管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
認知症の初期患者に悩む管理人 いっそ、警察沙汰を起こしてくれたほうがいいんだよなあ・・・・・不謹慎だけど |
管理人業務で、「警察沙汰」というのは嫌なものですが、場合によっては、「警察沙汰を起こしてくれないかな?」という物騒な願望を持つことがあります。
それは「認知症」の問題。それも、重要なのは「初期段階」のこと。
ここは、築40年近くなる古いマンションで、住民の高齢化が進んでおり、私も数多くの認知症患者を見てきましたが、初期段階の認知症患者というのは、「年だからちょっとボケたかなあ」「ど忘れしただけかな?」という、「正常と言われれば正常とも思える」って感じでして。それに、初期段階は「正常な時もあるし、異常な時もある」という「その時によって違う」ということもあり。
「高齢者の単身」もしくは「高齢者夫婦だけ」の場合、親族(息子とか娘とか)が別にいたとしても、そういう人と会うのは「年に数回だけ」ってパターンが多く、その住民の最近の生活に関しては、「実の娘」よりも、管理人の方がよく知ってる、ってことがありがちで。
つい先日も、「Aさん(単身高齢者男性)、最近ちょっとおかしいなあ。心配だなあ」と思っていたところに、ちょうど、「東京にいる娘が来てくれたんだよ」と、娘さんが来訪していて。「こりゃ、ちょうどいい。Aさんのことをちょっと相談しよう」と、その娘さんに話しかけたら・・・・
「なんて失礼なことを言うんですか! うちの父はボケてなんかいません!」「そんなことを言う、あなたのほうがボケテます」「管理会社に苦情の電話しますよ!」ってひどく怒られまして。初期段階だと、「誰から見てもおかしい」ってことはないですから、「正常」と見えないこともないのです。特に、「身内がぼけてきている」というのは認めたくいないものですから、こういう反応になりやすいのかもしれません。
また、私が話して、「実は私も、ちょっとおかしいなあとは思っていたんです」という反応を示すお子さんもいます。でも、「まだたいしたことはない」「他人に迷惑をかけているわけでもない」(管理人が迷惑をうけていても、この場合「他人」にはカウントされない)「公共機関に相談するのも恥ずかしい」「医者に連れて行きたいが、本人が拒否するだろう」・・・なんていう場合もあって。
でも、認知症って確実に進行していきますから、いずれは他人に迷惑をかけたり、自分自身が危険な目にあったり(=火事を起こしたり)するわけでして。私ら管理人としては「早めに手を打って欲しいなあ」と思うわけです。その「他人への迷惑行為の発現」というのが、「お隣の部屋のプランターの花を勝手に抜いてしまう」という程度ならいいんですが、「4階廊下から地面へ炊飯器を投げ下ろす。1階を通行していた住民の頭にあたって大怪我」なんてことになると大変なんです。
そういうわけで、ご家族の皆さんが「うちのオヤジの認知症はやばいぞ」という危機感を持ってもらうには、警察沙汰が一番効き目があるわけでして。対策を実施してくれる行政側も、「警察沙汰になって、警察にちゃんとした記録が残っていると、我々も動きやすい」と行ってました。
理想的なのは、「Aさんが、自分の部屋の家財道具をベランダから外に投げ捨てている。危ない。警察を呼ばないと!」と別の部屋の人が警察に通報してくれて、なおかつ、投げ下ろしたところには誰も人間はいなくてけが人は発生しなかった、ってのがいいかなと思ったりしています。
さすがに、「こういうことがあって、警察も来たんですよ。嘘だと言うのなら警察に聞いてみてください」と言われれば、親族も「これはなんとかしないと」って本気で心配するようになります。認知症の対応策というのは、本人はもちろん何もできないし、管理組合でなんとかするものでもないし、隣人がどうこうするものでもないし、やっぱり、家族親族が動かないと、行政も何もしてくれないわけでして。遠くで生活し、年に数回しか合わない親族に、どれだけ真剣に考えてもらうかがポイントなのです。
つい、先日は、認知症の疑いがあるBさんが、自転車に乗って、マンションから、外の道路に出る際に、自動車と出会い頭で衝突死、軽いけがをすることが有りました。Bさんが路上に転んでいる様子を見て119通報してくれた人がいたので救急車が来て、警察が来て、ちょっとした騒ぎになりました。Bさんは念のため救急車で運ばれましたが、その前に警官が事情を聞いた際に、Bさんは、「俺がマンションから外に出ようとして一時停止しているところに、車がぶつかったきた」と言ってたのですが、あとで、警官といっしょに防犯カメラを確認したら、「マンションから出ようと」ではなく、「外から戻ってきてマンションの中に入ろうとしていたところ」でしたし、「一時停止」なんかは全然してなくて、車が行き交う道路に平気で突っ込んできていました。つまり、Bさんの言っていることはまるっきりウソで、車の運転手の言ってることが正しかったのです。でも、日本の交通事故は、どんなに歩行者や自転車が悪くても、自動車側が責任を取らされるので理不尽だと思います。(2016年5月に起きた、無謀運転の赤ちゃん連れの自転車が車と接触して赤ん坊が転落死した事故も、状況としては自動車側は何も悪くないのに、運転手が逮捕されて、かわいそうでした)
今回はカメラ映像がしっか残っているので、運転手側の過失はかなり減額されると思いますが。
こんなふうな「完全に頭がおかしい」というのを警察も把握できる事件が起きると、親族も本気になります。
これまで「物的」なことについて書きましたが、難しいのが「言葉」でして。管理人室に毎日のようにやってきて、「お前、あそこの廊下の掃除をしていないだろ!!」とか、とても怒った口調で、「ウソ」をどなり続ける人なんかはほんと困ります。はたから見ていると、「管理人に正しい苦情を言ってる」だけだから、私の評価が下がるだけです。
警察沙汰といえば、「被害妄想」というのも困ったもので。昔のことですが、私も初回は完全に騙されました。
「部屋の中で昼寝をしていたら、枕元でなにかガサガサという音を聞いたので目をあけたら、知らない男が部屋の中に入ってきていて、タンスから財布を抜き取っていた。私が叫んだらあわてて逃げた。だから、管理人さん、すぐに警察を呼んで!」っていう住民Cさんからの電話が管理室に来ました。これも、あとから考えれば、「なんで自分で直接110番しないで、管理室に電話をかけてくるんだよ? それがおかしいじゃん?」という疑問が湧くわけですが、その時はそんなことまで頭が回らずに、すぐに警察を呼んで、いっしょにこのCさんのところに行って、話を聞いて現場検証もつきあいました。Cさんの話は具体的だったので警察もすっかり信じこみ、米沢さんみたいな鑑識なんかも来て、指紋を採取したり、大変なことになりました。当時は、防犯カメラがなかったので、犯人の姿を確認することもできず・・・
そして、その2週間後、また、Cさんから「泥棒が!!」という電話が来て、「なんか怪しい」と気がついたわけで。いちおう、また、警察を呼びましたが、前回の事情を知っている警察は、「この人、認知症じゃないの?」って言い出し。
実はこのCさんは息子さんといっしょに2人暮らししていたのですが、初回の犯行の際に、「なくなったとされる財布など、最初から存在していない」ことに息子さんは気づいていたそうで。でも、恥ずかしくて警察に言えずにいたそうです。今回は2回めなのでさすがに観念し、「痴呆なんだと思います。今度病院に連れて行きます」と白状したわけでして。
まあ、とにかく、「誰から見ても、この人は頭がおかしい」というレベルだとわかりやすいのですが、初期段階の「まともにみえないこともない」という時点での認知症は、ほんと、我々管理人にとっては困るのです。ですから、初期段階のうちに、軽微な警察沙汰を起こしてくれるのが、「治療に早く取り掛かれる」といった利点があります。家族が早く気づいてくれるのが望ましいです。
あ〜あ。
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