管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

隣は誰?








 警察で「公費による懸賞金制度」がスタートするそうです。

 プライドを重視する警察が、こういうことをやるというのは、背水の陣といえるほど、検挙率が減っているからだそうです。なんで、検挙率が下がっているか、分析している人がいました。

「市民の”無関心”が広がり、隣に誰が住んでいるのかもわからない。聞き込みをやっても、情報が得られない」
「物を購入する手段が、通信販売によるものが増え、物的証拠からたどるのが難しくなった」

 無関心といえば、JRの特急電車の車内で「大勢の乗客がいる目の前で、強姦事件が発生し、誰も通報しなかった」といった、おぞましい事件も起きてます。もう、日本の「良心」は崩壊してます。

 うちの住民も同様です。

 「あの〜、管理人さん。うちの隣の人の名前ってなんですか?」

 こんな質問が来ます。新しく引っ越してきた人からだったらわかりますが、10年以上すんでいる人同士でも、こんなことがあるのです。「表札を出していない」というのが根本的な問題ですが、「コミュニケーションがまったくない」ということもあります。普通は、何年かに1回は組合役員をやるので、その時に、「組合員名簿」(うちのマンションでは、役員だけに配布されるようになってます)をもらうから、名前はわかるはずです。でも、「役員就任を固辞して、やらない」「役員就任しても、理事会に1回も出ない」といった人も少なくなく、そういう人は名簿を手に入れないままでしょう。賃貸入居者はまったく役員にはなりませんから、なおさらです。

 隣がどんな人なのか? どんな家族構成なのか? これが全然分らないと、「リフォームなのかな? 工事の音がうるさいんだけど。でも、文句言ったら、逆に刺されたりするとこわいから、管理人さんから苦情を伝えて」なんてことがよくあります。「子供がしょっちゅう、エレベーターの中のボタンを全部押す、いたずらをする」という場合でも、普通なら、その場に居合わせた大人が口頭で注意しますが、「どんな親なのかわからない。ヤクザだったらこわいから、注意できない。管理人さんから注意して」といった状況になっています。

 管理人に「言っておいてよ」と伝えるだけまだいいかもしれません。苦情を言えないまま、イライラが募った人が、突然爆発するケースがあるんです。たとえば、日曜大工が趣味の住民がいます。この人にとっては、電動ドリルの振動は「日常生活騒音の範囲内」と思っているようですが、階下の住民にとっては、「ものすごくうるさい。日曜の朝は朝寝坊したいのに、なんで、朝の7時からガーガーやるんだ」と思ってます。一言でも、「ドリルの音がうるさいんですが・・・」と言えば、相手も多少理解できますが、何も言えずに何ヶ月も経過し、被害者が耐え切れなくて爆発し、「電気があるから電動ドリルを使うんだ。電気メーターを壊してしまえ」と、玄関ドアの上にあるメーターを野球のバットでいきなり、ぶちこわしてしまったことがあります。今の人はほんと何をするのかわかりません。マンションというのは、それぞれの部屋に爆弾があるようなものです。

 被害者と加害者同士のトラブルなら、私は関係なくていいんですが、「管理人にいくら苦情を伝えても、なにもかわらない」と怒って、管理室の窓に、「もっとしっかり仕事をしろ!」と張り紙をする人がいます。こっちとしては、ちゃんと苦情は会社と理事長には伝えてます。でも、相手が言うことを聞かないんです。私の責任ではありません。こうなると八つ当たりです。

 管理人はボクシングのパンチングボールじゃないんですけど。

 とにかく、住民同士のコミュニケーション不足が深刻です。解決策の一歩として、「郵便受けと玄関の表札掲示を全戸徹底してほしい」と組合さんに働きかけているんですが、何もしてくれません。どんどんスラム化が進み、その弊害が我々を直撃してます。郵便の誤配も増えるばかりです。(このマンションでは誤配された郵便物は、「管理人室ポストに入れる」という習慣があるようで、後始末は全部私の仕事です)

 驚いたのは、今度行われる「定期総会」の召集通知。普通は理事長名で発行するんですが、「自分が理事長であることをみんなに知らせたくない」と理事長がわがままを言って、今回の召集通知は、「理事長 山田太朗」というのではなく、ただ「理事長」と書いてあるだけです。「個人情報保護だ」とかなんとか、理由をつけてますが、この1年ろくに活動しなかったことを組合員につっこまれることを恐れているのではないでしょうか? とにかく、自分の名前を出したがりません。副理事長の言によると、「今度の総会、もしかすると、理事長はドタキャン欠席するかもしれないよ」とのことです。

 「プライバシー保護」 過剰な反応はよくないと思います。日本は確実におかしくなっています。


 


2007/5