管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

北原 照久さん曰く、「人間、GNOが大事」
親が死んでも教えない子供たち







 

さっき、こんな感じの車がマンション前に横付けされ、中から作業員が数名出てきて、マンション内に入っていきました。私の目の前を、私を無視して入っていくので、「すいませ〜ん。何のご用ですか?」と呼び止めました。(入館の挨拶もできないやつばっかりの世の中になりました。大きく「必ず管理室に立ち寄って入館の手続きをとってください」という貼紙があるんですけどね)

話を聞いてみると、「411号室の森さん(仮名)の部屋の中の荷物を全部処分する」らしく、それで来た、「廃品処理業者」でした。

「え? でも、この部屋の森さんって、今、福祉施設に入っているはずだけど、いいのかな? 俺、そこの家族からも何も聞いてないよ」
「でも、仕事なんで。鍵もちゃんと預かってますので、やらせていただきます」

鍵も持っているし、まあ、ちゃんとした業者のようなので、そのまま、荷物を出すのを見守っておりました。

さて、この411号室の部屋の主のことですが、長い話になりますが、説明をしないと読者の皆さんは理解できないでしょう。

++++++++ long time ago in a galaxy far far away

この部屋には以前「高齢女性一人」が住んでおりました。普通に元気な女性でした。しかし、「認知症」を発症し、それが急速に進んだようで、異常行動を繰り返すようになりました。

■「部屋に強盗が入って、お金を奪って逃げた」と警察に通報。大騒ぎに。
最初、この人はパッと見には認知症には見えず、話す内容も、一瞬まともに聞こえたため、私も警察も真面目に「強盗事件」だと思い、いろいろと対応し大変でした。しかし、実際は幻覚でした。

■「トイレに歯ブラシとか歯磨きチューブとかを流して、トイレを詰まらせた」
私が水道屋を呼んで修理させました。

他にもいろいろな問題行動を起こし、それでようやく「認知症ではないか?」「これは家族に連絡しないといけないのでは?」とこっちも認識し、家族を探しますが、管理組合で保有している名簿には載ってません。連絡が取れません。本人に、「お子さんとか親戚とかいないんですか?」と聞いても、「うちの息子は田中角栄だ」とか言い出し、意味不明です。ある日、この人がガス漏れ警報機を作動させた際に、部屋の中に入ったので、悪いんですが勝手に部屋の中の「住所録」的なものを探して、同じ苗字の人を見つけ、そこから、「息子さんの連絡先」にたどりつきました。

住所は同じ市内で、そんなに遠くではありません。さっそく連絡を取りましたが、「仕事が忙しいので」とか言い訳をして、なかなか取り合ってくれません。「妹のほうにお願いします」と逃げられ、今度は妹さん(これも同じ市内)に電話をします。でも、「今年は息子が受験なので〜」とか言って、同様にまともに相手にしてくれません。
異常行動がエスカレートしてきて、周囲の住民にも迷惑をかける状態だったので、管理組合側に「なんとかしないと」と伝えましたが、毎度のことで、理事長はまったく動きません。しょうがないので、私のほうで、役所にかけあいます。役所のほうはわりとまともに取り合ってくれて、「なんとかしましょう」「うちのほうからもお子さんに連絡してみます」との好回答を得ました。

相変わらず、家族からは何の動きもなかったのですが、ある日、森さんがボヤを起こし、消防車が数台やってくる事態になり、「これはもうまずい。限界だ」ってレベルになり、そこから役所が迅速に動いてくれて、その数ヵ月後には、老人保護施設に入所が決まり、引っ越していき、マンションとしては「一安心」ということになりました。

管理人としても、1年近く、この森さんのおかげで、面倒な仕事ばっかりやらされ、へとへとでしたから、肩の荷が下りました。
しかし、子供2人からは、「ご迷惑をおかけしました」の一言の電話すらありませんでした。近くに住んでいるんですから、普通の神経があったら、挨拶に来訪すると思いますがねえ。おそらく、引越しの際に、身の回り物とかまとめて施設のほうに移動させたんだから、1〜2回はどっちかの子供がここに来てたはずだし・・・・

そして、その後、411の部屋は、住む人がなく、空室のまま、数年が過ぎたわけです。空室とは言っても「年に一回の雑排水管洗浄」とか「半年に一回のベランダにある避難梯子の点検」とか「定期総会の委任状提出」とか、いろいろあるわけで、そのたびに、お子さんに、「在室してくれませんか?」「お母さんの代わりに委任状出して下さい」などお願いしましたが、これもしかとされました。
特に、この時期には「大規模修繕工事」がありましたので、「連絡の取れない空室がある」というのは非常に面倒なことになり、ほんと往生しました。
親子の間になにか問題があったのかもしれませんが、ここまで、親の面倒を見ない子供というのも珍しいと思いました。ちなみに、本当かどうか知りませんが、息子さんの家は、「あたしのお金で建てたのよ」とのことです。

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さて、話を「現在」に戻しますが、施設にいる森さんになにがあったのか?、それを知る必要があります。お子さん二人に電話をかけましたが、息子は「留守電」で返信なし、娘は「この番号は現在使われていません」とのこと。役所の「施設入所の際に尽力してくれた担当者」に連絡すると、「施設に入ってしまうと、うちの担当から外れるので、その後の状況は知らないんですよ」とのこと。困りました。

しかし、うまい具合に、その同じ施設に自分の親を入所させたという人が当マンションの住民の中にいることがわかり、その人に頼んで「森さん」の消息を調べてみることにしました。




それでわかりました。4ケ月前に亡くなっていました。まあ、ある程度は予測していたので、死んだことには驚きませんが、一切連絡をしてこない子供には驚きました。
普通なら、こういう場合、管理費等を引き落とししている銀行口座が凍結されて、それで発覚することがあるのですが、会社の経理に確認したところ、「今月分もちゃんと引き落としされてますよ」とのこと。どうやら、まだ凍結されてなかったようです。(凍結の仕組みってよくわかりません)

まあ、私が考えるに、「死んだので、部屋を処分して現金化しよう。それには荷物が邪魔だから捨てよう」ということで子供が処理業者を呼んだのでしょう。もしくは、仲介に入った不動産業者とかが手配したのかもしれません。(不動産業者もいい加減だから、ちゃんと連絡してこない)

どっちにしろ、マンション管理組合としては、区分所有者の消息はちゃんと掴んでおかないといけないし、今後相続とか売買になれば、また、所有権の異動が発生するわけで、そのへんの事務処理もあるわけで、これからもいろいろと大変そうだなあ・・・・
親が死んでも、まったく連絡して来ない子供って、ほんと信じられないし、なにより、こっちの本音とすれば「迷惑な奴だ」ってことです。

私にしたら、認知症発症から施設に入るまでの間に、森さんのことでどれだけの労力を費やしたか・・・ 「生前はお世話になりました」の一言くらいあってしかるべきじゃないのかね????? あの苦労、労賃に換算したら、30万円くらいにはなるはずだよ。


「なんでも鑑定団」「おもちゃの博物館」で有名な、コレクターの北原照久さんは、「人間、GNOが大事」と言っておられます。
G=義理
N=人情
O=恩返し

だそうです。はなはだ同感です。でも、現実世界では「死語」なのかもしれません。トホホ



2017/5