管理人は超つらいよ   
マンション管理最前線

洗濯泥棒  という新種のモンスター出現





 マンション内に何人かいる「モンスター」。そのうちのAさん。今年に入ってから、なんか不可解な行動をするので、ちょっと気になっていました。
 週に2回くらいかな? 午後の1時頃に、なんか大きな黒い袋を、まるでサンタクロースみたいな感じに背負って出かけるんです。そして、午後4時くらいに、また、その袋を持って帰ってきます。
 普通なら、「なんですかそれ?」とでも聞くのでしょうが、相手はモンスター、口も利きたくない相手ですから、そんなこと聞きません。顔を合わせても挨拶しかしません。

 さて、そんな枕がありまして・・・・

 見知らぬ男性が管理室にやってきました。
「洗濯泥棒のことでやってきた」とおっしゃいます。
「はあ、洗濯泥棒? 下着泥棒のことですか? そういえば、昨年の12月にうちでも一件ありましたけど」
「違うよ。洗濯物じゃなくて、洗濯泥棒!」
「洗濯機を盗んだんですか? それは車がないとできないですね」
「そうじゃなくて、洗濯泥棒!」
「はあ??? 私、頭が悪くて理解できません」

 その後、詳しく事情を聞いて、ようやく理解できました。

 この男性は、近所にあるボロアパートの家主でした。そのアパートは私も前を通ったことがあるんですが、昔の長屋みたいな感じで、世帯数は16ほどある、かなり大きなアパートです。そのアパートには、「洗濯室」という部屋があって、そこに、洗濯機と乾燥機が置いてあり、アパート居住者であれば、無料で使えるようになっているそうです。カギもないそうです。アパートというよりも下宿とか寮みたいものらしいです。
 その「洗濯室」に、当マンションの住民である「モンスターAさん」が通っているらしいのです。アパートは勤め人が多く、昼間はほぼ無人なので、洗濯室にもぐりこんでも目立ちませんし、今の人たちは自分の隣の部屋に誰が住んでいるかも無関心ですから、何ケ月も通ってもいままでばれなかったらしいです。
 つまり、「洗濯泥棒」とは、「ただでコインランドリーを使ったようなもの」で、洗濯機を無断で使ったという意味でした。乾燥機も使っているようなので、電気代もけっこうかかってると思われます。

 数ヶ月たって、さすがに気が付かれたようで、「なんか怪しい人が入り込んでいる」という情報を受け、家主さんが、洗濯室を監視し、そこから出たAさんを尾行し、このマンションに入っていくのを見て、「ここの住民だ」とわかったらしく、管理人に苦情を言いに来たんだそうです。

(人物の特徴や持ち物のことを聞いて)「それなら、Aさんに間違いないと思いますよ。でも、泥棒だったら警察に届ければいいじゃないですか?」
「今の警察は腐敗しているからあてにならない」
「それは私もそう思いますが。でも、警察に訴えなくても、本人に直接注意すればいいんじゃないですか? 言ったんですか?」
「いや、言ってない」
「なんでですか?」
「あんなことをする人間は頭がおかしい。注意するとキレて、逆に刺殺されるかも知れないから。とにかく、管理人から、”二度と来るな”と伝えてくれ」
「そんなの私は関係ないですよ。うちの住民が外で何をしようと」
「でも、ここの住民だろ。管理会社に責任があるだろう?」
(また、こういうわけのわからない論理を持ち出すのか、とあきれつつ)
「敷地外のことは、私には関係ないです。業務範囲外です。お引取りください」
と、帰っていただきました。

 いちおう、理事長に「こういう人が来ました。管理組合で対応をお願いします」と手紙を書いておきましたが、毎度同じように何もしないでしょうねえ。「さわらぬモンスターに祟りなし」ですから。
 しかしまあ、洗濯泥棒とは。あきれはてました。自分の家にも洗濯機あるのに。



2011/5