管理人は超つらいよ
マンション管理最前線
「直出し」 直接発注に変更してコストダウン それで儲けるマンションコンサルタント |
マンション管理では、管理会社から「下請け会社」や「協力会社」に仕事を発注することがよくあります。
たとえば、「雑排水管清掃」(だいたい年に1回)なんかは、高圧洗浄機という特殊な機械が必要ですから、そういうものを持っている専門会社に発注しないとできません。「貯水槽清掃」なんかも同様です。
「消防設備点検」(年に2回)も専門の資格を持っていないとできない仕事ですから、それ専門の会社に任せます。「エレベータの保守管理」「機械式式駐車場の保守管理」「オートロックドアの保守管理」「宅配ロッカーの保守管理」なんてのもあります。また、「隣地境界部にあるフェンスが壊れてしまった」といった修繕工事も、そういうのができる会社に発注するのが普通です。
このように「別の会社に発注する場合」、商習慣として、「手数料を上乗せする」ということが一般的に行なわれています。わが社の場合はだいたい「10%」を乗せていますが、他の管理会社では、20%とか30%といった高額な手数料を乗せるところもあります。
さて、マンション管理士さんなどの「コンサルタント」たちは、「管理費用を大幅に削減します!」ということを商売にしている人が相変わらず多いです。まあ、たしかに、旧来の「管理会社に払う委託管理費用」というのは、「ぼったくり」と言われてもしょうがないくらい、いい加減な高額なものが多かったのは事実です。手数料3割なんていうのも、ほんとぼったくりです。ですから、コンサルが入って、そういうのを下げることは十分可能です。
この時、長期的な顧問契約ではなく、短期的に、コスト削減だけに集中した仕事をして、「削減した年間管理費用の半分をコンサル報酬としていただきます」なんていう「成果比例型」の契約をするマンション管理士がいます。
具体的に言うと、今まで「年間1500万円」だった管理費用を「年間1000万円」に下げさせた。差額の「500万円」の半額(=250万円)をコンサルタント料としていただきます。というものです。250万円というと高額なように思えますが、管理組合としたら、それでも、残り「250万円」は管理組合の利益のようなものですし、それ以後、毎年、500万円の利益があがるようなもので、それを考えると「だったらコンサルタント契約します。よろしくお願いします」となることでしょう。
コンサル側も、費用削減の仕事だけを半年間くらいやって、そのあとは「関係ない」「アフターフォローはない」という形態で、それで250万円だったら、効率のいい「儲かる仕事」と言えるでしょう。
さて、そのような「成果報酬型契約」を結んだ場合、削減額が大きいほど、そのコンサルタントの報酬が上がるわけです。であれば、そのコンサルは、「いかに多くの金額を削減するか?」ということに必死になるわけです。
その時に、一種の「禁じ手」とも言える方法が、業界用語で「直出し」と言われる、「管理会社を通さないで、管理組合が業者に直接発注する」というやり方です。
この「直接発注」については、過去に、このページでも書いております。ご参考に。
管理会社が受け取るはずの「1割〜3割の手数料」がなくなりますから、これはかなりのコストダウンになります。そして、ダウンすればコンサルタントの利益も増えるわけです。
「だったらいいんじゃないの?」って思うかもしれませんが、「管理会社からの発注ではなくなる」ということに起因する弊害がいろいろと発生します。そして、そういう弊害を、コンサルタントはちゃんと説明せずにいなくなってしまいます。
ここで、実際のよそのマンションでの例をご紹介します。
「雑排水管清掃を直出しにして、50万円節約したマンション」
今までの「管理会社の下請けの会社」をやめて、そのマンション管理士が紹介した業者に変わりました。以前は、「200室のマンションの清掃作業で、下請け業者に100万円を支払う」「管理会社が30万円の手数料を上乗せ」「合計130万円を管理組合に請求」という仕組みで、全体の「管理委託費」の中に組み込んでいました。それが、「管理委託費」の中から外に出して独立させ、「新しい契約業者に80万円を払う」(安くやる業者を探しました)という「直接、外に出す=直出し」という方法になり、管理組合としては、「管理費用が50万円下がった。うわ〜い」ってことになったわけです。(結果的には、25万円の成功報酬がコンサルタントの手に行きました)
しかし、新体制になって行なわれた、実際の「雑排水管清掃」は、その「実施率」が非常に落ちました。つまりは、「清掃した部屋の数が減った」ということなんです。「雑排水管清掃」という作業は、皆さんご存知のとおり、「実施率100%が望ましい」ものです。率が下がるのはいいことではありません。排水管の詰まりが発生し、大勢に迷惑がかかる事態が起きるかもしれません。
なんで、減ったのか? というと。それにはちゃんとした理由があります。
「直出し」にして、「管理会社の手数料収入がなくなった」ために、この「雑排水管清掃作業」には、管理会社がまったく関わらなくなりました。そりゃそうです、発注主は管理会社ではなく管理組合になりましたし、管理会社としても、一銭にもなりませんから。管理会社が何もしないということは、それまで管理会社がやってきた「仕事」をしなくなったということです。
具体的に言うと。
「日程を考えて決め、発注することをしなくなった」
雑排水管清掃というのは、林先生じゃないですが、「いつやるか?」というスケジュールがかなり大事です。例えば、小学校の子供も持つ家庭が多い場合、地元小学校の運動会開催日に雑排水管清掃をあてたら、「子供の応援に行くほうが大事だ。清掃には立ち会えない」ってことで留守にするでしょう。そういう「周辺地域のイベント日程」は避けたほうがいいです。行楽シーズンなんかも避けたほうがいいでしょう。今までは、そういう情報をフロントが管理人から引き出し、いろいろ考えて、「実施率が高くなるような日」を選定して日程を組みました。でも、管理組合からの直接発注になり、そういうことを考えられる役員がいませんでした。というか、実際のところは、実施業者が「この日程でいかがですか?」と一方的に言ってきたものを、「はい、わかりました。それでいいです」と受動的に決めてしまった日程になってしまったのです。
その日程が、「行楽シ−ズン」の「金土日」の連続三日間でした。今までは、「日曜日」「翌週の日曜日」「翌々週の日曜日」という3日間でしたが、連続三日間でやるほうがなにかと手間もかからないので、業者側がその日程にしたがったのです。
こうなると実施率は当然下がります。特に、平日である「金曜日」の実施率は、従来の80%に対して、30%にまで下がりました。
ちなみに、「発注するのも管理組合の仕事」となってしまったために、その翌年の排水管清掃は、管理組合のほうで「発注するのを忘れてしまった」という失態をおかしました。これも、「管理組合になんでもまかせておけば大丈夫」という思想によるものでしょう。「1年たつと役員は総入れ替え」という制度では引継ぎをちゃんとしないと、こういうことが起き易いです。そして、忘れたのに気づいて、あわてて、いつもの3ケ月後に発注したのですが、これが、その地域の夏祭り真っ盛りの日程でして、これまた、実施率が下がったそうです。「地域イベントの日は避ける」なんてことまで考えられなかったのです。まあ、当然でしょう。
「事前告知が弱くなった」
管理会社が発注していた時は、なるべく早く日程を決めて、遅くとも、実施日の3ケ月前には住民に告知をしていました。早めに告知することで、「この日は旅行とかの計画は立てないで、在室して下さい」というお願いができ、実施率を高くすることが可能です。それなのに、新体制では、「事前告知をする」という発想すら、管理組合の中にはなく、告知はなんと2週間前でした。これでは、すでに、その日に旅行に行くとか、みなさん計画を立ててしまっています。
その告知方法にしても、あわてて業者に依頼して「実施予告の掲示をするから、その紙を作って送ってくれ」と言っただけなので、「文字の小さい」「色もイラストもない」「在室を熱心の要望する気もない」、ちっとも目立たない掲示物を作ってきました。
(※実施業者は、「一部屋実施ごとにいくら」という報酬ではなく、「マンション1棟につきいくら」という契約なので、彼らの本音としては、むしろ「留守宅が多いほうが仕事の量が少なくて楽だ」というもので、業者自身が実施率を高めようとは思わないのです)
このような「目立たない掲示物だけ」という告知で、従来のように、「全室のポストに投函」ということもしなかったために、住民の認知度はきわめて低く、「雑排水管清掃があるんだ」ってことすらわからなかった住民もかなりいたようで、いっそう、実施率の低下に拍車をかけました。
(私の場合は、あらかじめ告知をしても、「すぐに忘れてしまうだろうから」ということで、実施日の一週間前になると、新しく別の目立つ掲示物を作って再告知したり、前日には、掲示板以外にもエレベーターの中とか、いろんな場所に告知物を貼って、絶対に見てもらえるように努力します)
業者側は「掲示板に貼る1枚の予告の紙を作るまでがこっちの仕事で、全戸配布資料を作るなんて事は聞いていない」と断ったそうです。
「個別対応もしなかった」
実施率を100%に近づけようとする場合、大事なことがあります。
@「空室の部屋をどうするか?」
A「不実施の常習犯をどうするか?」
これが大切です。実際には、「現在売り出し中で、まだ売れていないために、空室になっている部屋」については、その「区分所有者」(別の場所に住んでいる)に手紙を書いたり電話をかけたりして、「その日はなんとか部屋に行って作業に立ち会ってください」とお願いします。「居住者が認知症になって、施設に移ったため、今は空室」なんていう部屋もあります。これも家族に電話をして、「来て下さいね」と頼みます。
また、まともな管理会社であれば、「過去の実施部屋一覧表」というものを作ってあるため、「過去2年連続で不実施だった部屋」に関しては「最重点」として、配布物を配るだけではなく、管理人がその部屋に行って、直接、「来週は清掃です。いてくださいね」といったお願いをします。その際は、「何年も清掃していない排水管はこうなるんですよ」という「証拠写真」をいっしょに持参して見せて、「げげ! こんなになっちゃうの!」って驚かせたりもします。
こういう「準備作業」って、ものすごく大変です。でも、実施率を高めるためにやっています。
このマンションでは、こういう対応策をやる役員もおらず、また、たとえそういう意欲があったとしても、「どこの部屋が空室か?」「どこの部屋が常習犯か?」ということは、管理会社じゃないとわかりにくかったりします。
「事前準備もしなかった」
作業日当日は大きな「高圧洗浄車両」というのが敷地内に入ってきます。この車は、作業の効率や、水道栓からの位置などを考慮した最適の場所というのがあります。そこがたまたま、住民の駐車場だったりすると、事前に、その利用者にお願いして、「その日だけは外部のコインパーキングに移動してもらえませんか? 費用はうちで立て替えます」という根回しをしないといけません。これをしなかったために、そのマンションでは当日混乱したそうです。
また、事前告知をすると、「うちはその日は無理だな。翌日にしてもらえないか?」「その日は出かけるので、朝一番にうちに来てもらえないか?」といった要望が必ず出ます。業者との間に入って、そういう調整をするのも、管理会社の役目ですが、それを何もしなかったので、実施率がますます下がりましたし、「去年は要請できたのに、なんで今年は融通が利かないんだ」と怒った住民もいたそうです。
「当日対応もしなかった」
雑排水管清掃は通常は在室率の高い「土日祝」などの休日に行ないます。管理人は通常は休みですが、このために休日出勤することが多いです。当日出勤して、まずは実施業者の車を置く場所を案内したりします。また、当日の朝になって、「うちは午後3時くらいに来てくれないか?」なんて言い出す住民もいますから、それの調整もしないといけません。また、これは私だけかもしれませんが、スムーズに作業が出来るよう、かつ、作業を待っている住民の心境を楽にするために、103号室の部屋へ先回りして、「今、101の部屋をやってますから、おたくは10分後くらいです。準備をして待っていてください」とインターホンでしゃべって案内します。この「10分」ってすごく大事で、「今、カップ麺にお湯を入れようと思っていたけど、やめにしよう」とか、「トイレに行くのは作業が終わってからにしよう」とか、この直前連絡によって、心に大きな余裕ができるわけです。
それをしないと、在室しているのに、「今、トイレの中だから玄関ドアを開けられない」とか「今、料理をしているから、うちはあとまわしにしてよ」なんてことが起きるのです。事前に、「10時13分に行きますから」とか予告できませんからねえ。特に留守宅が多い場合は、予定と時間が大きく狂いますから。
そのようなわけで、実施率が大きく下がったのでした。これではたとえ総額で「50万円」の減額に成功をしたとしても、実施部屋の数が大きく減少したのですから、「洗浄を実施した部屋1室あたりの清掃コスト」は逆に値上がりしたといえるかもしれません。
さらに、組合で全部やるようになってから、「過去に不在でできなかった部屋のリストが作れなくなった」とか、このように管理会社が手数料をとれなくなったことで発生する弊害はものすごく大きなものだと思います。
こういうのは「消防設備点検」なども同じであり、「ベランダの避難梯子の点検の実施率が大きく下がった」なんてことも起きますし、住民の部屋で引越しの予定があるのをわかっているのに、作業用の車両がたくさん敷地内に入ってくる工事を、その日にあててしまい混乱が起きる、なんてこともあります。。
「直出し」は、「安く出来てすごくいいこと」とコンサルタントは自分の儲けを増やすために甘いことを言うかもしれませんが、「手数料を払わない」ということは、このように「管理会社の力を借りることができなくなる」という「マイナス面もある」っことを、よく理解してください。
安易なコスト削減には必ず「落とし穴」がありますよ。