管理人は超〜つらいよ   
マンション管理最前線

危険! 避難梯子の自主点検


階段からの避難のほかにベランダからも避難します


 管理人室の電話が鳴りました。

「上から、ハシゴが落っこちてきた! なんとかしてくれ! すぐに来てくれ!」
「え? なんですか? 意味がよくわかりませんが。」
「とにかく、来てくれ。○○○○号室のAだ」
「あ、はい。じゃあ、今、行きます」

 なんかよくわかりませんが、とにかく、大変なことがおきたようです。念のため、ヘルメットを装着し、軍手をはめて、その部屋に向かおうとしました。その瞬間、また、電話が鳴りました。

「マガンダン グラポキ タイヘン タイヘン スミマセン グタポケ○×△・・・・・」
「は? すいません。どなたですか?」
「グタポケ○×△・・・・・」
「ですから、どなたですか? 何があったのですか? Who is speaking?  What's happen?」

 英語でも聞いてみましたが要領を得ません。しかたないので、いったん、この電話を切って、先にAさんの部屋に向かいました。

「Aさん、どうしたんですか?」
「ベランダなんだ。ベランダが大変なんだ」
「ベランダ?」
「そう。急に上の階から避難用ハシゴが落っこちてきたんだ」
「それは大変ですね。とにかく、現場を見ましょう。中に入ってもいいですか?」
「うん、入ってくれ」

 ベランダに行ってみると、悲惨な状況です。ベランダに置いたあった、ひな壇状のプランターに避難梯子が落ちてきて、そのひな壇が崩れて、プランターは倒れて、花や土が散乱しています。その土が階下のベランダで布団を干していたのにかかって、下の階の人も「何やってるんだ!」と怒っています。

「あちゃちゃ、こりゃ、ひどいなあ」
「ひどいだろ。なんで、ハシゴが急に落ちてくるんだ。欠陥建築か?」
「というより、”避難梯子の落下地点には、避難の支障になるため、物は一切置かないで下さい”と今まで、何度も、注意書きを掲示しているのに、なんで、こんなところにプランターを置くんですか?」」
「いや、あの、でも、消防設備点検の時はちゃんと片付けてるよ」
「点検の時だけ片付けてもしょうがないですよ。火事はいつ起きるかわからないんですから。常時、物がない状態にしないと意味がないです」
「そんなこといったって、しょうがないだろ。ベランダが狭いんだから」
「そういう問題じゃないですよ」・・・・
 (ホント、このマンションは避難梯子の設備があっても、実際はベランダに不法に置かれた荷物によって、非常時は使用できないと思います。モラルがないです)

 と、問答をしている時に、上のほうから声がします。「ゴメンナサイ・・・ グタポケ○×△・・・・」 あれ? さっきの電話の声です。避難梯子が落ちてしまったために、上の階のベランダに穴が開いた状態になりました。そこから女性が顔を出していたのです。お顔から察するに、フィリピン人のようです。そういえば、たしか、上の○○○○号室は、先週入居してきたばかりのご一家のはずです。世帯主の男性(日本人)とはお会いしましたが、奥さんとは会っていませんでした。「奥さんはフィリピンだったのか。だったら最初に言ってほしいなあ。外国人はいろいろと問題なんだから・・・・」と、独り言を言っていると、Aさんから、「とにかく、このハシゴを元に戻してくれないか?」「そうですね、それが先です。でも、このハシゴって、いったん落としてしまうと、元に復旧させるのが大変なタイプなんですよ」「わかったから、なんとかしてくれ」「あ、はい。じゃあ、上の階に行って、そこでやります」

 そして、すぐ上の階に行きました。お部屋の中には、フィリピン人らしい奥さんと、子供が一人(ハーフってことかな)。「スミマセン スミマセン」と繰り返しています。私はタガログ語はできませんので、英語で話しかけますが、これもダメ。しかたないので、日本語でゆっくりと話しますが、どうも、理解してくれません。そして、この奥さんの言っていることもよくわかりません。

 さて、ハシゴの復旧ですが、これは手だけではできません。

 当マンションの避難梯子は旧式のため、「一度、落としてしまうと、素人には元に戻せない」という代物です。新しいマンションのものは、マジックハンド式のはしごで、ハンドルを回すだけで簡単に元通りにできるため、住民自身で簡単に点検もできるようになっています。また、マジックハンド式のハシゴは安定感があるため、非常時に降りる際も安全です。当マンションの旧式のハシゴはブラブラ揺れるため、実際に降下する時はけっこう危ないです。
 さて、復旧(元通りに折り畳む)には、専門の道具が必要です。当然、管理人室にはありません。となると、消防設備点検業者を呼ばないとだめなんですが、こういうケースでは当然有料になってしまいます。「お金かかりますけど、いいですか?」と聞きますが理解してもらえません。承諾なしで勝手に業者を呼んで、高額な出張費がかかってしまったら、このフィリピン女性の一家がはたして払ってくれるのかわかりません。また、呼ぶにしても、ここに来るまでにかなりの時間がかかるのは間違いないですから、下の階のAさんが、「早くしろよ」と怒っているので、早くしなければなりません。

(専門業者が専用の道具を使用して、二人がかりで作業しないと元に戻せません)


 しょうがないので、私がなんとかすることにしました。ありあわせの道具を組み合わせて、専門の道具(以前の点検の際に見ているので)に似たようなものを作り、それを下に下ろして、ハシゴ最下端にひっかけ、持ち上げます。うまく、ひっかかったものの、このハシゴ、少しさびているため、うまく折り畳めません。ところどころでつっかかります。うまくいきません。それに、このハシゴは鉄製なので、けっこう重いです。アルミだと軽いんですけど。腕がしびれてきます。何度か試行錯誤して、「お、これなら大丈夫」と思ったら、8割がた畳めたところで、また、つっかかりました。道具だけでは無理なようです。直接、人間の手で引き上げないとだめです。しょうがないので、かなり危険な作業ですが(なにしろ、10階のベランダですから)、私がベランダにはいつくばって、穴から手を伸ばして、はしごの先端をつかもうとトライします。ですが、もうちょっとのところで、届きません。下の階のAさんに応援を頼みますが、なぜかいなくなってしまいました。(トイレに行っていたようです) 

 リポビタンDのCMのような危機一髪の状況になってきました。これ以上、下に手を伸ばすと、私の体が落下してしまいます。それでもなんとか無理をして、先端に指が届き、ハシゴを折り畳むことができました。ハシゴはなんとかなったのですが、問題が残りました。ハシゴは金属製の蓋によって収納されているのですが、この蓋を元に戻すことが、これまた難しいのです。専用のフックがないと、引き上げられません。なんともまあ、ややこしい構造になっていることか。疲れます。管理人室に戻って、工具やら針金やら、なんとか工夫して、代用フックをつくり、それでなんとか、元通りに収容しました。

 この間、約1時間かかりました。もうヘトヘトです。それに、無理な姿勢を続けていたため、体のアチコチが痛くてしょうがないです。

 年に2回の消防点検では、毎回、業者が、「ここのマンションの避難ハシゴは取り扱いにくくって、時間ばかりかかってしょうがない。さびているのも多いし・・・・。緊急時は逃げるのが先決なので、ハシゴがすぐに落ちればそれでいいと思ってるんだよなあ。そのあと、元通りに戻すことを想定してないんだよ」と、いつも愚痴をこぼすのですが、今回の一件で、その愚痴の理由が私にも体感できました。これは、この避難器具を作ったメーカーにも責任があると思います。

 その後、フィリピン人のご主人(日本人)から、「すいませんでした。・・・・・」と挨拶が来ると思い、待っていましたが、何にも言ってきません。こんなこと言っては何ですが、外国人女性と結婚する日本人男性って、非常識な人が多いです。実感してます。本当なら、「妻が日本語ができないため、いろいろご迷惑をおかけしてすいません」と、普通人よりも気を使わなくてはいけないと思うんですが。。。

 ただ、大騒ぎになって、近隣部屋の人たちも、「いったい、何があったの?」と聞いてくるため、土曜日にフィリピン女性の部屋を訪ね、在室していた日本人のご主人に話を聞きました。それでようやく原因がわかりました。「ベランダで洗濯物を干している時に、足元の金属製の四角いものに気がついて、これはなんだろう、と思って蓋をあけ、いろいろといじっていたら、突然、はしごが落下した。故意にやったわけではない。”触るな”と書いてあるが日本語だからわからなかった・・・・」とのこと。だいたい、予想どおりでした。引っ越してきたばかりの頃にはよくある話です。インターホンの「緊急」のボタンを押してしまう人なんかもよくいます。でも、これだけの騒ぎを起こしたのなら、管理人はもちろん、当事者である下の階の人にも、謝罪に行くべきじゃないんでしょうか? しっかりしろよ!日本男子。責任が持てないのなら、外国人女性を日本に連れてきて結婚なんかしないで欲しいです。

 困ったもんだ。 私、まだ、肩が痛いです。管理人も命がけの仕事です。

 消防点検では、「ハシゴが設置されている部屋の方は当日在室をお願いします」と通知を出します。すると、「その日は仕事で外出しないとだめなんだ。自分で点検しておくからいいだろ?」なんてことを言う人がいるのですが、うちの場合、素人が触ったら大変なことになる避難梯子のため、「いいえ、絶対にさわらないで下さい。絶対に蓋を開けないで下さい」とお願いしています。

 でも、本当は、緊急時に迅速にハシゴを下ろせるように、ハシゴの構造を覚えておいて欲しいんですけどね。覚えて欲しいのに、「触るな」というのも、なんか矛盾してるなあ。


 以上の話を近くの別のマンションの管理人さんに話をしたら、「うちなんか、ベランダ隔壁(「緊急時は、ここを蹴破って隣室に逃げてください」というもの)を、実際に蹴破ってしまった人がいて、大変だったよ。これも、引っ越してきたばかりの一家で、どれくらいの力で蹴れば、敗れるのか試してみた、とか言ってるんだもんね。参ったよ」とのこと。まあ、試すことは大事ですが、あとのことも考えてくれないとネ?  トホホ。



2007/3