管理人はつらいよ   
マンション管理最前線

 管理会社変更  「リプレイス」 安易にやると 失敗しますよ 




  
現在の管理会社の管理に「不満」「疑問」がある管理組合さんが、ネットでちょっと調べてみると、「管理会社を変更しましょう」という誘いをかけてくるサイトがいっぱいあります。

最前線の人間として、はっきり言いましょう。「管理会社変更すればよくなりますよ」という言葉は、「高利率の投資話」と同じです。つまり、「危ない」「失敗する確率が高い」ということです。

今、「食えないマンション管理士」さんたちが、「てっとり早く儲けよう」と、「管理会社変更」を勧めてきます。これは、「管理会社を変更すれば、管理委託費を半減することができますよ。削減した分の半額を成功報酬でいただきます」といった商売をしているからです。管理委託費の削減は、誰から見てもわかりやすい「成果」なので、「管理人の質が良くなった」といった、判断にしにくい材料よりも、前面に出しやすいのです。そして、コンサルタントといった、なんともわかりにくい業務よりも、お金ももらいやすいです。

ということで、マンション管理士の大半は、「管理会社変更」を勧めてきます。また、自分の報酬を高めるために、思い切った高額な委託費削減を進めます。

でも、そういうことをやって、ほんとに、管理はよくなるんでしょうか? 私は失敗例をいくつか知っています。

今回は、ある架空のマンション 「ビーズホーム 二番館」さんを例にお話しましょう。



もともとの管理会社「四対不動産管理」(地元の中堅企業)に不満(「委託費が高い」「管理人がナマイキ」「フロントマンが仕事をしない」)を持っていた「ビーズホーム 二番館」の管理組合の役員さん。まずは、地元自治体主催の「マンション管理セミナー」に出席し、そのセミナーの講師だったマンション管理士の個別無料相談を受けました。
マンション管理士は、「管理会社を変えればいいんですよ」とアドバイス。そのまま、その管理士さんに、「リプレイス(会社変更)」のコンサルタントをやってもらうことになりました。マンション管理士さんへの報酬は、「年間管理委託費の削減額の50%」ということになりました。

そのマンション管理士さんが「このあたりがお勧めです」と推薦してきた3社の管理会社でコンペを開きました。3社いずれも名の通った大きな会社で、「管理会社ランキング30位」の中に入っています。プレゼンをした管理会社社員は、みな、素晴らしいプレゼンをして、参加した住民は、「やっぱり、有名な大手は違うわね」と感心。

プレゼンの内容は3社とも、大差ないものだったため、「価格で判断しよう」ということで、GG社という管理会社に決定しました。

管理委託費の金額は、「四対不動産管理」が年間2千万円だったのに対し、「GG社」は、1200万円。なんと、40%の削減に成功です。管理組合としては万々歳です。なお、マンション管理士には、削減額800万円の半額の400万円が報酬として支払われました。なお、マンション管理士との顧問契約期間は「新管理会社に変更したら終了」となっていたので、新管理会社の管理になってからのことには、マンション管理士はなにも関与しません。つまり、「引継ぎ」に関することをしなかったのです。(「引継ぎが大事なんだ」という概念も、管理組合側になかった)

さて、新しい管理会社に替わった訳ですが、なんかどうも、前会社「四対不動産管理」との間の、引継ぎ業務がうまくいっていないようです。というのも、「四対不動産管理」は、「うちは切られるんですか?」とわかった時点で、完全にやる気をなくして、会社変更になるまでの期間、ほったらかしの管理しかしなかったからです。

「建物の図面が行方不明」・・・
管理室の中にも、集会室の中にもありません。四対不動産管理に聞いても、「うちではわかりませんね。そういう大事な書類は、もともと、管理組合さんできちんと保管しておくものじゃないですか? うちは関係ないです」と、なんとも、冷たい対応です。

「過去の総会議事録・理事会議事録がない」・・・
これも、管理室の中にも、集会室の中にもありません。四対不動産管理に聞くと、「うちのほうでは、管理会社保管分の議事録はありますが、これは当社の保管分なので、お出しすることはできません。そういう大事な書類は、管理組合さんのほうで、きちんと保管しておくものでしょう?」と提出を断られました。このへんになると、「契約を切られたことへの嫌がらせ」というレベルです。
そういうわけで、管理人が書いている「業務日誌」も、「これは当社の書類ですから」と言われて、もらうことができませんでした。

要するに、この管理組合の「歴史」「経歴」が、全然残ってないんです。こうなると、設備面で何をしたかの記録もなく、長期修繕計画も立てられません。そこで、新管理会社のGG社に、「おたくのほうでがんばってもらって、四対不動産管理から各種書類を引き出してよ」と頼みましたが、「そういう面倒なことは、委託契約の中に入っていないものですから、ご自分でなさってください」と言われました。なにしろ、40%引きの委託費ですから、「いたれりつくせり」の充実した管理など無理なんです。管理会社としても、あれこれ切り詰めた上で出した「激安価格」ですから。いわば、「1000円理髪店では、シャンプーも髭剃りもしない」みたいなものです。「カットだけ」みたいな管理を委託したわけです。
本当は、こういう「不便になること」も、コンサルタントであるマンション管理士が、管理組合に対してよく説明しないといけないのですが、マンション管理士としては、「削減額が大きくなればなるほど、自分の報酬が増える」という腹積もりがありますから、そういう、不都合なことは隠して、ただ、ひたすらに委託費を削減することだけを考えています。

新管理会社になって、管理費等の引き落とし方法が変更になったが」・・・全区分所有者から、「新引き落とし処理」の書類への署名捺印が必要なんですが、これがなかなか100%に達しません。特に、部屋を賃貸にしている外部居住者区分所有者の把握が難しいのです。管理組合に連絡ナシに、転居している人もいます。半年経過しても、書類が全部集まらず、引き落とし処理の完全移行が出来ません。管理組合は、管理会社に対して「行方不明の区分所有者を探してください」とお願いしましたが、「そんなことは、委託契約の中にありません。組合さんのほうで探してください」と言われました。

さて、大手であるGG社に管理が変わったら、いろいろと不都合なことも出てきました。大手企業というのは、「きっちり」しているからです。

「高齢者住民が、管理人に、自室内の蛍光灯の交換作業を頼んだら、きっぱりと断られた」・・・まあ、当然でしょうね。個人宅の中のことは、管理会社は関係ないですから。

「駐輪費の現金支払いを今までは管理室で受け付けていたのができなくなった」・・・当たり前ですね。管理人が現金に触ることはありませんから。

「市でやっている、交通災害共済の受付を、今までは管理人がやってくれていたが、拒否された」・・・同上

「毎月、管理人が各世帯に配布してくれていた、市からの広報。この配布をしてくれなくなった」・・・「市の広報」は管理会社は関係ないです。どうぞ、住民の皆さんでやってください。

「管理人がやってくれていた、”古紙資源回収の、整理の仕事”を、新管理人がやってくれない」・・・これも当然でしょう。役員の中で担当者を決めて、やってもらわないと。

「古紙資源回収に対する、市からの援助金支給の、申請手続きを、新管理人がやってくれない」・・・同上。

「地元自治会がやっている、秋祭りの寄付募集の受付を管理人がやってくれない」・・・同上です。自治会の仕事と管理組合の仕事は厳に区別されるべきものです。

「ゴミ集積場に出された、ルール違反ゴミが、回収拒否になったのを、今までは、管理人が始末してくれたが、新しい管理会社では、そのまま放置され、悪臭が漂うようになった」・・・ルール違反した人が悪いんですから、管理人が尻拭いなんてする必要はないです。そんな契約にはなっていません。

「マンション前の道路に捨てられた、空き缶などのゴミを掃除してくれない」・・・委託契約の範囲は、マンションの敷地内ですから、敷地外のっことは関与しません。大手になるほど、そういうことをきっちりします。

「管理人が残業をしてくれない」・・・午後5時に漏水事故が起きても、管理人はそれを放置して帰ってしまう。残業代が出る契約になっていませんから、当然でしょう。残って欲しかったら、その分のお金を出さないと。

「大雪が降って、すごい積雪で、マンションの玄関も雪に埋もれたが、管理人は何もしてくれない」・・・雪かきは仕事じゃないです。管理組合で有志を募って自分たちでやるべきことです。

「管理人が住民との世間話の相手をしてくれない。つれない態度」・・・これも当然です。業務範囲外ですから。だいたい、もとの管理人さんに対して、「住民と世間話ばかりして仕事をしない」と批判して、会社変更をしたくせに、そんなことを言うのは、おかしいです。

「管理上必要な細かな備品。今までは管理人が代わりに買ってきてくれたが、今の管理人はそれを一切してくれない」・・・これも当然です。組合さんが自分で買いに行くものです。

「今までは、管理室の中に、自転車の空気入れがあって、それを貸し出してくれたが、新管理会社は、”そういう貸し出し備品の管理はできません”と断った」・・・まあ、そんなもんでしょう。

「管理人が、高齢者や身障者を特別扱いしてくれない」・・・「誰に対しても平等なサービスをしなさい」って、会社に教えられていますから。

「管理人がど素人。ほとんど役に立たない」・・・激安の委託費の現場に、優秀な人を配置するわけがないです。

「今までの管理会社は、理事会では、司会進行をやってくれて、議事録の作成をしてくれたが、新管理会社は、”司会は理事長がやってください”と言い、”議事録は書記さんが作ってください”と言っている」・・・まあ、そういう契約にして、委託費を安くしたんですから、しょうがないです。

「担当フロントが使えねえ奴」・・・リプレイスのコンペのときに出てくる社員は、その会社の中のエースです。いわば、楽天イーグルスの田中投手みたいなもの。しかし、実際の現場に投入されるフロントマンは、プロじゃないです。せいぜい、ノンプロの3番手投手程度の人しか来ません。もしくは、リタイヤしたロートルか。

「小修繕工事の価格がすごく高い気がする」・・・そりゃそうですよ。管理会社は、こういう「工事」で稼ぐんですから。じゃなかったら、手間ばっかりかかる、築年の古いマンションの管理なんか請け負いません。

「廊下に吐かれたゲロを掃除してくれない」・・・契約に入っていないんです。(※下記「用語の正しい認識」を参照)


まだまだ続く

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「用語の正しい認識」
話はちょっと脱線しますが、新たに「管理委託契約」を結ぶ際には、ぜひ、きちんと、専門用語の定義を理解して下さい。

一例をご紹介します。
マンションの共用庭のようなところの「雑草」の処理に関して、契約を結んだとします。これが「草刈」「草取り」かによって、実際の内容は大きく異なります。

「草刈」というのは、地面の上に露出している草を、文字通り「刈る」ことです。実際には、このような機械を使用します。


専門業者は、ガソリンエンジンで動くものを使用し、ものすごい音を立てて、草を刈ります。優秀な機械なので、短時間で広範囲に刈れます。扱う人間は、振動による手の麻痺なんかはあるんですが、腰を曲げて、鎌で刈るようなことはないので、姿勢としては楽です。(草刈正雄のように涼しい顔で仕事ができます)
ただ、手作業じゃなくて、機械なので、地面ピッタリに刈るのはなかなか難しく(小石があったりするし)、地表上、数センチの草は残ります。
そして、地中には、根っこが残っていますから、そこから、またすぐに草が生えてきます。ですから、根本的に草を除去できるものではありません。

いっぽう、

「草取り」というのは、わかりやすく言うと、「草を根こそぎ、抜き取る」ことです。通常は、機械を使用せずに、手作業で行ないます。(背の高い大きな草は、最初、機械でおおまかに刈っておいて、その後、手作業で草取りをする場合もあります)
根こそぎ、抜き取りますから、草刈と違って、また、そこから伸びてくる、ってことはありません。文字通り、根本的に除去することになります。ただし、人間が手作業で、1本1本、草を根こそぎ抜き取る作業ですから、ものすごい手間がかかります。おそらく、草刈の20倍の手間をかけていると思います。業界内部の基準では、「優秀な作業員1名で、1日で処理できる、草取りは、10m四方の面積が限度」と言われています。
これは、姿勢がきついです。ずっとしゃがんでいますから、確実に腰痛になります。重労働です。
それに、根を抜く際に、少なからず、土もいっしょに抜いてしまうために、草取りをすると、確実に地面の土の量が減ります。ですから、何年かに一度は土を補充しないといけません。土は、いざ買おうとすると、けっこう高いです。また、根こそぎ抜き取ると、そのあとに強風が吹くと、土ぼこりが舞い上がりますし、大雨になると、植物がないために、土砂が流出します。そういう弊害もあります。

このように、「草刈」と「草取り」は、なんとなく似ているようですが、中身はまったく違います。

契約書の記載が「草刈」だとしたら、金額はわりと安いはずですが、刈った後にすぐに草が伸びてきてしまうことを覚悟しないといけません。
記載が「草取り」だとしたら、「なんでこんなに料金が高いの?」と疑問に思ったとしても、「そういうものなのだ」と納得しないといけません。重労働なんですから。

このように「用語の意味」を正確に理解しないと、ちゃんとした適正な契約もできないのです。


「共用廊下の清掃」の仕様に関しても、同じような問題があります。「拭き掃除」と「掃き掃除」の違いです。

掃き掃除」は、箒で掃くだけです。落ちているゴミはそれだけできれいにできますが、たとえば、「廊下でゲロを吐いてしまった」人がいた場合、「掃き掃除」は「吐き掃除」ではありません。箒で処理できるものに限定された清掃なので、「ゲロの掃除」は、業務外になります。

「拭き掃除」の場合、箒で掃くだけでなく、水を撒いて、モップで拭く、という業務が加わります。この場合、ゲロとかも業務範囲に入ります。

つまり、共用廊下に関して言うと、「拭き掃除」のほうがはるかに大変な仕事、ということになります。ですから、もし、清掃の仕様書に記載されているものが「掃き掃除」だったら、金額が安いかもしれないけど、仕事はあっさりとした簡単なものだけです。杓子定規に言うと、誰かがゲロを掃いたら、清掃員はタッチしませんよ、ってことになります。

激安を標榜する管理会社の場合、「清掃業務」と一言で言っても、実際の契約条項は、上記のような「草刈」とか「掃き掃除」だったりするわけです。専門用語をちゃんと理解しないで、安易に契約すると、「新管理会社の清掃員は、ゲロを掃除してくれない!」などと、あとでひどい目に遭います。マンション管理士が、そういうことまで理解できる「能力」を持っていて、説明をきちんとしてくれればいいですが、「削減費を大きくして高い報酬をもらおう」としていたら、あえて、説明はしないでしょう。

安易なリプレイス。危険ですよ。



2013/7


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