管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
住居専用です & 「専ら」 |
当マンションは、管理規約で「住居専用とする」と明記されています。ですから、事務所などに使用することはできないマンションです。
先日、転入してきた1階部屋のDさんの話。事前に不動産屋から、「1階を希望するお客さんがいるんだけど」と聞いていたので、なんか「怪しいなあ」と思っていました。今、普通の人はマンションを探す場合、1階部屋を敬遠します。「泥棒に入られやすい」「他人に覗かれる」「周囲の植栽の虫が入ってくる」「日当たりが悪い」「台風などの災害の際に浸水しやすい」など、1階はあまりいいことがありません。その分、価格は安いのですが、最近のように犯罪が激化している日本では、ますます1階が売りにくくなっています。そのためか、新築マンションでは、1階部分は駐車場にする設計が多いです。
この不動産屋には事前に私のほうから、「このマンションは住居専用だよ」と明言しているのですが、不動産屋というのは、「売れればいい」ので、そういうことをきちんと相手に確認したりしません。このため、あとあとトラブルが発生します。
今回のDさん、引っ越してしばらくしたら、自室前の廊下に、「○○整体院」という看板を設置しました。巡回時に気がつき、「参ったなあ、こりゃ。大問題になるぞ」と思いました。
案の定、その後、苦情の嵐です。「あの部屋、変な看板出してる。許されるの?」「商売に使っちゃだめだよな」・・・・・ 続々と他の住民から苦情が来ます。「あなたから本人に直接言って下さい」と、いつも思うのですが、苦情は私へ集中します。
理事長へ報告すると、予想通りのお言葉、「管理人さんから注意してよ」という指示。「いつも、嫌な仕事ばかりやらされるなあ」と思いつつ、Dさんの部屋へ行きました。ピンポンすると、出てきたのは、日本語のうまくない中国人の男性でした。どうやらこの人が整体の先生のようです。Dさんの姿は見つかりません。とにかく、「管理規約どうたら〜だめですよ」とお伝えしました。ついでに、あとのことを考えて、「この件についてなにか意見がある時は、私ではなく、理事長のところへ直接どうぞ」と言っておきました。その晩、理事長宅ではすったもんだあったようですが、とにかく、規約に明記していることですし、商売はあきらめたようです。
この他にも、この手のトラブルはよくあります。不況のせいか、副業を始める人がいるのです。
Cさんが始めたのは、「苦悶式」という学習塾。
ある日突然、部屋の前の廊下に看板が。おまけにエレベーター内にも案内板が貼られています。言語道断です。早速注意すると、「何がいけないの? 3つある部屋のひとつを使って塾始めただけじゃないの?」とのお言葉。「管理規約知らないんですか?」「そんなの持ってない。見たことない」「は?」・・・・。いちおう説明しましたが、よく理解されていないようです。これも、理事長に任せました。
Eさんは、ヨーロッパからでしょうか、雑貨の個人輸入を始めたようです。おおっぴらに店として営業して客が来る、というわけではないのですが、表札に、「○○貿易」という名称が加わり、とにかく、しょっちゅう、宅配便のお兄ちゃんがやってきます。それも、Fedexとか、国際輸送のです。荷物が多すぎて部屋の中に入らないのでしょうか、廊下にまで荷物を置くようになり、他の部屋の住民から苦情が出ました。これも規約を説明して、やめてもらいました。
Fさんが始めたのは、料理教室。これは看板類は一切なしです。巡回時に「なんか、この部屋の人、いつも料理作ってるなあ。換気扇が回りっぱなしで、においがプンプンだ。夫婦だけの家族なのに、なんでだ? 量もすごいぞ」「なんか、来客が多いなあ。みんな車でやってくるから困るよ」と思っていたのですが、料理教室とは夢にも思いませんでした。ある日、路上駐車でレッカーされたことに怒っているご婦人を捕まえて、「どこの部屋に、何のために、そんなにしょっちゅう来てるんですか?」と質問して初めてわかりました。その頃には、「四六時中、料理のにおいがして気持ち悪い」という他住民からの苦情も多く寄せられていたため、これも注意をしてやめてもらいました。(韓国料理が得意らしく、臭いがきついんです) おまけに教室だけではなく、時々、自宅で作ったお弁当を宅配販売していたそうです。この件は、念のために保健所に聞いたら、無許可営業でした。こういうのは、自分の家のキッチンとは別に、専用の台所が必要なため、申請しても認可されないそうで、つまり、「もぐり営業」でした。
その他にも、とくに迷惑をかけていないものの、実際は住居兼事務所として商売をしている人は大勢います。(ちょっと来客が多いのが困りますけどね。「○○さんの部屋ってどこ?」と、私に質問してきますから) また、実際は何もやっていないのに、節税対策として、自宅を「事務所」として税務署に申請している人もいます。とにかく、クロヨン、トーゴーサンの言葉があるように、自営業者というのは、なんとかして節税しようとしますから、自営業をしている人のほとんどは、自宅を必要経費として落としているようです。そのため、駐車場の利用料も、「会社名義で領収書を発行してくれ」と要求する人が何人かいます。 でも、自動引き落としということで会計事務の受託をしているのに、毎月領収書を発行するのは、本当は委託業務外の仕事です。うちの会社は人がいいです。無料サービスしてあげるんですから。
「玄関ホールに、”このマンション住居専用です”って明記したほうがいいんじゃないですか?」と何度も進言してますが、組合さんは、「そこまでしなくても・・・・」と、やってくれません。管理する側のこと考えて欲しいなあ。管理規約の基本事項さえ知らない住民が多いのに。
商売始めるには、それ相応のお金をかけて準備をしてから始めますから、それ突然やめさせるには、かなりの苦労が必要なんです。組合さんは、なんでもかんでも、「管理人さん、やってよ」と逃げますけど、矢面に立つ人間のつらさをわかって欲しいです。中国マフィアみたいな、怖い連中と渡り合うこともあるんですから。
管理人業務って、命がけです。
それにしても、事前に、「ここで商売してもいいですか?」と、なんで、聞かないんだろう。事務所として使うことがOKなマンションだってあるのに。不思議だなあ。
2014/4記述
この問題、実は後日談がありまして。
たいていのマンション(最新のところをのぞく)の管理規約では、「住居専用マンションである」ことを規定するために、「専ら、住居専用として使用する」という文が記載されているのですが、この「専ら」という文字が問題になったことがあります。
問題提起者は、「”専ら”という言葉は、必ずしも、100%を意味するものではない。だから、少数であれば、事業所としても使用できるはずだ」と主張したのです。
こうなってくると、「法律の条文の解釈の仕方」って問題なんですが、まあ、確かに、「日曜日は専ら将棋を指しています」なんていう使われ方をするわけでして。これが、毎週日曜日に必ず、かつ、24時間、将棋をしているわけではないのは容易にわかります。
う〜ん、そういうところを突いて来られると困るんですよねえ。マンションの規則には、この他にも「原則として」という言葉も多用されますが、これも、いわば、曖昧な表現でして。運用の最前線にいる身にとっては、すごく困惑する文字なんです。
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