管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
新人研修を引き受けました
先月、うちの会社で、どこか別の新規のマンション(新築ではありません)の管理を獲得したらしく(そこの管理会社が倒産したようです。そういえば、穴吹工務店の倒産で、サーパズマンションの管理はどうなるんでしょうか?)、そこに新しく配属する予定の新人管理人さんが、実地研修として、私のマンションに1日間だけやってきました。
まあ、うちの会社が研修をやるだけまともなんで、喜んで協力させていただきました。
この新人さん、もともと、某有名企業の工場で仕事をしていたそうですが、早期退職勧告で50代のうちにやめ、その後、ビルメンテナンス会社の設備関係の仕事をしていたそうですが、この会社のリストラで、うちの会社に来たそうです。
65才なんだから、もうリタイアしてもいいと思うんですが、「自分の経験を生かせる仕事がしたい」と、応募してきたそうです。
この手の「理系」というか「技術屋さん」の人って、実は苦手です。
管理人業務というのは、たしかに、電気や給水、消防設備など、「機械をいじる機会」(ダジャレじゃないよ)が少なからずあります。無論、機械関係の知識があることはいいことだと思います。しかし、本格的にはいじらないし、実際の仕事は「清掃」が大半です。次は、住民からの苦情処理。そして、住民(特に高齢者)の話し相手。お金の処理・・・・・などなど、多岐にわたる雑事をこなします。言ってみれば、よろずやみたいな仕事ですし、「住民を相手にする」ということで「接客業」ともいえますし、理系よりも文系向きの仕事かと思います。
まあ、理系の知識が役立たないとはいいませんが。
今回の新人さん(=Hさん)、まず、挨拶ができません。小声で「どうぞよろしく」というだけ。「そんなんじゃ、この仕事できませんよ。Hさんが赴任するマンションって、100世帯なんでしょ。ということは、一家族=3人と計算して、300人のお客さんを相手にするんですよ。顔を合わせた住民全員に対して、明るく大きな声で挨拶しないと、すぐに「あの管理人は挨拶もできない」と苦情が来るんですよ。それだけじゃないです、マンション外でも、たとえば、駅で会った時も、シカトなんかすると、「あの管理人は態度が悪い」って、チクラれたりするんですよ。とにかく、挨拶が基本です」と忠告しました。
「そうなんですか?」と不安な声でHさんは応えました。
「以前の会社では挨拶はしなかったんですか?」
「いやあ、地下の設備監視室で仲間数名と働いていただけだから、挨拶なんて・・・・・」
「そんなんじゃだめですよ。考え方を変えてください。この仕事は挨拶が基本です。というか、挨拶だけ元気にできれば、仕事がいい加減でも、”いい管理人さん”扱いですから」
「そんなもんなんですか?」
その後、まずは基礎知識として、マンション内の各所を案内したのですが、「ポンプ室」に入ったら、顔つきがかわって、「このポンプ、エバラの○○型ですね・・・・」とか、嬉々としてしゃべくりまくります。私は「エバラ」といえば、「焼肉のタレ」しか知りませんが。
この時点でなんか嫌な予感がしました。その後も、機械とか設備のことになると、熱心に自分から話しますが、清掃のことなんかだと黙ってしまいます。
そんなこんなで昼休み。なじみの定食屋に連れて行って、少し、ざっくばらんな話をしました。そこで、私が「文系」で「機械のことは詳しくない」ことを知ると、態度が一変しました。「管理人なのに、ポンプのことを知らないの?」「管理人なのに、電験2種を持っていないの?」とか、まくしたててきます。
「別にそんな知識なんかなくたって、何の問題もないですよ」
「そんなことはないでしょ。管理人の一番重要な仕事は設備の管理でしょ。ハローワークでそういってましたよ。だから応募したんです」
「あのね、ハローワークの職員って、自分たちは失業もしたことのない、世間知らずのバカばかりなんです。管理人の仕事の実態なんか、何も知りませんよ。そんなアホ役人の言うこと信じてどうするんですか?」
「そんなことはない。マンションの中で機械は大事だ。あなたは、理系でもないのに、管理人をやってるのか? それはおかしい」
もう、とりつくシマがありません。歯車がかみ合いません。完全に文系をバカにしています。私から言わせれば「機械バカ」ですが。
午後は、「うちの会社は、フロントがアホで、何もしないから、管理人はいろいろな掲示物や配布物も作らなくてはいけません」という話で、文章の書き方を教えたりしたんですが。
「なんで、こんなに細かいことを書かないといけないんですか?」
「それはね。マンションというのはいろいろな人がいて、子供からお年寄りまで、機械のことなんて全然理解できない人もいるし、極力、誰にでもわかる平易な用語を使って、わかりやすく文章を書かないとだめなんですよ。専門用語はNGです」
「でも、”自火報”(自動火災報知機のこと)なんて、こんなの専門用語の部類には入らないです。そのまま書けばいいんです。わからないほうが悪いんです」
すべてがこんな感じで、機械に関する知識はすごいのかもしれまんが、ど素人集団であるマンション住民のことをおもんぱかる思想がまったくありません。
私が文系だと知ったとたんに、私をバカにしはじめました。「自分は若い頃から、いろいろな機械をいじってきた・・・・」自慢話のオンパレード。その話も、私にはチンプンカンプンの専門用語の嵐。
「あの、Aさん? 住民相手にそんな専門用語ばかり使っていると、仕事になりませんよ」と忠告したんですが、「じゃあ、どういう言葉を使えばいいんですか?」と反論。
専門用語ばかり使っていると、平易な言葉がつかえなくなってしまうようです。
「こんな基本的な用語を知らないほうが悪いんです。住民の質が低いですね」
「いやいや、住民の質に、こっちが合わせないとだめですよ」
「そんなの嫌ですよ。仮にも私は一部上場企業で働いていた人間ですよ。それが、こんな無知な連中のレベルに合わせるなんて・・・・・」
その後、午後4時くらいにゴミ収集に立ち会いました。その日は、大量のゴミが出ていたので、清掃局の職員も、急いでゴミを投げるようにパッカー車の中に詰め込んでいきます。
その職員に対して、Hさんは小さな声で、「こんにちは」と挨拶したのですが、声が小さくて、相手に聞こえずに、その職員はシカトしました。そうしたら、Hさん、急に怒り出して、「俺が挨拶したのに、無視とはなんだ。おまえら、市の職員は、俺たちの税金で給料をもらってるんだぞ。おまえのほうから挨拶するのが筋だろう!」と、キレました。
なにがなんだか、この人は?? 公務員に対してはえばるようです。
「ちょっと、Hさん。この人たちは、正規職員じゃなくて、パートだよ。たいした給料をもらってないよ。それに、いつも、ルール違反ゴミでもなんとか目をつむって持っていってもらってるんだから、そういう口の利き方は????・・・・」
「何言ってるんですか、トホホさん。そんなことをしてるから公務員はつけあがるんです」(プンプン)
なんだかわかりませんが、とにかく、怒ってます。どうやら、清掃に関わる職種の人を、上から目線で見ているようです。
こういう人、困ります。翌日、会社のほうにも、「あの人じゃ無理ですよ。せっかくとった物件を手放すことになりますよ」忠告しておきましたが、会社側は聞く耳持たず。。。。。。
そして、1ケ月が経過し。
今日、会社から電話があって、「住民とケンカして、クビになった」とのこと。
やっぱりねえ。当然だなあ。
とにかく、管理人は「設備屋さんあがり」の人よりも、接客業あがりのほうが有用ですよ。(※機械にも詳しく、接客も上手な人が最高です)