管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
シルバー人材センターからの管理人雇用 限りなく不透明なグレー |
ご近所の顔見知りの管理人さんが、昨年の10月末で退職しました。養蚕、ではなく、解雇だそうです。
解雇の理由なんですが、ひらたく言うと、経費節減です。そのマンションでは、「駐車場代(=立体機械式)を100%管理費会計に参入して、それでなんとか管理費会計が維持できる」という、管理組合経営としたら倒産寸前の運営をしていて、「駐車場に空きが出ている現在、管理費会計は赤字。修繕積立金から補填している」「住民が払う管理費の値上げは反対が多く不可能」「管理費をなんとか節減しなければ」ということになったそうです。
普通であれば、「管理会社をリプレイスして、管理委託費の安いところに変更する」という手法をとりますが、そのマンションは、全世帯で26室ほどしかない小規模マンションで、儲けも少ないことから、画期的に安くなる管理会社は、探しても現れず。
また、「リプレイス」に消極的な住民も多かったそうで。
そこで、どこかからの入れ知恵で編み出したのが、
「管理会社は、今までと同じ会社に続けてもらう」
「しかし、全面委託ではなく、管理人業務だけは、管理会社から切り離して、管理組合で直接雇用する」
「その管理人は、シルバー人材センターから派遣してもらう」
「管理人の勤務時間を短くする」(週4日勤務 各日5時間ずつの労働時間 計 週20時間)
「そうすると、管理人人件費が、時給1000円だけで済み、大幅な管理委託費経費の節減が期待できる」
という方法。まあ、よく聞くような話です。
そういうわけで、以前の管理人さんは解雇され、新しく、地元自治体のシルバー人材センターから人員が派遣されて、今、その新人さん(実際はご高齢ですが)が勤務しているようです。しかし、研修も受けていないようなので、ただ、掃除しているだけ、という感じです。前管理人さんから聞いた限りでは、「引継ぎもしていない」とのこと。
まあ、管理会社で雇用する管理人の場合、たとえ、最低賃金でその人員を雇った場合でも、会社としてのその他の経費がかかりますから、管理組合側がどんなに「安くしろ!」と叩いても、「最低賃金+500円」くらいの時給人件費になります。「交通費」「募集にかかる費用」「研修教育費用」「福利厚生」「会社の利益」などいろいろかかるのは当然です。
そこで、シルバー人材センターに依頼して、「交通費無料で済む、近所に住む高齢者」を「時給1000円」で雇ったわけです。
ただ、シルバー人材センターの人の場合、問題となるのが、労災です。
これ、以前も問題になりました。
「管理人なんてちょろい仕事でしょ? 労災なんかないでしょ?」って思う人も多いかもしれませんが、当サイト愛読者の皆さんならご存知のとおり、けっこう労災事故って多いのです。働いている人間が高齢者ということもあり、一般の人よりも発生率は高いです。
「電球交換、屋上タンクの点検など、高所作業がある。脚立や梯子に登ることも多い」
「植栽の剪定などをやらされると、刃物を扱うことから、危険」
「雪かきをやらされて、腰を痛める。滑って転倒」
「ゴミの中には、刃物や串、ガラスなど危険なものが混ざっており、いい加減なゴミの出し方をする住民が多い場合、ゴミの整理をしている際に、怪我をする」
「ゴミの中には危険な薬品がこぼれて混ざっていることがある。
「古紙資源回収をやらされると、重い紙を持ち、腰を痛める」
「ゲロの始末をする際に、ノロウィルスに感染する」
「廊下を巡回中に突然部屋のドアが開き、激突して大怪我をする」
「クソガキが遊んでいる玩具の銃から発射されたBB弾が目に当たり失明」
などなど、危険にあふれた仕事です。
そういうわけで、労災に関しては十分に考えないといけません。
しかし、今までの、「シルバー人材センター」の仕事では、とてもおかしなことが起きていました。
■労働して怪我をしたのに、「シルバー人材センターの仕事は請け負い業務だから」ということで労災適用にならなかった。
■だったら、一般の健康保険で怪我の治療をしようと思って病院に行ったら、「労働上の怪我だから労災です。健康保険は使えません」と断られた。
その結果、「労災も健保もだめ」ということで、10割負担となり、治療費は全額、本人負担となったのです。
「こんな馬鹿な話があるか!」ということで議論が起き、厚労省は以下のような通達を平成24年に出しました。(遅すぎるね。役人は怠慢)
[1] 健康保険
○健康保険における業務上・外の区分を廃止し、請負の業務(シルバー人材センターの会員等)やインターンシップなど、労災保険の給付が受けられない場合には、健康保険の対象とする。
○その上で、労使等関係者の負担に関わる変更であるため、変更の方法(法改正の要否)、遡及適用の要否、役員の業務上の負傷に対する給付の取り扱いを含め、社会保障審議会医療保険部会で審議を行い、結論を得る。
[2]労災保険
○労災保険には、労働基準法に規定する労働者以外の者(請負の業務を行う者等)のうち、特に保護すべきものに対し、例外的に労災保険の加入を任意で認めている「特別加入制度」がある。負傷等を負った方が十分な給付を受けられるよう、特別加入制度について十分な周知・勧奨を行うこととする。また、特別加入制度の対象者については、就労環境の実態を踏まえ、適切なものとなるよう、検討を行う。
○シルバー人材センターの会員等であっても、従来どおり、実質的に雇用関係にある人には労災保険の給付の対象となる旨を、改めて労働局等に徹底することとする。
[3]シルバー人材センター
○シルバー人材センターの会員の保護の観点から、一般企業や公共機関から受注している作業を中心に、可能なものはすべて、労災保険が適用される「職業紹介事業」や「労働者派遣事業」による就業への転換を進めていくよう指導することとする。
この通達を受けて、各地の「シルバー人材センター」が対応をとりました。
■請負ではなく、労働者派遣という形態をとり、労災が適用できるようにした。これで、労働者とシンルバー人材センターは雇用契約を結ぶことになる。労災は適用されるが、社会保険や雇用保険は無い。
参考HP 「吉岡町シルバー人材センター」
労災(労災保険費用はセンターが負担)はOKでも社会保険や雇用保険がないのはきついと思います。このため、<働く形態は、「臨時的・短期的な就業(概ね月10日以内)又はその他軽易な業務(概ね週20時間を超えないもの)」の就業となります>という規制を設けています。
なお、以前のとおりの「請負契約」も存続しています。
この場合、
「高齢者にふさわしい臨時的、短期的、軽易な仕事に限る」
「お客様(=発注者)と就業する会員の間には雇用関係はありませんので、会員(働く高齢者)が直接、指揮命令を受けて仕事をすること、お客様の従業員と混在して就業することはできません」
「会員はセンターやお客様と雇用関係が発生しませんので、労災保険の適用はありません。従って、高齢者にとって危険、有害な仕事はお引き受けできません」
という規制があります。
なお、労災に変わるものとして、各センターでは、「会員が就業中ケガをした場合、または会員が就業中に誤って第三者の身体もしくは財物に損害を与えた場合は、「シルバー保険」が適用されます」というふうに、独自の保険を設けて、それを適用します。
さて、以上のような、「現在のシルバー人材センターの仕組み」を考慮したうえで、今回のマンションの管理人業務を考えてみると。
「週4日勤務 各日5時間ずつの労働時間」・・・週20時間以下はクリアしていますが、月に16日の勤務日数ですから、「10日以内」という規定を超過しています。また、なにより、臨時や短期ではなく、同じ人に長期間働かせるつもりのようですから、そもそも、シルバー人材センターでは扱ってはいけない案件だと言えます。
マンション管理業務で言えば、「夏に草刈をするので、シルバーさんに頼む」「側溝にたまった泥を掃除するのに、シルバーさんに頼む」という「単発的」なものならOKですが、継続して長期間勤務する「管理人業務」をシルバーさんに頼むというのは、違法の臭いがぷんぷんします。発注した管理組合も、請け負ったシルバー人材センターの両方とも、「あかんやろ」って思います。
でも、これを見てください。「この仕事って、長期的なものだろ?」って思える項目が羅列されています。
いいのかよ?
それに、請負業務の場合、マンション管理人の仕事は、おそらく「発注主(管理組合)から直接指揮を受けて仕事をする」だから、その時点で、違反だし。
全国のシルバー人材センターを束ねる、この協会のHPにも、
「会員は、臨時的かつ短期的な就業を条件にしていますので、ひとりの会員が長期にわたる就業はしておりません」
と書いてあります。とうことは、シルバー人材センターでマンション管理人業務を頼んだら、「一ヶ月ごとに別の管理人がやってくる」とかなるんでしょうか? おいおいおい、管理人って、その同じマンションに1年以上は勤務しないと、まともな仕事はできない難しい仕事ですよ。
実際、今回のマンションの管理人さんは、2016/11月から今日(2017/1/6)にいたるまで、同じ管理人さんだし。
なんか、あやしいなあ。
。ほんと、シルバーはグレーです。
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