管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
過剰な個人情報保護&防犯カメラ運用規程 |
5月になって定期総会が開催され、新しい役員が選任されました。今、引継ぎで忙しいです。昨年度の理事長がひどかったので、今年の新理事長に期待したいです。さて、今年度は「防犯カメラ設置」がいよいよ実現しそうな雰囲気で、今年の最重要課題になりました。
新しい理事長に対して、他の役員から、「あなた、理事長になったんだから、近隣のマンションではどんな防犯カメラ設置しているのか、調べてきなさいよ」と要請があったらしく、新理事長、先日ちょっと見学に行ったそうです。(今年の理事長は管理会社をあまりあてにしていないようです。私には問い合わせは来ませんでした)
最初に見に行ったマンション。そこの管理人から「知らない人に対して、当マンションのセキュリティに関することはお教えできません」とあっさり断られました。すごい愛想の悪い管理人だったそうです。(でも、この管理人の対応は正しい。相手が泥棒だったら大変ですからね) このため、新理事長は、いったん家に戻り、身分証明書と、総会議事録(自分が理事長に選任されたことを証明する書類として)を持参して、別のマンションに行きました。しかし、「○○マンションの理事長で・・・・」と自己紹介をして、訪問の理由も詳細に説明したにもかかわらず、「教えられません」と断られたそうです。新理事長は、また別のマンションに行きましたが、ここでも同じ対応だったそうです。
(注:上記3軒はいずれも有名大手管理会社のマンションです。大手の場合、画一的に教育されており、「だめなもんはだめ。例外は作るな。管理人が勝手に判断するな。管理人は清掃と、ただの受付係だけやっていればいい。それから、報告だけはちゃんとしろよ。なんでも全部報告するんだぞ」と指示されており、また、そういうロボットみたいな管理人しか採用しないため、彼らも「余計な仕事はしたくない」「報告するのも面倒だから、余計なことにクビを突っ込まない」と思っており、面倒なことは避けたがります。実際問題、どこのマンションでもゴミ処理だけですごい時間を取られており、清掃ばかりやっていて、暇人の相手をする時間などないのです。また、「近所付き合いは大事です」と口ではいいながら、それは管理会社としてはなんの得にもならないことから、別のマンションの人間は適当にあしらわれます。大手では、”自我のある”管理人は、いくら有能でも敬遠されます。というか、「有能な人はお断り」と腹の中では思っています。黙って会社の言うことをハイハイと聞く人間が一番なのです。管理人になりたい人は、「無口」「無関心」だけど「真面目」という人格を装ってください。そうすれば採用されます。)
新理事長は、「管理人と話をしてもラチがあかない」と判断し、「それなら、ここのマンションの理事長さんと直接話をしたいので、理事長さんを紹介してくれませんか?」と頼んだそうです。すると、その管理人は「理事長の名前を教えることは、個人情報の漏洩になるため、できません」といったそうです。
「え? なんで?」「会社からそう指示されています」 笑止! 大手管理会社ってすごいですね。なんでもかんでも安全策でいこうと思ってるんでしょうが、きちんと身分を明かした人間、しかも、近所のマンションの理事長が聞いているのに、自分のところの理事長の名前すら言えないなんて、なんなんでしょう。だいたい、理事長というのは「マンションの代表者」であって、個人ではありません。理事長名を言えないなんて、「○○マンション」という名前の看板を出せないマンションと同じことです。バカじゃないでしょうか? その理事長の家族構成や仕事を聞いたのならわかりますが、「理事長は誰ですか?」の質問に答えないなんて、私には信じられません。個人情報法保護法への過剰反応です。そんなこと言ってたら、「銀行口座を新理事長名に変えなければいけないが、銀行に新理事長の名前を明かすわけにはいけないから、手続きは出来ない」とか、変なことになりますよ。
実際のところ、管理人が隠したって、掲示板には「居住者各位 ・・・・ 理事長 山田○郎」と名前がはっきり出ている掲示物があって、誰だか簡単にわかるのに。
新理事長は、まるで「星の王子様」のように、いろんなマンションを転々としました。そして、やっと、親切なまともな管理人に出会いました。事情を説明すると、その管理人は「いいですよ。私にわかる範囲のことなら教えます」と言ってくれたそうです。しかし・・・・・・
このマンション、管理人はいい人なんですが、組合も管理会社もよくありません。防犯カメラを設置したばかりなんですが、「管理人は防犯カメラのことには一切関知するな」という方針(なんかコトがあった時に、おかしな責任を押し付けられないように、管理会社が自己防衛的にそういうことにしているらしい)のために、管理人さんが防犯カメラのことを何にも知らないんです。録画デッキは管理室ではなく、集会室の中にあるそうです。それも、「管理人とか役員とかが勝手に触らないように」と、鍵のかかるケースの中に隠されているそうです。その鍵はなぜか管理会社のフロントしか持っていません。管理人も持っていません。防犯カメラ導入の際に、「プライバシー プライバシー」と大声で騒ぐ役員がいたらしく、「カメラは設置するが映像は誰も見えないようにする」となったらしいです。
そんなわけで、録画デッキだけあって、モニターがありません。事件が起きた時は、管理会社のフロントマンが会社からモニターを持参してきて、見るそうです。ですから、管理人は「どこに防犯カメラがあるのか」は知っていますが、「それぞれのカメラがどれくらいの範囲を写しているのか?」さえ知りません。だって、映像を見たことがないんですから。映像を見たことがある人は、カメラの設置工事の時に立ち会った、管理会社フロントマンだけだそうです。管理人は「何日間分くらい録画されるのか?」も知らないそうです。とにかく何にも知らされていないそうです。とにかく、このマンションでは、昨年、連続して空き巣被害が発生した際に、住民から「防犯カメラがないから泥棒が入るのよ。早く設置しなさいよ」という声が多数寄せられたために、急遽設置したようです。総会議案にもしていないようで、理事会決議だけで早急に決めてしまったようです。ということで、この管理人さん、「設置してから、一度も点検とかしてないんですけど、大丈夫なんでしょうか? 故障していても誰もわかりません」と、愚痴っていたそうです。
新理事長の一番の関心事は「防犯カメラ運用規則というのはどのようなものか?」だったのですが、これも、管理人曰く「そんなものあるんですかねえ。聞いてないです。とにかく、管理室の中にはありません」とのこと。
結局、管理人さんはいい人だったんですが、収穫はなかったそうです。
新理事長はまた別のマンションへ行きました。ここのマンションでは、ちょうど管理会社のフロントマンも巡回のため来ていました。「これ幸い。いろいろ聞ける」と思った新理事長でした。そこの管理人さんは親切な人で、「私のわかる範囲なら教えます」と言ったのですが、その口をフロントマンが塞ぎ、「なんで、他のマンションの人間に教える必要があるんだ。関係ないだろ。」と新理事長に対して断り、さらに管理人に対しては、「去年の春の研修で教わっただろ。管理人は余計なことを言うな」と叱ったそうです。かわいそうな理事長です。シュンとして、帰ろうとしました。その時、新理事長に「ちょっと、ちょっと、御宅、○○マンションの理事長かい?、こっちおいでよ」と手招きをする人がいました。この人、このマンションの向かい側の一戸建てに住む人でした。新理事長とフロントマンのやりとりを見ていて、出てきたようです。
「このマンションの管理会社ひどいだろ。うちも以前ひどい目にあったんだよ。いやね。先月、うちの家の玄関の表札が盗まれてね。その時に、このマンションの防犯カメラがうちの家の方向にも向いているを知っていたから、”盗んだ犯人がきっと写っているから、映像を見せてくれ”って頼んだんだよ。管理人はいい人だから取り次いでくれたんだけど、管理会社からは”表札盗まれたくらいでは見せられない”って言われたんだよ。ひどいだろ。管理人の推測じゃ、”カメラの映像を見るのはフロントマンの役目になっているので、外部の人間のためにわざわざ出向いてくるのが面倒だから断ったんだと思いますよ”ていう話だよ。これじゃ、なんのためのカメラなのかわかんねえんじゃないか?」「はあ、そういうもんなんですか」「その時にな、”外部の要請があった際には見せる”とかなんとか規則で決まってるんじゃネエのか?”って、そのフロントマンに食いついたんだけど、”よその人に規則は教えられない”って言いやがってさあ。ほんと頭に来たぜ。あいつ、本当は規則なんて覚えてねえんじゃねえのか?」
そんなわけで、あちこち回ったのに、ほとんど得るものがなかったそうです。そして、愚痴をこぼしに私のところに来たのでしょう。新理事長、肩を落としてます。これに懲りて、「防犯カメラやめようよ」とか言いそうで、私は懸念してます。
ところで、運用規則ですが、これもいろいろと問題の有るマンションが多いです。
○「運用規則を作らないで、カメラを設置してしまったマンション」
個人情報保護法施行以後はさすがにないようですが、それ以前は、けっこうあるみたいで、「どんな時に映像を見るんだ?」と揉めているそうです。中には「理事長が時々一人で管理人室に入って映像を見ているようだ。覗きじゃないか?」といった苦情や、「管理会社のフロントマンが管理人のいない夜間に来て、録画映像を見て、管理人の勤務状況をチェックしている」といった問題も発生しています。
○「いい加減な規則を作ったために揉めるマンション」
”理事長が許可すれば、画像閲覧できる”という条文を入れたマンション。分別の有る理事長だけならいいんですが、不良住民が「輪番制&ジャンケンに負けて」、たまたま理事長になった場合には困ります。「去年の理事長は、俺に対して”違法駐車するな”とか”玄関先に植木を置くな”とかいちいちうるさくて頭に来た。去年の理事長の粗探しをしてやる」と、理事長の独断でビデオを見ても、規則にのっとった行動になってしまいます。「理事長の許可を得て、2人以上で見る」などとしないとまずいです。
”重大な事件が起きた時のみ閲覧できる”といった条文も、「重大」の尺度が人によって違うために揉めます。「洗濯物が盗まれた。当事者にとっては重大だ」「洗濯物くらいでガタガタ騒ぐな」、意見がぶつかります。
”管理会社が主体となった規則” ・・・防犯カメラの所有者は管理組合なのに、”閲覧の際は管理会社の許可が必要。管理会社のスタッフ立会いの下で・・・・(この場合、管理員は含まない)”といった条文を作ったマンションがあります。これは役員側が”判断は自分たちでやらず他人に任せた”という”逃げ”の考えも影響しているのでしょう。ただ、フロントマンが休みの時とかに事件があってもすぐには見られないことになります。
○「厳しすぎる規則を作ったために無意味になるマンション」
”閲覧を希望する人は、閲覧申請書に必要事項を書き・・・・理事会での承認を得た上で・・・・理事長と2人以上の役員、計3名以上の立会いの下・・・・・・”といった条文を作ってしまうと大変です。こういった、もっともらしい条文は、総会の議案に提出する際は、「立派そうな規則だなあ。これなら安心だ」と一般住民を安心させることはできますが、殺人事件が起きても、理事会を招集しない限り、ビデオを見られません。軽微の事件では「臨時理事会召集は大変だから、次回の定例理事会まで待ってよ」と待っていたら、画像が上書きされてすでに消去されていた、なんていう笑えない顛末になることもあります。
”警察の要請があった時にだけ・・・・・”という条文を作るところもありますが、これだと軽微な事件でも、わざわざ警察に被害届けを出して”事件”としておおげさにしないと閲覧できません。「ペットがエレベーター内でおしっこした。どこの犬か調べたい」といった時にでも、警察に言わなくてはなりません。
こんな感じで、厳しすぎる(=体裁だけはいい)規則を作ったものの、実態に即していないために、「いいよ、規則なんて。いちいち従ってられない」となし崩しになるケースもあり、規則が形骸化することになります。
このように、「輪番制で選ばれた素人役員」と「現実を知らず、不勉強で、融通の利かないなフロントマン」によって作られた規則は、無意味なことが多いのです。
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