管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

毎年変わる「理事長職」
個人情報はどう保護するのか?





2017/5


 ★今回の記事は、私、トホホ管理人の個人的意見の意味合いの強い記述になります。法律の専門家でもない人間ですし、頭も悪い私の意見です。あくまでも「参考」ということでお読み下さい。法的なことを正確に知りたい人は、弁護士やマンション管理士さんにご相談下さい。

 さきほど、マンションの外に用事があり、町中を歩いていたら、年老いたおばあさんが、はあはあ言いながら、「すまんがのお、おたく、この近くで、桑子さんという家を知らんかのお?」と聞いてきました。(※仮名です)
「桑子さん???  ああ、町内会の副会長の桑子さんね。この前、娘さんが、どこかのアナウンサーの男性と結婚したばかりの・・・・。桑子さんならねえ、あそこの角を左に曲がって、それから・・・・ う〜ん、説明がしにくいなあ。めんどくさいから、いっしょに行きましょう。案内しますから」と、そのおばあちゃんを引き連れ、桑子さんの家まで案内しました。副会長さんということで、「この町の有名人の一人」という面識があったので、幸運でした。
その道すがら、「実はのお、さっき、郵便配達のお兄さんにも聞いたんだが、”個人情報がなんたら”ってことで、教えてくれなかったんじゃ。なんちゅう、時代なのかのお? もっと、年寄りにやさしてくれてもいいと思うのじゃが」なんてことを聞きました。「ああ、そうだったんですか。でも、郵便屋さんを責めないでくださいよ。今は、そういう法律があって、むやみに、他人の家を教えたりできないんですよ。彼も、規則を守っただけであり、年寄りに意地悪したわけじゃないんで・・・」と説明をしました。

そう、今は、郵便配達や宅急便の配達人など、「地域の住民のことをよく知っているはず」の人に聞いても、教えてくれないんです。「トホホマンションって、どこかね?」っていう、建物の場所ならOKなんですが、「@@さんの家って、どこかね?」っていう質問には答えられないんだろうです。変な世の中になりました。

 さて、そんなこともあり、これから、個人情報保護法に関することを書きます。

 以前の個人情報保護法では、取り扱う個人の数が「5千件以上」が対象であったため、よっぽどの超巨大団地でもない限り、普通のマンションは、「法律の対象外」とされていたため、法的なことは気にしなくてもよかったのです。(もちろん、一般社会常識としての、保護は必要です)
しかし、2015年制定の「改正個人情報保護法」により、2017年5月30日からは、マンションの管理組合も、法律の対象となるそうです。(これを書いているのは、17/5/12です) 
今、ネットで検索すると、「マンション管理組合は法律の対象外です」という記述が散見されますが、これは「以前の法律にあてはめたもの」の情報が残っているためで、今現在の正確な情報ではないため、注意が必要です。(ネットって、便利なようでも、過去の古い情報がずっと残り続けるという欠点があって、困ったもんです。)
おそらく、「きちんとした管理会社」や「きちんとした管理組合」では、今、法律に基づいた適切な個人情報の取扱についての「ルール」を必死に策定しているのではないでしょうか? いや、きちんとしたところだったら、とっくの昔に、作ってるでしょうから、今、慌てて作っているのは「きちんとしてないけど、ブラックってほどでもない」という管理会社かもしれません。

さて、当社、「株式会社飯加減」でも、そのあたりの事情なのか、この前、こんな通達が来ました。



「定期総会が開催されて、理事長が別の人に変わる際は、旧理事長が所有していた個人情報をきちんと消去すること」


というものです。これが「実際に、具体的には何をするの?」って話なんですが、それに関する記述はなく、担当フロントも、上の方から明確な指示はもらってないそうで。(さすが三流企業)
とりあえずは、理事長の手元にある
「組合員一覧表」「居住者一覧表」「緊急事態発生時連絡先一覧表(勤務先とか親戚とかが書いてある)」を始末するということらしいです。

こういう「表」というのは、従来からなにかと問題になっておりまして。特に、東日本大震災以降、「緊急連絡先リスト」を作る管理組合は増えてますから、「居住者だけでなく、親戚の情報も組合の手に渡る」ということから、「管理会社や管理組合はちゃんと情報管理できるのか?」と疑問を呈する人もたくさんいました。
「紙の表」であれ、「電磁的なデータ」であれ、”管理者”たる理事長であれば、「理事長が情報の所有責任者本人」ですから、簡単にコピーができます。理事長が悪意を持って、そのコピーを保管すれば、自分の理事長の任期が終了しても、その後も情報を所有することは簡単で、悪用しようと思えば容易に悪用できるでしょう。(中古物件取扱不動産業者等、お金を払っても欲しがる業者はたくさんいます)

※たまに、「うちのマンションは、一覧表などの書類を、管理会社が作っており、それを、個人情報保護を名目に、理事長に渡してくれないので困っている」なんてことをいう理事長さんがいますが、これはおかしな話です。マンションの「管理者」はあくまでも「理事長」(法人化している組合では理事長個人にはなりませんが)であり、管理会社は、法的な「管理者」にはなりません。管理会社は、「一覧表の作成」を請け負った、「作成業務下請け業者」にすぎないわけで、その表をどうするかは「発注者」である管理組合で決めるべきことで、管理会社が「渡せません」なんて言うことは、「この、すっとこどっこい! おとといきやがれ!ってな話です。

特に、当マンションのように、「管理費等滞納者が多い」ところでは、「なんで滞納するのか?」という話になり、「勤務先が倒産して、今失業している」「息子が大学に通っているので教育費がかかる」「夫がギャンブル癖があり、お金がない」といった、極めて濃厚なプライバシーが、理事長の手に渡ります。
私の場合、知り得た情報で、「他の人には言わないで下さい」とお願いされたものでない限り、「理事長だけ」には、ほとんどすべてを伝えています。その場合は、「理事長にだけ見せる報告書」という体裁のものを使用し、注意書きで、「他の役員には教えないで下さい」と適宜書き加え、「これは理事長だけなんです」という釘を刺しています。それでも、アホな理事長だと、理事会の席上で、「これ、管理人さんからの報告書なんだけど・・・」と言って、プライバシー満載の書類を、コピーして全出席役員に配布したりするから、困ったもんです。
本当は、こういう「濃い個人情報」というのは、私としては、書面ではなく「口頭」で、「これ、内緒の話なんですが実は・・・」というふうに、証拠が残らないように伝えたいんですが、ここ数年、ずっと、「昼間はサラリーマン」「土曜日も管理室に顔をだすことはない」「とにかく無関心で何もする気がない」という理事長が続いており、書面で伝えるしかないという状況がつらいです。

いっぽう、マンションによっては、理事会の席上で、管理費滞納の問題を議論する時に、出席役員に対して、「部屋番号」も明示せず、ただの「人数」「金額」しか報告しないところもありますが、「それもどうかな?」と私は思います。誰が滞納しているかも知らないのでは、滞納解消への施策を熱心にやる気も起きないと思います。

さて、そうやって考えると、巨大マンションでは、何百〜千人以上もの「個人情報」が理事長のもとに集まります。そして、たいていの管理組合では、「1年で理事長が変わる」制度になっていますから、毎年毎年、「A理事長」「B理事長」「C理事長」・・・・・と、「全住民の情報を持っている人」が増えていくのです。小さなマンションでは、情報量は少ないですが、築20年経過したら、全住民が輪番で理事長職を経験し、「全住民が全情報を持っている」なんてことにもなります。マンションの中に、「井上公造」みたいな、「なんでも知ってるぞ」的な人がいっぱいいるのって、なんか気味悪いです。

こうやって考えると、「責任者が毎年変わる」という「管理組合」という組織は、個人情報の管理上、非常に「やりにくい」組織ではないかと思うわけです。

そんなわけで、当マンションの今期総会での、管理会社の行動なのですが、総会後の「第一回理事会」の席上で、旧理事長が持っている「一覧表」をその場で提出してもらい、他の役員の目の前で、(当マンションにはシュレッダーがないので) ハサミで切り刻んで廃棄するのを見せようかと、フロント君は思っています。そして、新理事長には、新たに改訂した最新版の表を「これは理事長にだけ渡します」と言いながら、手渡しします。

そんなふうにしようかと計画しているようですが、私が思うに、「そんなことしたって、コピーとかとってたら意味ねえじゃん!」とか一部役員から言われて、「面倒だからそんなことしなくていいよ」ってことになり、来年は、そういう儀式は廃止ってことになるだろうなあ。

でも、管理会社としては、「そういう施策を行なっています」という、外形を整えることは必要でしょうね。「管理会社はちゃんとアドバイスしたが、断ったのは管理組合なんです」って、証拠を残しておかないと、あとあと、管理会社が責任を追及されることもあるでしょうから。

個人情報の管理が厳しいマンションでは、管理室のテーブルの上に「居住者一覧表」を置いておくのも禁止されていたりします。これだと「管理人の記憶力が乏しい」「戸数が多い」場合、「井上さんって何号室だっけ?」っていう質問が来た時に、管理人の頭に入ってなくて、かつ、その井上さんが、郵便受けにも名前を出していない場合、「あ、すいません。今、理事長に許可を得て、この金庫の鍵をあけて、中に入っている住民一覧表を取り出して調べますので、20分ほどお待ちいただけますか?」なんてことをするわけで。これも、どうかな? って思います。

私も含めて、ベテラン管理人になると、居住者一覧表をコンパクトサイズに作り直して、胸のポケットの中に畳んで入れて、常時携帯して仕事をしている人が多いのですが、これも厳密に言うと、「鍵のかかるところに保管しなさい」っていう「禁止行為」にあたるため、厳しい管理会社のマンションでは、「それもやめなさい」と言われるそうです。

大変だなあ。トホホ・・・

しかしまあ、話を戻しますが、現行の「理事長職の選抜方法」である「じゃんけんで負けた人がなる」という方法では、どんな人が理事長になるか、「資格」などはまったくないわけで、妻夫木聡じゃないですが、どんな「悪人」がなるかわからないのですから、そういう人に、濃密な個人情報を任せることは良くないと思います。こういう面からも、理事長を決める際は、「ちゃんとした人」にしてもらいたいものです。



2017/5