管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

湘南ハイム裁判の判決を考える
修繕積立金で専有部分を工事できるか??






2018/1


 
裁判ものといえば、この前、「理事長を理事会で解任できるか?」っていう問題が取り上げられていましたが、今回は、「大規模修繕」のお話です。長い記事になると思います。ご了解ください。

はるぶーさんのツイッターからの流れで表題の裁判について知ることになり、いろいろと調べてみました。

まずは、はるぶーさんからがリンクを貼ってくれた、訴えられた側の「湘南ハイム管理組合」さんの顧問をしている、マンション管理士「重松 秀士」さんのホームページから。

重松さんは、業界内では有名人であり、私も「立派な人だな」と思うこともありますが、「あの悪名高きプロナーズという団体の設立メンバー」「同じく悪名高きマンション管理員検定協会のことをちゃんと批判しないで、日下部さんと仲良くシンポジウムとかやってる」ってこともあって、個人的には「眉唾野郎じゃねえの?」と思っております。

重松さんのHPでは、「最高裁で判決が出た」「当該管理組合から公開OKの許諾を得た」ということで、今回の裁判の詳細が「修繕積立金を専有部分の改修に使用した事例の最高裁決定について」という記事になり、紹介されています。

http://www.mansion-support.com/blog/2018/01/post_339.php

「公開OK」のわりには、「どこのマンションか全然わからない」「”戸数は200戸弱”というぼかした表現」なのが意味がわかりませんが、この記事を素直に読むと・・・・

「別にいいんじゃないの? これだけ古いんだから、専用部分も含めて、せ〜のって一気に工事をしても。管理なんてのは、マンションごとに違っていいんだから、そのマンションでそういう決定をしたなら、それでいいじゃん」って思いますし。
「こんなことで、わざわざ裁判を起こすなんて、原告側の人間はアホじゃないの?」「こんなことに、あの有名な丸山英気さんが関わってるのか? 国交省にかかわるような奴だから、現場のことは知らない、アホインテリだな」とも思ってしまいます。
さらに、「こういう案件こそ、マンション管理士が関わってやるべきことだよなあ。がんばったね。裁判とか起こされて大変だったね」とねぎらいの言葉をかけたくなるくらいです。


なんてふうに、アホな私は思ってしまうわけですが、こういうのは、片方の意見を一方的に聞くだけじゃいけません。

でもって、訴えた側の意見も知りたくて、調べてみると、こんなのを発見。

「集合住宅管理新聞のホームページ」

最高裁判決が出る前の記事ですが、この筆者は、ほぼ、原告側の意見に賛同しており、管理組合側を批判し、「法務省民事局の区分所有法担当参事官も混乱することであろう。横浜地裁の大竹優子裁判長の罪は重い」と書くくらいで、バッサリと断罪しています。

でも、こっちの記事のほうが、名前も出ているし、ちゃんと「175戸」と書かれているし、お金のことも具体的で、わかりやすいです。それに、重松さんの記述には出てこない項目も書いています。

両者を見ていて思ったのは、重松さんのほうは、もともと建築関係出身ということもあり、建物や設備に関する記事は詳細で、「法律」とか「お金」に関してはおおざっぱだなという印象であり、逆に、集合住宅管理新聞さんのほうは、建物関係はあまり詳しくなく、経済的なこととか法律にはこだわっているなあ、ってこと。

こういう記事も、書く人の出自や性格が出るもんなんですねえ。
(でも、「耐震診断」という重要なことを、重松さんはあえて隠しているのが、ちょっと気になります)

さて、「集合住宅管理新聞」さんの記事を読んでいて、気になったことがありました。

松永さんは、管理組合側から「人格欠損の人物」という罵詈雑言を投げつけられて孤立したので、訴訟手段に訴えざるを得なかったものである。


これ、ほんとだったら、あかんでしょ?
原告の松永さんは、裁判まで起こすのはやりすぎかもしれないけど、彼の主張する「各戸専有部分の浴槽、給湯器、洗面化粧台、便器の交換などは、管理組合の業務として行うことはできず」というのは、我々、マンション管理業界の人間からすると、「至極真っ当な正論」です。
それに対して「人格欠損」はいかんと思います。
私も接客商売だし、「仕事として相手を注意・指導しないといけない」という、つらい業務をしているわけですが、こちら側が、法令や管理規約や行政のルールに従って、正しいことを言っても、言い訳や反論ばかりして、自分の非を認めず、最後には「その言い方が気に入らないんだよ!」っていう、めちゃくちゃな批判をしてきます。
こうなると、「理論」なんか関係なくて「感情」とか、その人の性格に起因するものだけになってしまいます。
人格攻撃なんかされたら、「大規模修繕工事のことなんか、もう、どうでもいい。とにかく、管理組合に対する恨みを晴らす」って気持ちになって裁判を起こしたのかもしれません。

今回の管理組合さんの行なった「専有部分の設備も管理組合の修繕積立金で行う」大規模修繕は、「筋」論からすると、「イレギュラー」なことです。でも、管理上は必要になることであり、そのことには私は賛成ですが、こういうイレギュラーなことをするときは、築地市場問題じゃないですが、「懇切丁寧な説明が必要」ということです。
これは詳細がわからないので、なんとも言えませんが、こういう「説得」こそ、マンション管理士の腕の見せ所であり、「結局、説得できず、訴訟を起こされた」ってことは、重松管理士の「腕」が三流だったってことになります。

それと、今回の工事で、最も注目すべきことは、「すでに自費できれいに設備を新品に交換済みの人たちとの不公平感の是正」ということだと思いますが、重松さんもそのことに触れてはいるものの、わりとあっさりと、「今回の工事に伴うオプション工事(個人負担)費用の減額をすることで決定しました」と片付けています。
しかし、一番、肝になることを、こんな簡単な一文で片付けていいんでしょうか?


さて、こうやって、「原告側」「被告側」双方の意見を読んだわけですが、こういう「争いもの」は、立行司がセクハラ変態野郎だった相撲協会じゃないですが、「第三者の意見を聞くべき」なものでして、そういうのはないかな? また探してみました。すると、こんなのを発見。

住人の想いが詰まった湘南ハイムで豊かな暮らし。築45年、老若男女が大切に住み継ぎしっかり守られるマンションとは!?

リノベーション関係のHPみたいです。湘南ハイムさんに関して、10数ページの記事を公開しています。
これを読むと、このマンションの性格みたいなのがわかってきました。

「湘南の、こだわりをもった、ちょっとハイソな人たちが住んでいる感じ」
「団地式で4棟に分かれている」

こういうところって、管理組合が大変そうです。
たしかに合意形成とか難しそうな人たちが多く住んでいる感じがします。
それに「建物が分かれている」ってのも重要なことであり、うちのマンションなんか、東棟と西棟は、「1階部分でちゃんとつながっている、ひとつの建物」なのに、棟が異なると、お互いに向こうの棟のことには無関心で、棟ごとに意見が偏ったり、いっしょにやるのはいろいろと大変なんです。

重松さんは、建築設備関係が好きそうですが、私は、マンション管理の肝は「気持ち」だと思っていますから、そういう「心理面」を重要視します。マンション管理って、結局は「意識形成」が仕事ですから、根幹は「気持ち」なんです。
「頭ではわかっているが、なんか、納得できない」ってこととか、「それが最終的にはみんなのためになるんだろうが、法律に照らし合わせると厳密には違法ではないか?」を納得させるのが大変なんです。

そういう点からも、この「湘南ハイツ」の管理組合さんは大変だったと思います。

それに、マンション管理士というのは、なんでもうまくやってくれそうに思えますが、基本的に「法令違反」のことにOKは出しません。
話がそれて申し訳ないですが、例えば、「自転車置き場が足らない」という問題に対して、「あそこに空き地があるんだから、屋根付き駐輪場を新設すればいいじゃないか?」って意見が出た際に、役員全員が「それがいい」と賛同しても、「建蔽率や容積率が満杯なので新設はできません」と、正しいことを言って、その計画を止めないといけません。
車の速度違反と同じで、「速度違反しないと交通の流れを乱してしまう」って場合でも、マンション管理士は、「時速40キロを厳守してください」と言わないといけないのです。立場上。

これが、私みたいにいい加減な人間ですと、「法令違反だとしても、それが摘発されることなんかないですよ。やっちゃえ、日産!」みたいなことを言って、現実的な対応をしてしまいます。

なので、「マンション管理士だから、必ず、住民の役に立つことをやってくれる」とは思わないほうがいいです。


さて、リノベさんのHPに話を戻しますが、この記事の中で気になったことは。

まさに「老若男女」が共同生活している湘南ハイムでは、他のどんなマンションにも例を見ない程の共用部専有部含めた大規模改修が今行われています。各部屋360万円もかけ修繕するマンションは私たちも初めて出会いました!!こんな事ができたのも最初から住まわれていたご高齢の住人が管理費修繕費をきっちり払い、潤沢な資金が貯まっていたからこそ。

いいのかな? こういう「嘘」を書いてしまって。

このマンションでは、資金に関しては、正しくは、

工事資金は、管理組合の修繕積立金が3億4千万円、住宅金融支援機構の共用部分リフォームローンから10年返済の約束で2億6千万円(1戸平均150万円)を借入した。

となっています。つまり、工事費用の約4割は「借金」です。「潤沢な資金が貯まっていたから」は虚偽といえます。まあ、35億!、もとい、3億4千万貯金があったのは、「潤沢な資金」といえるかもしれませんけど。
「一世帯あたり、150万円の借金を10年で返済」って、利息入れたら、「1年で15万円以上の返済」ですから、けっこうな負担です。貯金が「20キロ走った出川哲朗の電動バイク」みたいに、すっからかんになった状態で、「この次の大規模修繕は大丈夫なのかな?」 って心配になります。

とにかく、こういう楽観的なウソを平気で書いて、「お金かけてリノベーションしましょう」とかあおるのって、詐欺じゃないでしょうか? このマンションでは、近い将来、「修繕積立金の値上げ」とか「一時徴収」なんかがあるかもしれないのに。だから、リノベ業者って、嫌いです。

ってことで、今度は不動産物件情報を調べます。

すると、「69平米」の部屋の、管理費は「12,000円」 修繕積立金は「18,650円」 全部で3万円ちょっとです。
やはり、これくらいは必要ですね。まあまあ妥当な金額だと思います。

さらに物件情報を読み解くと、「エレベーターがない」ってことがわかりました。4階でエレベーターなしは、高齢住民にも配達の人にも管理人にも清掃員にも大変です。でも、維持管理費が莫大にかかる、エレベーターがないってことは、管理組合の財政にはプラスとなります。
駐車場は「屋根付き&平置き」で無料です。無料はうれしいですが、平置きなので最低限の維持管理費用しかかからないにしても、無料なのは、管理組合財政にとってはしんどいところです。
これで、エレベーターがないことの財政的有利さが帳消しになります。

それから、なんと、敷地内に「プール」がありました。温水プールではないから、燃料費とかはかかりませんが、この維持管理もそれなりに大変かもしれません。プール開きの前には、住民みんなで「プールの大掃除」とかするのでしょうか? コミュニティ形成にはいいかもしれません。

最初、「175世帯で管理費が12000円」はちょっと高いかなあと思いましたが、地図を見ると、けっこう敷地が広いですし、4棟に分かれていることを考えると、管理人1名では清掃は無理で、植栽も多そうだし、専任の常勤清掃員が必要だと思われます。12000円は必要かもしれません。

最近の物件情報は写真も豊富なので、実物の写真を見れると、我々もイメージが湧いてきて、冷静に詳細な分析が可能になります。

それから「ペット可」になってます。築年を考えると、「当初はペット不可だったが、途中からOKになった」と推測されます。ペットに関するいざこざもいろいろありそうな気がします。
また、一階住居の「専用庭」がかなり広いです。専用庭というのも、マンション管理上、いろいろと問題になる設備なんで、管理人さんは大変そうだなあ・・・・


とにかく、再度言いますが、マンションの問題って、そのマンションごとに異なるものですから、最低でも、これくらい調べてからじゃないと分析はできません。

私としては、「すでに大掛かりなリノベをしてしまった部屋」に対する「不公平感の是正」の具体策をもっと詳しく知りたいなあ。そこが一番の問題だと思われます。

まあ、でも、基本的には、専有部分内の設備もいっしょに工事してしまうのは、賛成です。

バラバラにやられると、管理人も本当に大変ですからね。

こういう案件って、「管理人サイドの考え方」で分析する人が全然いないのが寂しいです。

以上、とりとめのない分析で失礼しました。すいません。


(しかしさあ、175って、200弱っていうのかなあ?)