管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

苦情処理に泣かされる管理人の皆様へ
「淋しいのはおまえだけじゃない」作戦




管理人の実体験のない「マンション管理士」なんかは、「管理人の仕事は建物の管理」だとか言うけど、実際は、「対人間」の仕事のほうがすごいです。特に、「精神的負担」を考えると、建物のことは、ある程度マニュアルどおりに対応すればできるので楽ですが、「対人間」のことは、ほんと大変で、神経が磨り減ります。

マンション居住者からの「苦情」「クレーム」「愚痴」「言いがかり」「いちゃもん」・・・・・ 毎日のように来ます。
管理委託契約に書かれている内容の「仕事」であれば、ちゃんと受け付けますが、そうではない、「うちの嫁がやさしくない」とか「上の部屋がうるさい」とか「駅前の歩道が工事ばっかりで歩きにくい」とか、仕事外のことは相手をするのが疲れます。

その苦情の、「外面だけ」の苦情ならまだましなんですが、マンションというのは人が生活する場であることから、その人間の本音が出てしまうのです。本性と言った方がいいかもしれません。とにかく、オブラートに包むことなんかない、「言いたい放題」のことを言ってきます。ある意味、社会の中で抑圧されて、噴火寸前までたまった鬱屈を、「管理人にぶちまけることで、ストレス解消しよう」という「ガス抜き」の相手にされているということです。ですから、苦情主の言葉遣いも非常に汚く、このHPには書けないような文言もいっぱいあります。

そういう、「ガス抜き」「サンドバック」の役割に耐え切れなくて、管理人を辞めていく人がたくさんいます。みなさん、就職する際には、「掃除は大変だよ」とかは聞かされているものの、「サンドバック役は大変だよ」といった「精神面での苦労」はあまり聞かされないで、赴任してくるので、いざ、現場に立って、「こんなことまで言われないといけないのか? 管理人という仕事は・・・・」と、精神的にボロボロになってしまうのです。

そんなことを書くと、「電気製品メーカーのお客様センターの電話のオペレーターのほうが大変だよ」と反論なさる人もいますが、今現在、あの種の電話応対は、どの会社でも、「品質向上のために録音させていただきます」となっていて、客側も、あまりひどいことが言えなくなっています。(録音制度の趣旨は、おそらく品質向上よりも、モンスター排除にあると思いますね)

さて、そういう仕事を長年やってきて、ある種の苦情に対しての、「対抗策」をあみだしました。それは・・・

「淋しいのはおまえだけじゃない」作戦

このタイトルは、市川森一さん脚本、西田敏行主演の名作ドラマのタイトルです。大衆演劇の梅沢富美男さんのドラマ初出演作品でもあります。詳しくはウィキペディアででも調べてください。
木の実ナナ 萬田久子 河原崎長一郎 潮哲也 矢崎滋 小野武彦 尾藤イサオ 佐々木すみ江 真屋順子 泉ピン子 財津一郎
など、そうそうたる役者が出ています。

話がそれましたが・・・


たとえば、「上階の騒音問題」。
「上の部屋がうるさくて、本当に困っている。なんとかして欲しい。夜、眠れないんだ」と相談を受けますが、管理会社の仕事には「個人間の問題」は入ってないし、管理組合も、設立趣旨からして、そういうことにノータッチです。一部、「その期の理事長が親切な人なので対応してあげた」とか「管理組合の機能の中に、良好なコミュニティの維持という面があり、その観点で対応してあげる」というところもあるかもしれませんが、少数派でしょう。
しかし、杓子定規に「管理会社はそういうのは関係ないんです」と返答すると、激昂して、「あまえは、俺たちが払った管理費で給料をもらっているくせに、<お客様>である住民に対して、その返答はなんだ!」と怒る住民もいます。「業務外」が通用しないのです。
そういう時に、「実は、3階のBさんからも、そういう相談を受けてまして、おたくだけじゃないんですよ、そういうことで悩んでおられる部屋は」と説明するのです。
すると、今まで興奮して怒りまくっていた人が、不思議なことに、「あ、そうなの。へえ、3階のBさんもそうなんだ。そうなの。うちだけじゃないんだ。へえ〜、それは良かった」って、「被害者の人数が多いこと」の、何が良かったのかわかりませんが、ご本人は、「私だけじゃないんだ。仲間がいるんだ」と喜ばしいことに思えるんです。
日本人の「横並び意識」というか、「集団意識」というか、「何かに所属していると安心、という帰属意識」というか、とにかく、「一人じゃない」ということが、安心感につながるんです。
(天地真理の曲にもあったなあ、「ひとりじゃないって、素敵なことね」ってのが)

「クソガキのいたずらの被害」なんかも、
「おたくだけじゃなくて、みんな困ってるんですよ」と返答すると、なぜか、急に笑顔になって、「そうか、みんな被害を受けてるんだ。そうか」と喜びます。

「そんなバカな?」って思う人もいるかもしれませんが、ほんと、そうなんですよ。「他にも居ます」って伝えた瞬間に、みなさん、笑顔になるんです。「安心したよ」って人も多いです。(全然、安心するところじゃないですが)

「漏水事故」なんかは、この処理にあたる管理会社も、「こんな面倒なことが起きて大変だよ。疲れるなあ」と、愚痴をこぼしたいのはこっちなのに、起こしてしまった人や被害を受けた人から、「なんで、うちだけ、こんな目に会わないといけないの? ついてないわ」と愚痴を聞かされます。そういう時に、「こんなの、しょっちゅうですよ。うちは古いマンションだから、平均して、年に2〜3回はありますよ」「全然珍しいことじゃないです」と教えてあげると、すごく喜んで、「うちが初めてじゃないの? 他にもいっぱいあるの? そうなの? 良かったああ」となります。

このように、 「淋しいのはおまえだけじゃない」作戦はかなり有効です。

私なんか、「今回が初めてのケース」「他には誰もいない」というケースでも、ウソをついて、この作戦を使うことがあります。「ウソも方便」で、相手が喜んでくれればいいので。



2012/11