管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

リセット 管理会社変更(リプレイス) 盲点は「引継ぎ」






 先般、ブログのほうに「管理会社変更」に関して「簡単にできますか?」という質問が来たので、それに関連したお話をします。

 一時期の「管理会社変更ブーム」が終わり、今は沈静化しているようですが、大手の長谷工でさえ、「管理人が1500万円横領事件を起こす」という状態、かつ、「その事後処理が非常にまずい」という有様で、まさしく、
「業界全体が腐っている」マンション管理業界では、その管理に関して不満を持つマンション住民は少なくありません。むしろ、「不況で人件費を削減しているため、人的資源の質の低下が甚だしい」状況で、不満は大きくなっているかもしれません。そんな中で、「管理会社を換えたい」と思っているマンション管理組合は多いはずです。

 リプレイスに命をかけているG社などは、いとも簡単にリプレイスできるようなことを言いますが、実際は楽なものではないです。まあ、リプレイス候補の新しい管理会社(本命のところ)が、「うちのほうでなんでもやりますから、管理組合さんは大船に乗ったつもりで楽にしていて下さい」と、甘い言葉をかけてきますが、問題となるのは、「総会(臨時総会)で管理会社の変更が決定した」その後です。

 新しい管理会社は、自分のところに決まるまでは、ものすごくがんばるんですが、自分のところに決まったとたん、パワーダウンするんです。つまりは、「釣った魚にえさはやらない」という奴です。彼らにしてみれば、「うちの会社に決まればこっちのもの。あとは知ったこっちゃねえ」と思ってますから、決定時点以降、急に手抜きを始めるケースが多いです。

 しかし、会社が決定したあとに、「管理会社変更」において、最も重要ともいえる「引継ぎ」という作業が残っています。これが、いかに大切なことなのか、理解していない管理組合が多いです。旧管理会社は、会社変更が決定する前後から、わずかに管理期間が残っていても、「もう、うちで仕事をするわけではないから」と、完全に手抜きを始めます。ほったらかし状態です。ですから、新管理会社が相当がんばって、旧管理会社に働きかけて引継ぎをしないとまずいんです。
 

 引継ぎをちゃんとしないと以下のようなことが起きます。

「建物の図面がなくなった」・・・本来、図面というのはそのマンションの管理室とか集会室に保管しておくものですが、これが管理会社に保管してある場合があります。その保管場所がいい加減だとどこかに消えてしまいます。じっくり探せば見つかるかもしれませんが、「もう、一銭の金にもならねえマンションのことなんか、関係ねえ」と思っている旧管理会社はちゃんと探さない場合があります。また、大規模修繕工事を実施済みのマンションの場合、その工事を担当した「工事会社」が、工事時に図面を持ち出して、そのまま返さない場合もあります。(工事会社もいい加減なところが多いんです) また、大規模修繕工事のように大きな工事になると、複数の関係者がからんでいることも多く、その場合は複雑です。「設計監理会社が持ち出してそのまま」とか「外壁工事を担当した下請けに貸したが、戻ってきたかどうか確認していない」なんてことも実際にあるんです。いろんな会社がからむと、お互いに、「どこに行ったかわからない」ということになり、そのまま「紛失」という場合もあるんです。無論、管理組合が、大規模修繕工事終了時に「図面はきちんと戻しましたか?」と確認すれば、こんなことはないんですが、管理組合もいい加減なところが多いですから、「図面がなくなったことに何年も気がつかないまま放置」「なくなったことに気がついた時点ではもう遅い」「おそらく持っていったと推測される工事会社は倒産して消滅していた」・・・そういう、「いい加減な管理をする管理会社」「いい加減な管理を放置していた管理組合」だからこそ、管理会社変更になるわけですから、「図面紛失」というのは、珍しいことではないんです。


「過去の総会の資料・議事録が紛失してしまった」・・・これも本当は、マンションの管理室とか集会室に保管しておくものですが、保管していない場合がけっこうあるんです。管理会社内でもちゃんと保管してなかったりします。この場合は、最後の手段で、住民に対して、「昔の総会資料を持っている人はいませんか?」と協力をあおがないといけません。


「過去の理事会記録が残っていない」・・・・いい加減な管理組合や管理会社は、そもそも、理事会の記録を残していない場合もあります。となると、過去の理事の頭の中とか、管理会社の担当社員の頭の中にしか記録がありません。管理会社を変更したら、担当フロントは当然いなくなるわけで、その頭の中の記憶を頼りにすることもできなくなります。議事録をとっていたとしても、それをちゃんと残していないケースも多いです。理事会の記録がなくなると、今後の管理組合運営に大きな支障になります。「昔、理事をやっていた人が保管している」こともなくはないですが、その人も「転居していなくなった」という場合もあります。いずれにしろ、ちゃんと保管をされていないと、それを復活させることは大変です。

「過去の工事記録が残っていない」・・・・マンション管理において、過去のさまざまな工事の記録というのは大事な資料です。これがないと、「階段の鉄部塗装って、いつやったっけ?」「給水ポンプって、何年か前に交換したよね?」といったことが正確にわかりません。今後の設備管理において、大きな障害になります。

「過去の点検記録が残っていない」・・・・「給水設備の点検記録」「エレベーターの点検記録」「機械式駐車場の点検記録」など、こういったものも、管理室ではなく、管理会社のほうで保管しているケースが多いです。これが管理組合に戻ってこない場合もあります。「点検した業者のほうに控えが残っているのでは」と思って、そこに電話してみたら、「保管期間は5年間なので、その前のものは廃棄しました」なんてこともあります。
※私は、マンションの記録文書というのは、竣工からずっと永久に保管すべきだと、個人的には思っています。かさばる場合、保管場所がすごく狭い場合は、今だったら、PCに取り込んでPDFで保管でもいいと思います。

「過去の管理日誌を渡してくれない」・・・・いい加減な管理会社の場合、管理人が管理日誌をつけていないケースもあります。管理会社では「日誌作成は毎日の業務」と規定していても、当の管理人がさぼってつけていないこともあります。また、ちゃんとつけていても、「これは当社の社内資料ですからお渡しできません」と拒否するケースもあります。一種、国会審議での役人の資料みたいに、なかなか出させることが難しいのです。実際問題、ちゃんと管理日誌をつけているケースでも、その内容が「マナー違反住民に対する批判」みたいな場合もあり、そういうものは、「あくまでも社内文書であり、組合様にお見せするために、書いているわけではない」と、見せたくない気持ちも私はわかります。

とにかく、引継ぎにおいて、「新管理会社が、やる気のなくなった旧管理会社に対して、最大限の協力を求めて、すべての記録資料を引き出させて、完全な引継ぎを行なう」ということは、相当な労力なんです。新管理会社が、「引き継ぎに関して、過去の豊富な経験がある」「相当熱心にやる意志がある。一生懸命にやる」というところじゃないと、できません。でも、前述のとおり、新管理会社は「うちに決まった。もう安心」と、すぐに手抜きを始めますから、そこをしっかり管理組合が監視して指導しないと、まともな引継ぎはできないんです。

 このように、ちゃんとした引継ぎができなかったために、その後の管理に支障が出て、あとで、「え、昔の工事の記録がないの?」とあわてても、どうしようもないです。旧管理会社は、自分たちの管理委託期間が終わると、そのあとに「おたくの会社に記録があるんじゃないの?」とたずねても、「もう、当社は貴組合とはなんの関係もないですから知りません」とあしらわれてしまいます。
 こうやって、引継ぎに失敗した管理組合は、「管理会社を変えないほうがよかったんじゃないの?」という批判にさらされるケースもあります。管理組合の役員も、総会で「管理会社変更」を可決させると、「これで私らの役目は終わった」と思う人が多く、「新しい会社の管理が軌道に乗るまで、あと1年役員をやって監視する」と考える人が少ないです。

 こうやって、引継ぎに失敗すると、まるで「新築マンション」のように、いったんリセットされて、「過去の管理組合活動の記録が一切ない」マンションになってしまいます。

 とにかく、「管理会社変更」というのは、以前の管理会社がいい加減だから行なうものであり、となると、引継ぎがスムーズに行くことはまれであり、最初から「引継ぎは大変だぞ。自分たちで先頭に立って動かないとだめだ。新管理会社に任せておけばいい、なんて思ってはダメだ」と考えないといけません。

 やはり、管理会社変更をする際は、マンション管理士(これも実際のところ、あてにならない人が多いけど、いないよりは少しはましですから)などに一時的にヘルプを頼むほうがいいと思います。

 管理会社変更がどれだけ大変か、一端が理解していただけたでしょうか?





2010/12