管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

「孤独死」は、事故物件なのか?
告知義務は?

2021/6




正確な定義はないらしい



「マンション内での孤独死」。今まで何回経験したことでしょう。

「亡くなってから1週間後に発見」
「2ケ月後に発見」
「翌日発見」
「発見した時に心肺蘇生して、いったん、いきかえらせたが、病院搬送後の4日後に死亡」
いろいろです。

また、
「部屋の中で首吊」
「投身自殺」
の経験もあります。投身なんか複数回で、「よそから来た、完全に無関係の人が勝手にマンション内に入って身を投げた」なんていう超迷惑なものも経験しています。

それから、表面的には「病死」になったそうですが、たった2ヶ月の間に「家族3人が次々と病死した」という例もあって、「本当に病死かよ?」と疑問がわき、これはもう完全にミステリーでした。


 
室内での首吊り自殺の部屋ですが、これが後日売りに出た際、仲介の不動産屋が見学客を連れてきた際、「あんなことが起きて、まだ、四十九日も済んでいないのに、買うつもりなんですか?」とか口がすべってしまいました。
そうしたら、どうやら、この不動産屋、「首吊り自殺」のことを隠して販売していたようで、あとでものすごく怒られました。また、その部屋のオーナー(つまり、自殺した人の遺族)からも会社の方に、抗議の電話が行って、「個人情報だろ! 管理人がそんなこと言うから客が逃げたじゃないか? これが広まったら売却金額が下がるだろ。どう責任を取ってくれるんだ!」と言ったそうです。

この遺族も不動産屋も、義務である「告知事項」を隠して売ろうとしていたのでした。自分たちが犯罪者のくせに、管理人を怒るなんて、お門違いです。

こういう不動産屋が実際にいるので、私は「不動産屋」をまったく信用しません。

さて、「自殺」「殺人事件」などは、まあ、「事故物件でしょ」「売買や賃貸の際は告知事項になる」ということは理解されやすいですが、問題は「孤独死」です。

「孤独死は事故物件なのか?」「告知義務はあるのか?」

これ、ちょっと調べてみましたが、厳密な定義がないようなのです。



これについて公益社団法人全国宅地建物取引業協会連合会(全宅連)は、2020年春に「住宅確保要配慮者等の居住支援に関する調査研究報告書」というのを発表しています。

その内容は、


@ 孤独死については、原則として説明・告知の必要はないものとする。

A ただし、臭気等によって近隣から居住者に異変が生じている可能性が指摘された後に孤独死の事実が発覚した場合には、説明・告知をする必要があるものとする。

B Aの場合であっても、次の借主が、通常想定される契約期間の満了まで当該物件の利用を継続した場合には、貸主はその次の借主に対し説明告知する必要はないものとする。

C 媒介業者は、業者として通常の注意に基づきAの事実を知った場合に限り、上記ABと同等の取り扱いをするものとする。


というものです。



この発表を「いいですね」と評価する人もいるそうですが、私は「どうかなあ?」と疑問を持ちました。
業界団体が作ったものですから、業界に有利なものになるのは当たり前のことで、その点は差し引かないといけません。本来は、客観的組織が「購入客」の立場で検討すべきかと思います。

だた、「孤独死=悪いこと」のように考えるのもよくないのかもしれません。

「自宅で死ねたのは幸せじゃないか?」と感じる人もいます。
「病院でいろいろな機械に繋がれて植物人間になって死ぬよりはよほどいい」と言う人もいます。
「死ぬまでに誰にも迷惑をかけてないじゃないか」という意見もあります。(死んだあとはいろいろな迷惑をかけていると思いますけど)

まあたしかに「人間らしく最期を迎える」という考え方で言うと、「孤独死もいい死に方じゃないのか?」と、見方を変えることも大事かもしれません。


さて、「はっきりした定義がない」という理由は、「孤独死」に関しては「
心理的瑕疵をどうとらえるか」が問題になるからだそうです。

「心理的瑕疵」って、要するに「気にするかどうか?」って話でして、こういうのは「人によって受け止め方が全然違う」ものです。

昔の大映映画「ある殺し屋」では、主人公の市川雷蔵が、「墓場の隣のアパート」を借りますが、大家が「墓場」のことをすごく気にするのに対して、市川雷蔵はまったく気にしていませんでした。

「孤独死」もそういう面があります。



ただ、孤独死って、「死んだあとが問題」です。
死んで日数がかなりたって、かつ、季節が夏で、エアコンをかけてなかったりすると・・・・ 腐敗します。
実際、腐敗臭に気づいた隣室の住民の申告で発見されることが多いのです。この場合、ご近所さんも巻き込んでいますから、「心理的瑕疵」は大きく、「事故物件」扱いになり、当然、告知が必要と考えます。

私が実際に経験した例では、「とりあえずご遺体を運搬して、室内の体液的なものなど軽く掃除したあとに、ご遺族がやってきて、ちゃんと遺品などを調べようと、クローゼットの扉を開けたら、ちょうど大量繁殖したばかりのゴキブリの幼虫が数百匹飛び出してきて、玄関ドアの下の隙間から外部に逃げ出し、マンション中にゴキブリが拡散し、それがまた別の部屋の玄関ドアの下の隙間から侵入し、建物全体が「阿鼻叫喚の地獄」になったことがありました。あれは最悪だったなあ。管理人の責任ではまったくないのに、ものすごく怒られました。
こうなると、「死亡した翌日にはご遺体の措置を行ない、悪臭もなく、ご近所にも知られることなく処理した」としても、「事故物件」になるのではないでしょうか?

不動産業界では「自宅で孤独死した」こと自体を問題にしているのではなく、「その後の部屋の状況」とか「ご近所への影響の度合い」を考慮して、「事故物件かどうか?」と判断している感じです。

「孤独死住居の心理的瑕疵」が争点になった裁判では、「死後4日以上放置された部屋は事故物件になる」という判決が出たそうです。これもひとつの目安になるかもしれません。

といったことを考えると、これから現実の話になりますが、孤独死のあった部屋を売買や賃貸にする場合は、、、、

「その部屋の所有者(遺族 相続者を含む)は、どんな形であれ、孤独死があったことや、事情を仲介の不動産業者には伝えるべき」だと思います。

そして、不動産業者は、聞いたことの裏を取る必要があります。というのも、遺族や相続者は現場のことをよくわかっていないケースが多いからです。孤独死の数カ月後に親族会議で、遠く離れて、亡くなった人との関わりもほとんどない親戚が相続する場合もあります。
ですから、不動産業者は、そのマンションへ行き、まずは、「管理人」に状況を聞きます。さらにご近所にも探りを入れましょう。(ご近所には孤独死したと具体的には言わずに話を聞きましょう)

ここで、そんなに「大きな出来事にはなっていない」「ご近所もほとんど気にしていない」ということでしたら、不動産業者の判断で、「事故物件ではない」として取り扱ってもいいのではないでしょうか? ただ、「近所の皆さんは全員知っていた」「悪臭などの被害もあった」場合は、正直に「事故物件」として取り扱うほうがいいです。悪質な不動産業者がそれを隠して販売しても、新入居の住民に、隣室の情報から漏れる可能性が高いです。

「期間」に関しては、上記のBにも書いてありますが、事故物件であることを、何十年も永久に伝える必要はないわけで、人間は「忘れる動物」でもありますし、私個人としては「4年くらいたったら、孤独死の情報は消去してもいい」のではないかと思います。

とにかく、微妙な問題ですね。不動産屋が誠実に仕事をしてくれることを望みます。