管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 大事故発生 機械式駐車場の盲点 


 
 わが社の設備点検員から聞いた、よそのマンションの悲惨な話。

 駅至近のそのマンション。築4年のまだ新しいマンション。駐車場は40台分ありますが、すべて機械式の立体駐車場です。そして、屋外ではなく、マンションの1階部分が駐車場スペースになっており、1階には住居はありません。

 ある日の深夜。マンション内で火災報知器が発報しました。ベルが鳴り響きます。発信源は駐車場でした。そして、その時駐車場がどうなっていたかというと、なんと、「水深1m以上の、泡の海」。

 なんで泡なのか、説明します。
 一般的な大型ホテルなどではスプリンクラーという消火設備があり、これは水を撒き散らして消火するものです。建物内の駐車場の場合、ガソリンや油脂など、可燃物を大量に含む自動車があるため、やはり、自動消火設備が必要なのですが、水では油火災を消火できないため、「
泡消火設備」というものが必要になります。石鹸水みたいなものなのですが、泡を火の上に撒き散らし、泡で火元を覆い隠し、酸欠で消火させる原理になっています。覆い隠さなければならないため、ものすごい量の泡が出てきます。今回も、マンション内からあふれ、近隣の家や道路にまで泡が広がり、一帯は「何事か?」と大騒ぎになり、警察や消防も賑やかにやってきたそうです。

 さて、この事件、火事ではありませんでした。火が出ると、天井の熱&煙感知器で自動的に作動するのですが、今回は、自動装置ではなく、「手動装置」が作動していたのでした。泡消火設備には「火事に気がついた人が、手動で作動させるためのレバー」があるのです。このレバー、ふだんは赤いカバーに覆われているのですが、何者かがこのカバーを剥がし、中のレバーをひねったようです。しかし、誰が犯人なのかがわかりません。故意のいたずらなのか、過失なのか、事故なのかもわかりません。このマンション、防犯カメラも「設置検討中」だったため、映像証拠は間に合いませんでした。

 そして、さらなる悲劇はこのあとです。実は、泡消火設備の消火材料である泡がすべて噴出してしまったため、消火剤を詰め替えしなくてはいけなくなったのです。「消火剤なんて安いんでしょ?」と素人は思いますが、これがなんとタメゴローもビックリ、ものすごい値段なんです。絶句しますよ。なんと1リットルあたり約1万円だそうです。そして、このマンションのタンクの量は400リットル、つまり合計400万円。駐車場の年間利用料金40台分に相当します。G社だったら管理人2名を1年間雇えます。

 「保険でなんとかなるんじゃないの?」、保険素人の私もそう思います。ところが・・・。マンションで入っている保険の「個人賠償特約」というのは、マンションの住民が何か過失をしたときに適用される特約です。(例えば、漏水事故で階下の部屋に迷惑をかけた、など) 今回、加害者が不明なのです。犯人が住民であれば、保険が使えますが、誰だかわからないと使えないそうです。誰だかわからないとその人に損害賠償請求することもできません。

 このため、管理組合では犯人探しに必死になりました。しかし、名乗り出てくれません、見つかりません。組合では、「ことが大事になりすぎて名乗り出られないのでは?」と考えて、「組合役員以外には匿名にするから、頼むから名乗り出てくれ」と全居住者に文書を配布してお願いしたのですがだめでした。「○○さんは、よく酔っ払って、千鳥足で帰ってくることがある」という情報を得て、○○さんに直接会って話を聞きましたが、「なんで組合が警察みたいなことをするんだ!」と逆ギレさせてしまい、限りなく怪しいのですが、自首はしてくれませんでした。

 結局、必死な捜査はむなしく、犯人は判明しませんでした。(実はこういう場合は、真犯人ではなくても、理事長が犯人になりすまし、加害者欄にサインして保険請求をするという裏技があるそうです。詐欺行為なので良い子はやってはいけません。)

 消火薬剤がないままだと、いざ実際の火事が起きた時に火を消せないため、放置できず、このマンションでは、このためだけに臨時総会を開催して、急遽400万円を予算化して、薬液充填を行なったそうです。たった一人の悪人のために、大事件が起き、みんなが甚大な被害を受けました。400万円はでかいです。

 でも、この薬液、何もしなくても15〜20年ごとに交換しなくてはいけないそうで、屋内の機械式駐車場というのは、このように実に金食い虫なのです。当マンションは平置きで本当によかった。



<追記>  読者よりご指摘がありました。

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個人賠償保険はイタズラには対応しません。
個人賠償保険の対応要件は

1、法的に賠償責任があること
2、その賠償原因は過失であること

少なくとも、上記2点を満たしていないものは保険対応できません。
イタズラの場合、10歳未満の子供なら、過失扱いになりますが、それ以上年齢は自分の行為結果が判断できる(判断能力)として、保険対応しません。

また、酩酊状態の行為も本人判断できないとしても保険対応できません。

また、過失行為として人物特定して保険金を受取ることは詐欺行為です。
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とのことです。酔っ払いを探してもしょうがなかったようです。保険代理店はこういうことは説明しなかったのかな?




2005/12
写真は関係ないです

本当は妖怪が犯人かも??



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