管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 エアコンから水が噴き出してきたぞ 




 夏真っ盛りです。真っ盛りといえば、「マサカリ投法」の村田兆治投手が野球殿堂入りしました。おめでとうございます。いまだに、140kmのストレートを投げる、クルーン真っ青の偉大な選手です。

 さて、話は思いっきりテレビそれました。戻します。

 「暑い暑い」と、今日もせっせとゴミの分別をしていたところ、ある居住者(独身女性)から、声をかけられ、「管理人さん、エアコンから水が噴出してきたの!」とのこと。「はあ?」「ねえ、お願いだからなんとかして!」「いや、でも、部屋の中のことは管理会社は関係ないですから」「何いってるのよ。マンションの住民が頼んでいるのに、いうこと聞いてくれないの?」「(こういう人に管理委託契約のことを説明しても無理なんだろうなあ) いや、あの、管理会社は専有部分のことにはタッチしないんです」「専有部分って何よ? そんな難しいこといわないでよ。」「とにかく、部屋の中のことは関係ないんです」「電気屋に電話しても、今忙しくて、修理に来れるのは3日後とかいうのよ。この暑い中、エアコンなしで3日も暮らせないわよ。とにかく、見てくれない? 見るだけでいいから」「でも、部屋の中のことは・・・」「そんなつれないこと言うなら、会社に匿名の苦情電話入れるわよ」「(おいおい、脅迫かよ) しょうがないですね。じゃあ、見るだけですよ。(絶対に見るだけは済まないけど)」

 結局、その女性の部屋に行き、エアコンを見ることになりました。理想の管理人像(虚像)を追い求める、潔癖症の当サイト読者には、「そんなことを管理人はしてはいけないんだ」と綺麗事の批判をなさる人もいますが、現実はそううまくいきません。

 さて、問題のエアコンを拝見しました。写真(資料)のように、きれいに化粧カバーがされた、見た目の美しい配管です。この女性は、2年前に引っ越してきて、その際、このエアコンをつけたそうです。「友達の家では、きれいに化粧カバーをしていたので、自分もきれいにしたかった」ということで、15000円の追加料金(通常工事料金では化粧カバーはつきません。配管をビニールテープでグルグル巻きにするだけです。)を払って、写真のようにきれいに配管したのでした。
 この写真をよく見てほしいのですが、マンションの壁というのは、鉄骨の梁があるため、木造住宅のように、「どこにでもエアコンが設置できる。どこにでもエアコンの穴をあけられる。そのため、室内では配管がまったく露出せずにすっきりと設置できる」というわけにはいきません。それに写真のマンションでは、電気コンセントの位置と穴の位置が、同一垂直線上にあります。当サイトには一級建築士の読者もいらっしゃるので意見をうかがいたいのですが、なんで、こんな位置にするんでしょうか? この状態では、配管がコンセントをよけるために、無駄な曲がりが必要になります。コンセントの位置をあと15cm左に移せば、まっすぐに配管できるのに。それに梁の下と穴の位置が近すぎます。これだけ近すぎると曲げるのが大変です。建築士が何を考えているのか、素人の私にはわかりません。

 こういう、「取り付けが非常に難しくなる、不思議な設計」はけっこうあるようで、他の部屋でも、「エアコン一台設置するのに、何時間かかってるんだ。いつまでも、マンション内に工事業者の車両を違法駐車させておけないぞ」と思って、現場を見に行くと、「コンセントと穴の位置がおかしくて、どうやって配管していいのか、悩んでるんです」と、工事業者が頭を抱えていることがあります。



「どうしたもんか?」


 さて、写真の配管のように、クネクネが多いと、エアコンから排出される水の流れがよくありません。特に、梁の下部分を通る配管は、水平であり、ここでは水が滞留します。マンションの宿命といえるかもしれません。(最近は、室内に梁を見せない設計もあるそうです) エアコンの水(=室内の湿気)は、ドバドバ出るものではなく、ポタンポタンと出るものなので、勢いよく流れるものではありません。このため、空気中の埃とくっついて、ゼリー状の物質が発生し、それが配管をふさいでしまうことがあります。排水用のドレンパイプは直径2センチもない細いものですから、すぐに詰まるのです。ドレンパイプが詰まると、水が流れず、その結果、エアコン本体から噴き出してしまうことがあるのです。

 いちおう、上記のことを説明しました。「高いお金をかけて、きれいな化粧カバーをつけたんでしょうけど、マンションの場合は、化粧カバーをつけないほうが実はいいんですよ。普通に、ただ、だらんと配管したほうが、水平部分はないし、急激に曲げる部分もないし、そのほうが排水がスムーズに流れるんですよ。」「え、でも、電気屋はそんなこといわなかったわよ」「都合の悪いことは言わないんですよ。ところで、今回連絡したのは、メーカーのサービスステーションですか? それとも、普通の町の電気屋さんですか?」「メーカーに電話しました」「あ、メーカーだと、今言ったようなことは隠すかもしれませんよ。化粧配管がダメだなんて、カタログに出している側が言えないですから。ちょこちょことそのばしのぎの措置をして、帰って行っちゃうんじゃないかな? そうすると、また1年くらいたつと、水が噴き出しますよ」「え^? そんなの困るわよ」「だったら、化粧カバーは外して、普通の(かっこ悪い)配管に変えたほうがいいですよ」「ええ〜? そんなああ」

 「じゃ、これで失礼します」「え? ちょっと待ってよ。修理に来るまで、どうしてたらいいの?」「今の状態でエアコンを使うと、排水は室内機から溢れて、部屋がビショビショになります。だから、使わないほうがいいですね。扇風機で我慢してください」「そんんなあああ。今日も最高気温35度だっていうのに」(たしかに、この時点で二人とも汗だく。今日は特に暑い) 「しょうがないです」「そんなこといわないで、なんとかして!!!」「無理ですよ、私は電気屋じゃないし、それに、いつまでも管理人室をあけておくことはできません。じゃ、これで」「ちょっと待ってよ。お願いだから、使えるようにしてくれない?」「無理ですよ」「無理は承知でなんとか。原因がわかってるんだから、なんとかできるでしょ?」「そりゃそうですけど。雑巾が何枚かあれば、あとはなんとかできますが。でも、完全に管理人の業務外ですから、じゃ、これで」「待ってよ〜〜〜。住民が困っているのに、ほったらかしにするの?」「だって、私の仕事じゃないですから・・・・」「だったらね。”管理人が私の部屋にあがって、いやらしいことしようとした”って理事長に言うわよ」「ええええ!そんなの言いがかりじゃないですか? ひどいですよ。」「お願い!」「(この女性、まだ若いし、艶っぽいから、理事長信じちゃうかもしれないなあ。困ったなあ) ・・・・  わかりましたよ、できることだけやってみます!」「ありがとう!!!」「でも、他の人には内緒ですよ。一部の住民に特別サービスしているなんてわかったら、私クビですから」「わかったわかった。秘密秘密」「ほんと、しょうがない人だなあ、管理人を脅すなんて。(誰か機械に強い男友達いないのかよ)」

 配管を見れば、どこで詰まっているかはだいだい予想できます。まず、室内の化粧カバーを外します。そしたら、カバーの中からも水がドバーっと出ました。エアコンの配管は冷たいため、室内の湿気が結露するのです。忘れてました。、結露した水分が化粧カバーのために蒸発できず、水がカバー内にたまるのです。
 それから、室内機の排水ドレンホースと延長ホースが接続している部分を探し、そこのビニールテープを剥がし、接続部分を抜きます。この時も、水がドバ。 ここから、ホースの中を覗くと、なんかゲル状のものが詰まっています。耳カキを借りて、それを穿り出します。まだ、奥のほうにもつまりがあるようなので、荒っぽいですけど、電気掃除機を使って、吸い込みました。これで、完全ではないですが、応急的な水路を確保しました。ためしにペットボトルを使って、ホースに水を流すとなんとか流れて、ベランダの室外機のほうから水が出ています。2リットルを急激に流せば、中の汚れも取れます。「いちおう、これで使えるようになりましたよ。」 接続をはめこんで、テープを簡単に巻き、作業終了です。上着もビショビショです。「本格的な修理は専門家にやってもらってください」と言って、帰りました。疲れました。

 その後、専門業者が来て、この女性は化粧カバーは外して、配管は、直角曲がりや水平配管はやめて、斜めにパイプを配置するように変更したそうです。そのほうが見た目は悪いですが、無難です。せっかく高い金を払って化粧カバーをつけたのに、もったいないですねえ。マンションを設計する建築士もだめだし、「場合によっては化粧カバーだと不具合が生じますよ」と正直に説明しない電気屋もだめです。そういう「だめ」が、回りまわって管理人に迷惑をかけるのです。

 なお、このあと、この女性からは、「いろいろ無理言ってすいませんでした。助かりました」と、何か箱に入ったものをもらいましたが、中身はなんと「トンコツラーメンの詰め合わせ」でした。うわあ、私、脂っこいものだめなんですけど。近くの知り合いの管理人さんにあげてしまいました。


 



2005/8

見た目はきれいでも、窓をよけるためのこのような配管も水平部分が多く、排水障害の元です。
やはり穴の位置が問題です。
でも、屋外では化粧配管のほうが、日光や猫被害を避ける意味では有効です。