管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
若い営業マンの実地訓練につきあわされる管理人 せめて、マンションの基礎知識を持って来て欲しいのよ |
今回の「横浜の三井の杭打ち偽装マンション」の報道を見ていると、「単棟型マンション」なのか? 「団地型マンション」なのか?の区別もつかないマスコミ報道ばっかりで、「こいつら、なんにもわかってないなあ」と情けなくなるのですが。
世間一般の人の「マンション管理組合」に対する認識など、総じて低いものでして。そういう「誤認識」にもとづかれると、いろいろ困ることがあります。
さっき、管理室にやってきた住民も、「この前行われた、町内会の防災訓練。忙しい中、わざわざ出かけていったのに、弁当くらい出ないのかよ! なんとかしろよ。普通は参加費とか出すもんだろ!」と恐喝してきました。この人、「町内会」と「マンション管理組合」の区別もつかないのです。地元地域の町内会(**1丁目町内会という組織)に対する文句を、「マンション管理組合に雇用された管理人」に言ってくるんですから。こっちからすると、バカバカしいくらいです。
こういう間違った認識はいろいろあって。例えば、「管理人」という言葉。区分所有法では、マンションの中で「一番えらい責任者」として「管理者」という言葉がありますが、これは、一般的には「管理組合理事長」のことを指しますが、「管理人」と「管理者」の区別もできない人がいっぱいいます。「花壇をつぶして駐車場を1台分増設する」などという大掛かりな工事を、「管理人が個人の独断で決めている」と、本気で思っている人までいるのです。そういう人が、怒って、管理人室に来て、「なんで、オレが花を植えた花壇(共用部に無断で私物を植えることは違反ですよ)をつぶすんだ!」と、私個人に言ってくるんですから。
さて、管理室には住民だけでなく、外部からもいろいろな人がやってきます。その中で、鬱陶しいのが、いわゆる「営業マン」の類。そして、特に困るのが、「新人」君。入社したばかりだから、イキがよくて、一生懸命で。そりゃ、個人的には応援してあげたいけど、そんなことはできず。そして、新人君は何もわからずに、上司の命令で飛び込み営業をやらされます。
「コピー機を新型に変えませんか? 今の新しい物は便利ですよ」
「自転車駐輪場の不足で困っていませんか? 2段式の機械のものに変えませんか?」
「インターネット回線を当社の光に変えませんか?」
「宅配ロッカーを設置しませんか?」
「自動販売機を置きませんか? AEDを無料で提供しますよ」
「防災用備蓄倉庫を設置しませんか?」
いろいろやってきます。
この営業マンさんたち。マンションを回るんだから、「分譲マンションとはどういうものか?」最低限の知識を持ってやってきて欲しいのですが、わかっていない人が多く、特に、新人さんはほんとに何も知らないです。(まあ、新人が、自分でマンションを買った経験とかないからしょうがないけど) 多少、上司が、マンションというものを教えてから外回りさせればいいのに、と思います。
彼らの大きな誤解は、「管理人がそのマンションの責任者」だと思っていること。「コピー機を新型に変える」ことも「駐輪場を2段式に改造する」ことも、「管理人の個人の判断でできる」と思っている人がいるのです。ほんと、マジな話です。(※賃貸マンションでは、そのオーナーが道楽で管理人もやっていることがあり、その場合は、管理人の独断で、そういうことを決めることも可能)
だから、必死になって、「2段式にするといいですよ〜」とセールストークを繰り広げます。こっちは、そんなこと全然聞く気もないのに。せめて、お菓子の一個でもくれれば、多少の時間、話につきあってあげてもいいけれど、こういう新人の場合、そういう「販促品」もほとんど持たされておらず、手ぶらです。おそらく会社としては、「新人研修」としての「実地訓練」として派遣しているんだと思います。「契約ゲット」「商談成立」なんか考えてないと思います。そういう「訓練」につきあわされる、こっちは疲れます。
それでも、「AEDつきの自動販売機」なんかは、こっちも興味があるし、私個人の事情としては、こういったHPやブログのネタになる「知識」を得るために、彼らの話を聞いてあげます。すぐに追い返すと、「なんで、すぐに戻ってきたんだ! ちゃんと話を聞いてもらったのか! もう一回行って来い!」と会社で怒られるそうです。ですから、彼らのためにも、なるべく話だけは聞いてあげるのです。
ただ、こっちがちょっとでも食いつくと、「これはなんとかなりそう!」と、新人さんは喜んで、ハッスルしてしまうのです。こっちは「単なる知識」を聞いてるだけなのに、あんまり喜ばれてもねえ・・・ でもって、そのあとは、「すぐに見積もりを作成してお持ちしますから、ぜひ、よろしくご検討下さい」と続けます。
でもって、その見積書が、おそらく、彼が個人的に作ったんだと思うのですが、ただの書類なんです。意味不明の専門用語と数字しかありません。これを、素人である、理事会役員に、そのまま、見せられますか? 普通は、「完成予想図」とか「ご提案書」とか、「製品のパンフレット」とか、そういうものといっしょに「見積書」を提出するものです。それなのに、「ABE-AHO4242 1式 35万円」とか、型番しか書いてない見積書とか出してきて、どうするの? (上司は確認してないのかな?)
中には、管理組合で「なんとかしなくちゃ。どこかいい業者いないかな?」と探している時に、タイミングよく飛び込んでくる会社もあって、とんとん拍子で、そこの会社の製品で工事をするなんて流れになることも、奇跡的にあったりすのですが、この営業マン、マンションというものの、「時間の流れ」を理解していないのです。彼は、「では、来月には着工しましょう!」とか言い出すのです。
「おいおい、そんな簡単にはいかないんだよ」ということを、私が、彼に懇切丁寧に説明しないといけません。
□管理人は管理者ではなく、責任者でもない。ただの小間使いであり、理事長に対してできることは伝言や連絡だけ。多少の推薦はできるが。
□理事長がたとえ乗り気になったとしても、理事長の独断では実施できない。
□ものによっては全世帯のアンケートをとらないといけない。
□理事会なり、専門委員会に諮って、役員の了承を得ないといけない。
□理事会は、月に1回しか開催されない。案件によっては、決定までに、何ヶ月もかかる。
□大掛かりなことでは、全住民に対しての説明会を開催しないといけない。
□実施が決定してもすぐにはできない。それを来年度の予算案に組入れ、総会で議決しないといけない。
※この、お役所的な「来期予算案を策定して、来年になったら、その案にしたがって実施していく」という仕組みを理解していない営業マンがほんと多いのです。決定したらすぐに工事開始だと思ってます。
□であるから、今期のうちに実施できることはまずない。
□来期になると、理事長はじめ役員は総入れ替えになるから、今の理事長に必死に説明しても無駄になる場合がある。次期理事長にまた丁寧に一から説明しないといけない。工事実施の時には、理事長は一般組合員になってしまっている。
□実際の工事の際に、組合の役員が立ち会うことはほとんどない。(これはうちだけの特殊事情かも?)
□工事料金の支払いも、管理会社で伝票を作って、それに理事長の印鑑をもらって、その伝票を管理会社の社員が銀行に持って行って・・・・ とけっこう手間がかかり、すぐに振り込めるわけではない。
てなわけで、「駐輪場を機械式に変える」なんていう案件だと、普通に「3年」とかかかってしまうわけで、もう、その新人は、別の営業所に転勤しているかもしれないのです。でも、彼は、すぐに実施されて、お金もすぐに入ってくると思っているのです。
このように、特に「時系列」に関して知識のない新人くんが多く困ってしまいます。たまに、「今月いっぱい特別セールをやってまして、今月中に決めていただければ、通常の2割引でお求め頂けます」なんてことを言う人がいますが、「今月中に決める」なんて絶対に無理なんです。
ちょっとは分譲マンションのことを勉強してから、来て欲しいなあ。
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