をお願いします」と、印をもらう。(仕事の忙しい理事長の場合、対面で処理できないため、手紙を書かなくてはならないし、印が押されて戻ってくるまでに3〜4日かかる場合もある。また、しっかりした組合の場合、「出金伝票は重要な書類のため、理事長一人で処理してはいけない。毎回、監事に確認してもらう」と規定しているところもあり、この場合も、日数が日数・手間ともに余計にかかる)
印をもらった伝票&関連書類は再び管理会社の経理担当へ戻す。「管理人→会社の定期便がない」「フロントマンがマンションにめったに来ない」場合は、戻るのに日数がずいぶんかかる。あるいは、郵送するための費用がかかる。けっこう面倒な流れ作業なんです。
「督促状と未納者リストが管理人へ渡されて来る。 管理人は督促状を該当各組合員へ配布」
(区分所有者が外部の場合は、普通は管理会社から直接郵送するが、当マンションでは管理人が郵送。封筒詰め、宛名書き、切手貼り、ポストへ投函、一連の手間や経費はバカにならない)
「未納者リストを理事長へ」
(組合によっては、毎月の定例理事会の際に、「管理会社からの月次報告書」として、その中に、未納者リストを組み込み、全役員に配布することもある。名前の扱いには過敏なマンションもあり、理事長宛の資料にだけ、部屋番号と名前を書き、他の役員宛の資料には、伏字にして明かさない、というやり方もある。いずれにしろ面倒な作業)
↓ 参考
年次決算処理のあとに、前年度剰余金をまとめて、積立金口座に移し替えることもあり。「滞納を繰り返す長期滞納者対策」
強い文面に変えた督促状を作成し配布する。特に、年度末の決算の時期は滞納は、未収金処理しなくてはならず、非常に事務が面倒になるので、滞納者対策を強化する。
(これもなぜか管理人の仕事)
それでも滞納を繰り返すものについては、管理人がお手上げのため、管理会社から「内容証明郵便」を発行するなど、法的に強い処理を行なう。小額訴訟という方法もあり。
このレベルの滞納者対策業務は、「管理委託契約外=組合の仕事」となるため、管理会社が代行する場合は、経費や手数料をもらうことがある。
このように、滞納者のために、多くの手間と経費が使われている。
<仕方ない無駄>
管理組合運営については、いろいろな支出があります。そして、その支払方法はほとんどが銀行振り込みです。ここで、問題となるのは「振込み手数料」です。カードがあると、手数料は安いのですが、管理組合の場合、「横領防止」のために、カードは作りません。通帳と印鑑でお金を出します。また、異なる銀行間の振込みは手数料が高いです。このため、振り込み手数料が非常に高額です。極端な話、800円の電球1個買った支払いのために、950円の振り込み手数料がかかったりします。すごい無駄だと私は個人的には思うのですが、「キャッシュカードを作って処理するわけにはいかないし、わざわざ相手の会社に出向いて、支払いに行くのも大変だし・・・・」ということで旧態依然のままです。銀行は自由化の結果、小口の振込みにかかる手数料を値上げしており、こういった無駄な経費が、積もり積もるとけっこうな大きな金額(拾数万円)になっていたりします。意外な盲点です。
小さなマンションで自主管理しているところなどは、監事がしっかりしているのなら、キャッシュカードを作ったほうが会計担当者も楽だし、経費削減になると思います。
本当は、こんな時代だから、オンライン決済でなんでもやれるといいんですが、不正防止のためにはそうはいかないようです。せっかくの文明の利器が使えません。
※管理組合を法人化すると、理事長名ではなく、組合名義の銀行口座が作れていろいろと便利です。
<滞納者って>
滞納者って、私なりに考えると犯罪者なわけでして。「刑務所の囚人1名に対して、毎月30万円の国費が使われている」という資料もあります。その一方、「犯罪被害者に対しては、びた一文払われない、わずかな見舞金しか払われない」、という現実があります。管理費の滞納者も、犯罪者なのに、多くの経費が使われています。そして、刑務所にも入らずに堂々と暮らしています。悪質な滞納者というのは、生活態度も悪質な場合が多く、駐車違反を繰り返したり、ゴミのルールを守らなかったり、いろいろなことで他人に迷惑をかけています。管理人をいじめるやつもいます。滞納には、莫大な延滞金を課すとか、出て行ってもらうとか、強硬な手段をとらないと、滞納はなくなりません。電気水道のように、「払わないと止められる」ようなものではないため、舐められているのです。
<管理委託費は戸数に比例するか?>
いろいろな条件により変わりますが、
「”50戸のマンションの管理委託費が年間1000万円の場合”、100戸だと2倍の2000万円になるか?」と聞かれたら、「2倍にはなりません。1.4倍くらいじゃないでしょうか?」と答えます。増えるのは間違いないですが、比例はしないと思います。
その根拠は、
○事務仕事はかなりの部分が電算化しており、戸数が2倍になったからといって事務仕事が2倍になることはない。定期特別清掃の費用が2倍になっても、その支出処理は1回は1回で変わらない。
○管理人一人をフルタイムで雇う場合、人件費は決まっており、戸数が何戸だから時給が変わる、ということはない。(本音言うと変えて欲しいけど)
ただし、「50戸以下の小さなマンションだと、月水金の隔日勤務」「50戸以上だとフルタイム」という場合は、49世帯のマンションと51世帯のマンションでは管理委託費が大きくはねあがることになる。
○エレベーターの台数が1台で変わらない場合、エレベーターの維持費が戸数に応じて2倍になるということはない。階数が増えると多少高くなるが。
ただし、「90世帯で1台」「100世帯で2台」という」場合は、戸数が10増えただけでも、委託費は大きく上がります。エレベーター維持費は高額なので。
○フロントマンが理事会に毎月1回出席する手間は、戸数とはほとんど関係ない。総会資料や決算資料を作る手間も戸数とは比例関係にない。
などなど・・・・・
こんなところです。マンションの場合も、「工場の大量生産」に似て、スケールが大きくなるとコストが下がる仕組みになっています。ですから、管理委託費の1戸あたりの金額を安く抑えるには、大きなマンションに住むことです。
ただし、管理会社サイドの考え方は、「明朗会計を望む組合に対しては、"1戸あたり○○円ですから、100戸ですと、その10倍です”といった説明をしたほうが、良心的なように思われやすい。計算しやすい。説明しやすい」といった面もあります。
たとえば、年の1回の雑排水管清掃の経費も、業者サイドからしたら、「何人の職人が働くから、いくら」という計算方法なのに、「1戸あたり5000円ですから、50戸で25万円です」といった計算方法をさせられます。本当は、「50戸でも80戸でも、3人で1日でやるとしたら、料金はほとんど変わらない。材料費がかかる仕事じゃない」というのが本音ですが、明朗会計のためには「1戸あたりの金額」で計算するのです。管理会社としては、「戸数の大きなマンションからはガッポリ儲けてやろう」と思っていますから、「比例」という計算方法を用いたがるのです。外注工事も管理会社に手数料が入ってきますが、これも、「何割」といったパーセンテージでもらいますから、元の金額をなるべく増やそうとします。これには、戸数による比例を根拠にしたほうがいいのです。
管理委託費の中の、管理会社の取り分は「一般管理費」といった費目になっていることが多いですが、これも、「全委託費合計の10%」といった数値になっており、本当は、「戸数が200戸以上なら、6%でも十分儲けられる」としても、10%は崩しません。
以上にように、公明正大に数字を提示させることが逆に委託費を上げているかもしれません。関西のマンションなら、「うちは世帯数が300なんだから、ごっつう儲かるやろ。その分、まけろや。お宅ら、そない稼いで何するんや」と組合側が値引き交渉するかもしれませんが。
<余談ですが>
滞納督促やマナー違反住民に対する対策というのは、「戸数比例」というより、「そのマンションの住民の質による」ところのほうが多いです。滞納なんて、理事会が本気になってやれば、ゼロにすることだって可能なんですから。
(督促業務を管理会社任せにせず、役員全員が揃って、毎週1回、滞納者の部屋を訪問して、「払ってくれ」と頼むとか、実力行使に出れば、すぐに滞納件数は減ります。組合がやる気が無いから、滞納は減らないのです)
<ついでに>
「管理委託費をどうしたら下げられるか?」ということが、あちこち話題になっていますが、ある程度大きなマンションなら、管理会社に頼むのはやめて、「経理もできる、ものすごい優秀な管理人を年棒1000万円で雇う、半自主管理に移行する」ほうが、トータルでかなり安いと思いますよ。
「掃除だけしてればいい」「木偶の坊でもいい」といった偏見を捨て、管理人こそ、最優秀な有能者を配置して、マンション管理を任せる、とすれば、最も効率的な運営が出来ます。月に1〜2回しか来ないで、マンションの実情をよく知らないフロントマンが管理するよりも、毎日勤務している管理人が管理したほうがいいに決まってます。(優秀な人なら、の話ですけど)