管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

定期作業 きちんとやっていますか?



「管理会社変更の落とし穴」についても

 当社の名称は「飯加減株式会社」。名前のとおり、その仕事振りはいい加減です。私が最初に赴任したとき、植栽から害虫がうじゃうじゃわいたときがありました。会社に電話したら、「あ、ごめん。今年の植栽消毒、忘れてた」とのこと。実は、こういう、「忘れてた」が他にもぞろぞろたくさんあって、「いったい、なんちゅう会社だ?」とあきれたことがあります。

 ところで、ご近所のマンションで、一昨年、管理会社を変更したところがあります。変更するときに、当時の理事長が私のところに「管理会社の内実」を聞きに来たことがあり、少しアドバイスをさせていただきました。そのマンションは、もともと地元の中堅管理会社が受託していましたが、とにかく、管理委託料がバカ高でした。そこで会社変更を行い、某有名管理会社が以前の半額という料金で受託しました。もとが「ボッタクリ」だったので、私としては「3割くらいは下げられるだろう」と予想していましたが、「半額になりました」と聞いて、「え? あの会社(いちおう、世間的には一流企業)がそこまで低い料金を提示するなんて?」とびっくりしたしだいです。そのマンションで、「実は、毎年1回実施するはずの”貯水槽清掃”を管理会社変更以来一度もやっていなかった」ことが判明し、ちょっとした問題になったそうです。都合、3年間、清掃をしていなかった計算になります。当然、清掃後に行われる「簡易水道検査」もやっていませんでした。あわてて、先日、清掃を行なったら、「タンクの中の壁は真っ黒だった」そうです。住民は汚い水をずっと飲み続けていたことになります。

 この原因を調べてみると。

「管理組合と管理会社の管理委託契約の中に、貯水槽清掃の項目が入っていなかった」・・・・
 管理会社としては、名目上の委託費を低くするために、この費目を抜いていたようです。なるべく安い委託費を提示して、管理の受注をとろうとしたのでしょう。以前やっていたことをやらなくなれば、当然合計金額低くなります。管理組合側も、委託契約の中身を精査することなく、「合計金額」の一番安い会社に決定してしまったようです。管理会社変更というのは、とても大変な作業なのに、手抜きをすると、結果的にこういうミスが起こります。そして、変更後の新管理会社の仕事の様子を監視することが最も重要なのに、それを放置していた管理組合側の責任が大きいです。会社変更の際にがんばった役員が、次年度の役員変更で全員去ってしまうと、こういうことになりがちです。

「管理会社が忘れてしまった」・・・・
 管理会社サイドとしては、委託契約の中に「貯水槽清掃」を入れてなくても、こういう作業を実施することは。手数料収入というお金になることですから、当然、その時期が来れば「やらないとだめですよ」と組合側に提言し、実施します。特に、貯水槽清掃〜簡易水道検査は定期的にやらなくてはいけない作業ですから、任意で実施する、「雑排水管清掃」とは違い、普通の管理会社であれば、忘れるはずはありません。しかし、当サイトでも何度も言ってますが、マンション管理の業界というのは、ろくな人間がいません。これは、「大手一流管理会社」であっても、同様です。むしろ、大手のほうが、その地位にあぐらをかいて、怠慢こいている不良社員がゴロゴロいます。今回の場合、なんとか無理してでも受注しようと、かなり思い切った安い委託費を提示したようで、管理会社的には、「赤字スレスレ」の価格でした。ということで、「優秀なベテランフロントマンなんか担当にすることはない。ペーペーの若手に任せてしまえ」ということで、右も左もわからないような、大学でたての新人を担当にしたようです。そんな新人が自分ひとりだけでちゃんとした仕事などできるはずがないです。(管理会社って、人材育成もいい加減です) 大手の管理会社というのは、「管理会社変更」の時だけは、その会社のエースである営業マンが担当するため、「やはり、有名大手は違うわ。しっかりしてる」と、管理組合側は感心しますが、実際の管理はその人が行なうわけではありません。実際に担当するフロントマンの資質を評価しないと意味がないのですが、普通は、実際のフロントマンと会うことなどないままに、契約してしまいます。
 今回は、その新人さんが、貯水槽清掃のことをすっかり忘れていたのです。

 エレベーター点検や機械式駐車場点検など、メンテナンス会社ときちんと長期年度契約を結んで、頻繁に定期的に点検するものは、メンテナンス会社のほうが勝手にやってくるので、「点検忘れ」はまずありません。しかし、貯水槽清掃・雑排水管清掃・植栽管理といったものは、その都度、単発に発注するものなので、フロントマンが忘れていると、作業を忘れてしまうことがあります。(※消防設備点検も単年度契約だったりします)
 といっても、不況の今、仕事を欲しい下請け会社は、その時期になっても注文が来ないと、「そろそろ、Aマンションは清掃の時期ですが、どうします?」と、向こうから問い合わせをしてくるので、フロントマンが忘れていても、きづかさせてくれる場合があります。

 ただし、「管理会社変更」が行なわれると、旧管理会社の下請け会社たちは、「もう、うちには仕事の発注は来ないだろう」とあきらめてますので、自分たちから言い出すことはありません。このため、管理会社のフロントマンがしっかりしていないと、忘れてしまうことが起きるのです。そういった面からも、
管理会社変更というのは、特に、「変更後の最初の1年間」は、管理組合が主体的に動かないと、さまざまな問題が発生します。「新しい管理会社に全部お任せ」というわけにはいかないのです。
(管理会社変更でなくても、担当フロントが異動のために代わった際も、こういうミスが起こりがちです。引継ぎをちゃんとしない業界だからです)


<ちゃんとしたマンションではどうしているか?>
 マンション管理の基本は、「管理会社を信用するな」「組合が自ら全部チェックする」ということです。私の場合、このマンションの組合は何もしませんから、管理人がしっかりしないといけません。ですから、就任後2〜3年経過して仕事に慣れた時点で、「年間 定期作業表」という一覧表を自分で作成し、管理室の壁に貼り付けてあります。これがあると、担当のフロントが貯水槽清掃の手配を忘れても、「もう、6月なのに、貯水槽清掃しないの?」とフロントにチェックを入れることができます。

 しっかりした管理組合の場合、掲示板などに、「年間定期作業表」を貼り付けて、全住民に見えるようにしているところがあります。こうすると、フロントマンや管理人が忘れても、気がついた住民が「あれ、6月になったのに、貯水槽清掃の予告が出ないけど、ちゃんと発注したの?」とチェックを入れてきますから、作業モレはありません。この表には、「実施した」ことを記す欄があり、実施日の日付といっしょに、「設備担当役員」が押印し、実施済みであることを確認し、全住民に知らせます。こういう表を全員に見せるということは、マンション住民に、「マンションではどのようなことが行なわれているのか」を知らしめる、良い効果があります。掲示板でいつでも確認できますから、「なんか、浴室の排水口が臭いんだけど、今度の排水管清掃はいつかな? あ、来月か。だったら、ちょうどいいなあ」と自分でわかります。また、近々に引越し作業を行なう人が、「私の引越し予定日に、エレベーター点検が重なったりしないわよね。エレベーター使えないと大変なことになるから・・・」と確認することも可能です。

 でも、この「年間定期作業表」も、1年に1回しか発行しないのでは無意味です。というのも、「平成18年度(=平成18年4月〜19年3月)」の表が平成19年の3月までそのまま貼ってあったら、すぐ翌月のことなのに、19年の4月になにが行なわれるのかわかりません。管理会社の中には、「うちは定期作業の年間予定表を掲示板に常時張り出すシステムにしてある、優秀な管理会社です」と自慢するところもありますが、実際のやり方が、上記のようでは意味がないです。(ちょっと考えればすぐに不具合に気づくはずなのに、気がつかないバカな管理会社があります) 最低でも半年に1回作り直さなくてはいけません。(平成18年9月になったら、「平成18年10月〜19年9月までの表」を作成する)

 年間定期作業表はとても有益な手段ですが、盲点もあります。それは、「数年に1回実施される作業」に関してです。たとえば、消防点検報告書を所轄の消防署に提出する作業(
3年に1回)は、ついついわすれがちです。また、消火器はたしか7年ごと?に全数交換しなければならないはずです。町内会に入っている管理組合の場合、何年かに1年、「地域担当幹事」にさせられる場合もあります。マンション単位での防災訓練を3年に1回実施しているところもあります(「毎年やっても、そんなに参加者が集まらない。3年に1回くらいがちょうどいい」という意見のため)

 こういう「何年かに1回」というものは、「長期修繕計画書」にも入らないため、中途半端で、えてして、忘れがちです。「年間予定表」とは別に、中期的な表を作成しておくべきです。もしくは、年間予定表の中に、毎年組み込んでおくのも手です。「消防点検 所轄消防署へ提出 (※ただし、本年は該当年ではない。平成20年に実施)」などと書いておくと、非常に親切ですし、忘れることはありません。


 まあとにかく、住民サイドからすると、「こういう決まりきった定期的作業は、管理組合がほうっておいても、管理会社がしっかり実施するだろう」という楽観的な考え方を持つでしょうが、実際は、「否」です。管理のプロであっても、忘れることはよくあるのです。

 ですから、管理組合がしっかり監視してください。具体的には、「設備関係担当」の役員を設置して、その人に監督してもらうことが有効です。点検の報告書にしても、普通のマンションでは「理事長に提出すれば終わり」というところが多いですが、「理事長の確認印をもらったあとに、設備担当役員へまわし、そこでも確認印をもらう」という手続きにして、ダブルチェックすべきです。また、設備担当役員は、自分が確認した書類を、きちんと記録を残しておいて、役員の引継ぎの際には1枚の表にして、次期役員引き継ぐといいでしょう。



2007/4