管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

大規模修繕工事 準備開始






2006/12


 
 当マンション、そろそろ大規模修繕工事をしなければならない年数だそうです。(恥ずかしながら、<長期修繕計画書>を見たことがないので詳しいことを知りません。)

 そういうのは、外見からでもわかるらしく、ここのところ、週に1度は「大規模修繕工事業者」の営業マンが、「うちを使ってくれませんか?」と営業に来ます。しかし、私も管理会社の一員です。愛社精神なんてないですが、「管理委託費が低く抑えられたままの管理会社では、大きな工事を管理会社で請けないと、もうけにならない」「これ以上、給料を下げられたら生きていけない(まさしく、今話題の「ワーキングプア」)」ということをわかっていますので、そういった営業マンには「間に合ってますから、お引取り下さい」と帰ってもらいます。とはいえ、向こうも商売ですから簡単には引き下がりません。「理事長と会わせてください」と食い下がってきます。「そんなこと、個人情報だから教えられない」「うちは営業禁止のマンションです」と言います。「じゃあ、これ、うちの会社のパンフレットですから、せめて、これだけでも理事長さんに渡してもらえませんか?」「うん、わかった。渡しておくよ」と資料を預かって、引き下がってもらいます。いちおう、預かったからには、目を通して、「大規模修繕工事ってそういうものなのか?」と勉強して、それから、理事長に渡します。しかし、うちのマンションの理事長は「1年交代」です。やる気も全然ありません。私が資料を渡しても、おそらく見ないでしょう。いつもそうです。

 こうやって、いろいろな会社の資料を見ると、だんだん、業者の差というのがわかってきました。「この会社、なかなかいいなあ」というところが先日ありました。私は大規模修繕は未経験ですが、鉄部塗装とか、その他ちょっとした工事は数度経験しています。そこで大事なことというのは、「工事本体以外のこと」なのです。

 どこの業者のパンフレットも、みな、「工事本体のこと」ばかり書いてあるのですが、1社だけ、工事以外のことについても多くのページを割いている業者がありました。そして、その業者は「掲示・配布物一覧」という別冊子を用意してありました。そこには、「工事の予告」「危険ですから立ち寄らないで」「小さなお子様の保護者の皆様へ」「一時通行止めのお知らせ」「駐車位置を変更願います」「エアコン室外機を一時的に移動願います」・・・・・・などなど、実に細やかな、「素人にとって事前には必要性はわからないけど、実際に工事が始まると重要である事項」についてのことが書かれていました。それも、こういう書類というのは文字だけだと訴求力が弱いため、ほとんどイラスト入りで作られていて、とてもわかりやすいものでした。「この業者は心配りが細やかで、過去の経験をきちんと生かして、立派なマニュアルを作っているなあ」と感心しました。私は、「工事代金の多寡だけで業者を決めるのではなく、こういう細やかな神経があるかないかを重視して欲しい」と思います。「安全第一」というのは、言うだけなら誰でも言えますが、実践するのはけっこう難しいものです。特にマンションというのは「いたずら盛りのクソガキ」も大勢います。そういう子供たちが「どんないたずらをするのか」まで考えて、予防策を施しておくことが大事なのです。
(※後日談 そういう立派な書類を作る会社でも、実際に現場で働く社員が、そういう視点を持ってないと意味が無い、ってことをあとで知りました)




<大失敗の例>
 そんなわけで、大規模修繕工事に関心がある私は、近所でちょうど大規模修繕工事を実施中のマンションがあったため、そこの管理人さんに話を聞いたり、「どんなふうにやっているのか?」「どんな掲示物を貼っているのか?」調べていました。
 そのマンションでは、「管理会社には任せない」「某役員の知り合いの業者にすべて任せた」「知り合いということで工事代金がすごく格安」という工事をしていました。これはこれでいいことだと思いますが。

 大規模修繕工事が始まって3週間経過した頃、突然業者がパタリと姿を消してしまったそうです。工事予定日なのに、誰一人職人さんが来ないのです。昼ごろ、一人だけ現れた職人さんに、管理人が話を聞いたところ、「元請けの会社が倒産した。うちに払う工賃も滞っている。私も今月の給料が出ないかもしれない。工事どころじゃない。中止だ。控え室の整理をして帰る」とのこと。なんと、受注主の会社がつぶれてしまったのです。このため、大規模修繕工事もいったん中止に追い込まれてしまいました。下請けの人も大変です。

 その夜、緊急理事会が開かれ、管理人も出席したそうです。そこでいろいろなことがわかりました。

○「工事代金が安すぎた。他業者よりも全然安かった」
○「説明会もせずに、ろくな準備もしないまま、着工した」
○「元請会社は工事を自らしておらず、ほとんどが下請けに任せていた。現場監督として、元請の社員がいたが、たまにしか来ていなかった」
○「着手金として、全工事費の8割を払わされた。これは普通じゃない」

 やはり、前兆はあったようです。しかし、組合側も「大規模修繕委員会」を作るわけでもなく、担当役員を設定するわけでもなく、工事の監視はまったくしていませんでした。管理人も「管理会社の工事ではない」「なにも情報をもらっていない」ということで、ただ、漠然と見ていただけだったそうです。管理会社のフロントも「自分たちが受注できなかったから」と、事実上知らんぷりだったそうで。

 結局、このマンションの大規模修繕工事は「工程の2割程度完了でいったん中止。しかし、代金は8割分支払い済み。管理会社が、急遽別の業者を手配。ただ、すぐには再開できない」ということになりました。うまく引き継いだとしても、ちゃんと工事が出来上がるのか? 予定の工期で終わるのかは疑問です。また、8割払ってしまった工事費もいくら戻ってくるかは期待薄でしょう。この「倒産会社」を薦めた役員も、マンションにいられなくなってしまうのではないでしょうか? とにかく、「安物買いの銭失い」「大金を払うものなのに、監視が不十分だった」のは間違いないです。工事費が足りなくなって、「修繕積立金臨時徴収」とかになるかもしれません。大変だこりゃ。


<大規模修繕の方法 3種類>

 「管理業務主任者」試験のテキストにも出ていた事項ですが、ここでちょっと説明します。

○コンサルタント方式
 建築事務所などに「工事全体のコンサルタント」を依頼して、「工事内容の決定」「工事業者の選定」「工事の監督」・・・・などトータルにプロデュースしてもらう。実際の工事は別の工事会社が行う。コンサルタント費用が上乗せされるが、「専門家にアドバイスしてもらえる」ことや、「工事会社の仕事振りを第三者的に監視してもらい、手抜きを防止できる」など、メリットが多く、現在、選択するマンションが増加している方式。

○管理会社施工方式
 管理会社がすべて請け負う。(もちろん、実際に工事するのは下請けの工事会社) 管理会社がプロデュース、工事の監督を行う。下手な工事をすると管理会社があとで責任を負わなくてはならないため、そんなにおかしな工事にはならない。ただし、管理会社がガッポリ儲けようとするため、割高になりがち。

○責任施工方式
 ある工事会社一社にすべてを任せる方式。一番安価になるが、「監視するものはいないため、手抜きし放題」「倒産したら終わり」など、リスクは大きい。管理に関する意識が全体的に高くなっている現代では、この方式は少なくなる傾向にある。

 

 今回の悲惨なマンションは「責任施工方式」でした。「安い」ということで惹かれたのでしょうが、この方式にするには、管理組合がよほどしっかりしないとだめだと思います。「監視する人がいなければ手を抜く」というのは人間の性(さが)です。それに、最低限の準備として、発注する会社の財務調査くらいしておかないと、今回のような悲劇になります。大規模修繕工事というのは、その場で終わりのものではなく、工事後も保証があります。防水工事などは10年間と長期です。せっかく保証をつけてもらっても、会社が倒産したら意味がないです。ですから、最低でも今後10年は存続してくれる工事会社に頼まないといけません。コンサルタント方式では、しっかりした建築事務所だと、業者選定にあたり、候補業者の財務調査もするそうです。


 よその失敗を、うちのマンションで繰り返して欲しくないため、私も少し口をはさもうと思いますが、聞いてくれるかな??


2006/12




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