管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

防犯カメラ増設 お金かければいいってもんじゃないけど





 ご近所のFマンションの話です。

 そこには昔、鈴木さん(仮名)というすごい管理人さんがいました。管理会社も管理組合もぐうたらなマンションだったので、自分で、私物のパソコンとプリンターを持ち込んで、ワードやエクセルを駆使して、いろいろなことをしていました。たしか、自腹で、ラミネーターも買って、自分で作った掲示物をラミネートして貼ったりもしていました。
 「間違って、火災報知機のボタンを押した際の対処方法」なんていうのも、ラミネートして、貼ってありました。

 私も、鈴木さんと話をすると、「この人すごい熱心だなあ」「やっぱり、高度成長をすごした、悠々自適の定年退職者はいいなあ」と思ったものです。
 この鈴木さんが在籍時に、Fマンションには防犯カメラシステムが入りました。その際も、各所に「防犯カメラ作動中です」「無断侵入はお断りします」「警察に証拠映像とともに通報します」とか、貼り出したりしたのも鈴木さんでした。(防犯カメラ設置会社って、機械を設置するだけで、そういう警告のステッカーを貼るとか、大事なことなのに、意外にやってくれないものなのです)

 そういうわけで、鈴木さんが在籍時のFマンションさんは、とても良好な管理状態だったのですが・・・・・

 3年前に、吉田さん(仮名)という管理人さんに代わりました。この方は、赴任時に、近所のマンション管理人に挨拶回りしたり、しっかりした人格者ではあるものの、「分をわきまえる」というか、「決められた仕事しかしない主義」の人です。というわけで、われわれと話をしても、「それって、委託業務の中に入っている項目ですか? 入っていないことをやるんですか?」とか、線引きをしっかりする人なので、以前の鈴木さんがやっていたことも、この吉田さんになってからは行なわれなくなりました。当然、管理室にはPCもプリンターもラミネーターもありません。理事長から指示されない限り、掲示物も作られません。

 そして、このFマンションでは、2年前に大規模修繕工事が実施されました。この際に、壁の塗り替えなどが行なわれた関係で、以前、鈴木さんが作成して貼っていた各種掲示物が全部はがされました。工事の都合で剥がしたんだから、工事会社が責任を持って、大規模修繕工事終了後に、元に戻すのが筋だと、私は思いますが、工事会社はそんなこと微塵も考えません。はがして、捨てて終わりです。

 というわけで、大規模修繕工事が終わったら、そういった掲示物や案内の書類も全部リセットされました。そこで吉田さんが、原状復帰させるわけもなく、要するに、新築時みたいに、「何もない」状態になってしまいました。

 その後、「ゴミ出しマナーは悪くなる」「自転車泥棒が頻発する」「子供のいたずらが増える」・・・・というように、環境が悪化していきました。昔の鈴木さんであれば、自転車泥棒が1件発生すればすぐに対処して、いろいろな注意喚起掲示をしたりしましたが、今の吉田さんは何もしませんから、そうなるのは当然の成り行きなのかもしれません。鈴木さんの時は、ゴミの詳細な分別方法も、自分で説明書を作成していたくらいですから、まったく何もしない吉田さんとは段違いです。(でも、吉田さんは、けしてさぼっているわけではなく、決められた仕事はしっかりやっています。ただ、それ以上はしないんです)

 防犯カメラのことも、以前の鈴木さんは、自分で操作方法を勉強して、難しい業務用機械なのに、テキパキ操作していましたが、今の吉田さんは、「防犯カメラの操作は、本来、組合役員がやることに規定されており、管理人はさわってはいけないはずだ」(たしかに、運用規定にはそう書いてある。でも、組合役員は何もしないから、いつも、鈴木さんが操作していた)と杓子定規に対応し、何か犯罪があっても、防犯カメラ映像を役立てることもなくなりました。

 こうやって、何もしない状態が続くと、マンション内の治安も悪くなります。そこで理事会でも問題になったようですが、会議の結論として導きだされたのが、「防犯カメラが少ないからいけないんだ。3台増設しよう」というものでした。

 この話を聞いてあきれてしまいました。

 このFマンションに初めて防犯カメラを設置する時、鈴木さんに請われて、「どことどこに設置するのがいいのか?」、私がアドバイスしました。その結果、予算の都合で、なるべく少ない台数に限定されたのですが、必要最小限の場所に設置し、「このカメラ配置で、犯罪者の出入りは完全にチェックできる」というシステムを構築しました。

 
犯罪が増えたのは、カメラの台数が問題なのではなく、その運用をしっかりしていないことや、日ごろの防犯意識の低さが原因なんです。
 外部から侵入してくる犯罪者も、事前の下見の段階で、掲示板を見て、「このマンションの管理はいい加減だ。防犯意識も低い。カメラもつけただけで、運用はしていないな」というのがわかってしまいます。また、マナー違反住民にしても、「カメラ設置したって、設置したことに安心して、その映像を活用することなどしていない。だったら、カメラに写ったってかまわない。ゴミなんかいい加減に出したっていいんだ」ということになります。

 そういうことの改善をまったくせずに、「カメラを増やせばいいんだ」という安易な発想に驚き、「アホか?」と感じました。

 システムを作っても、活用しなければ意味が無いんです。

 そういえば、このFマンションの集会室には、マンション竣工当初の組合理事長が、「これがあると便利だよ」と、無理やり購入した、100万円もするコンピューターが残っているそうです。鈴木さんに聞いたところでは、「買った後に、一度も使われなかった」とのことです。

 結局、マンションの管理って、組合がしっかりしていないとできないものだし、組合がしっかりしていない場合は管理人が「業務外のことも無料奉仕で熱心にやる」人じゃないと、良好な管理はできません。

 このFマンションを見ると、「管理人1人が代わっただけで、これだけ、劇的に変わるのか!」とびっくりしました。それだけ、管理人業務が重要だということです。ただ、逆に言うと、鈴木さんがなんでも熱心に自分ひとりでやったために、管理組合役員も管理会社フロントも、それに甘えて、自分たちが動くことを忘れてしまったのかもしれませんね。




2010/10